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東京JAZZ 2009(その2)

 土曜日に引き続き日曜日も東京JAZZ 2009に足を運びました。
 今宵は大西順子トリオ、マッコイ・タイナー、それからルー・ドナルドソンらが出演予定で、昨日よりも大きめの期待を抱いて臨みました。
http://www.tokyo-jazz.com/jp/program/index.htmlhttp://www.tokyo-jazz.com/jp/program/index.htmlhttp://www.tokyo-jazz.com/jp/program/index.html

 まずは大西順子トリオ。最近CDを出したばかりで注目されています。確かにピアノの演奏テクニックはすごい。しかし、問題はオリジナル曲ばかりの演奏という点です。技術はすごいのだけど、曲としてどこが良いのかちっとも分からないというのが正直な感想なのです。ジャズはスタンダード・ナンバーをインプロヴィゼーションによって解体していくところに一つの醍醐味がありますが、オリジナル曲を作る多くのジャズ・ミュージシャンたちは、始めから解体された曲を作ってしまっているような気がします。だから、全然メロディアスでもないし、聴いた後でちっとも記憶に残らないような曲になってしまうのです。しっかりした原曲があってこその解体であるはずなのです。この点は、自らのオリジナル曲を作っているジャズ・ミュージシャンたちが突き当たる大きな壁のような気がします。

 次は待ちに待ったマッコイ・タイナージョン・スコフィールドのギターをフィーチャーリングしたものです。ところが、これも期待はずれ。マッコイ・タイナージョン・スコフィールドが全くかみ合っておらず、マッコイ・タイナーの見せ場が全くありませんでした。マッコイ・タイナーは少し手を抜いていたような感じすら受けました。スタンダード・ナンバーを鮮やかに聴かせてくれることを期待していましたが、期待からはほど遠い印象でした。

 ということで少しがっかりしていたところで、次はルー・ドナルドソンです。ルー・ドナルドソンはいきなりモダン・ジャズの王道をいく調子の曲から入り、観客から拍手喝采です。他のお客さんも最初の2組に少し物足りなさを感じていたのでしょう。大きな拍手と歓声でルー・ドナルドソンらの演奏をもり立てます。ルイ・アームストロングで有名な♪What a wonderful world、リズムの早いハード・バップの名曲♪Cherokeeなどが飛び出し、観客もその勢いに圧倒されます。この会場に来て良かったとやっと実感できた瞬間です。
 このルー・ドナルドソンは、よくよく見てみると、ハード・バップの歴史的最高傑作、アート・ブレイキーの「A Night at Birdland」に参加しているのですね。

バードランドの夜 Vol.1

バードランドの夜 Vol.1

 今回の演奏中も、「No Fusion! No Confusion!」と何度も叫んでいた理由がよく分かりました。かつての良き時代のジャズを貫こうという意気込みが伝わってきて、それが観客にもしっかりと通じたのだと思います。

 その後は、今日本のクラブ・シーンで注目を浴びる若手ジャズ・グループ、クオシモードが登場します。乗りの良い演奏は、近年勢いのあるイタリア・ジャズを彷彿とさせるスタイリッシュさを持っています。こういうジャズ・バンドは今後の日本のジャズの一つの方向性かもしれません。

 それから、マンハッタン・ジャズ・クインテットが登場し、♪Bye Bye Blackbirdなどを演奏します。トランペットの響きが大変素晴らしかった。

 最後は、チャイナ・モーゼスが合流して、みんなで♪A Night in Tunisiaで終了。チャイナ・モーゼスの声はなかなかのものでした。これは一度じっくりと聴いてみたいと思わせる素質を持っています。

 ということで、今年の東京JAZZは終わったのですが、どうも大ホールの演奏は(もちろん良い部分もいっぱいあったものの)全体的にはいまいちしっくり来ませんでした。むしろ、他の会場で無料でやっていた演奏の方が素晴らしいものがあったように思います。

 今回、オランダ、フランス、オーストラリアの3カ国のミュージシャンたちがそれぞれの会場で演奏をしていました。私が見たのは日曜日のオランダ会場の演奏でしたが、ロブ・ヴァン・バヴェル・トリオというピアノ、ギター、ベースのトリオ、それからティネカ・ポスマ・カルテットを少しばかり拝見しましたが、両者とも暑い屋外で素晴らしい演奏によって多くの観客を魅了していました。特に、ティネカ・ポスマの♪Body&Soulは、コルトレーンを彷彿とさせる個性的な演奏でとても素晴らしかった。ロブ・ヴァン・バヴェル・トリオもガーシュインのメドレーのようなものの演奏などで、観客を盛り上げていました。このほかにも、フランス会場では、今注目の若手トーマス・エンコが出演していたようで、これも見ておけば良かったと悔やまれます。大ホールの高い金を払って見る演奏よりも、街角の屋外のジャズの方により惹き付けられてしまうというのが、ジャズのジャズらしいところなのかもしれません。

 今年の東京JAZZはいろいろな反省点があったように思います。まず、ミュージシャンたちが自分のオリジナル曲ばかりを演奏するのは避けた方が良いと思います。正直、多くのミュージシャンたちが自分のオリジナルという曲だといって披露した曲の中に素晴らしいと思ったのは一つもありませんでした。せっかくの素晴らしい技術を持っているのに、それをつまらない曲に使うのではなく、どうしていい曲の演奏でそれを生かさないのだろう、と素朴に感じてしまいました。この辺は、フェスティバルのコンセプトにも関わる大きな問題なので、主催者側もよく考えた方が良いと思います。

 また、主催者側の問題としては、まず、フェスティバル全体のプログラムが配られないところに大きな致命的欠陥がありました。普通、会場に入る際に、簡単なプログラムくらいは手渡されてしかるべきでしょう。確かに会場で袋に入った紙の束を渡されるのですが、不要なちらしばかりで、肝心なプログラムが探しても入っていません。どうやら公式ガイドブックとして\1,500もするものを買わせようという魂胆のようです。だから、この公式ガイドブックを購入していない人は、プログラムを知ることができませんし、この公式ガイドブックもどう見たって\1,500の価値はありません。せめて、簡単な1枚程度のものでかまいませんからプログラムを配布して、今誰が演奏しているのかを聴衆に分かるようにしてほしいものです。全くの怠慢としか言いようがありません。

 日本に数あるジャズ・フェスティバルの中でも筆頭格に位置付けられるフェスティバルなのですから、来年以降は今年の運営を大いに反省してもらい、よりよいジャズ・フェスティバルにしていってほしいものです。


P.S.私の理想とするジャズ・フェスは、1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルです。