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「恐怖の報酬」★★★★☆

恐怖の報酬 [DVD]

恐怖の報酬 [DVD]

 アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督による1952年の作品です。中米のむさ苦しい情景の中で男たちが繰り広げる汗くさい映画ですが、双葉十三郎氏が『外国映画ぼくの500本」の中でベスト15に選んでいるくらい、評価の高い作品です。
外国映画ぼくの500本 (文春新書)

外国映画ぼくの500本 (文春新書)

 コルシカ人のマリオ(イヴ・モンタン)は中米のとある町に滞在していたのであるが、いったんこの町に足を踏み入れると、そこから抜け出すためには多額のお金が必要だった。この町は貧しい町だったが、アメリカの石油会社が油田採掘のために進出しており、塀に囲まれたアメリカ人の社会だけが富裕であった。

 そんな中、町から500キロ離れた油田で火災が発生した。その火災を鎮火するためには、ニトログリセリンが必要であったが、それをトラックで油田まで運ぶ必要があった。ニトログリセリンは、ちょっとした衝撃で大爆発を引き起こすので、トラックでそれを運搬することは、命がけの作業であったため、石油会社は運搬に成功した者に対して多額の報奨金をかけたのだった。

 ちょうど多額のお金を求めていたマリオ、マリオと一緒に暮らしていた大工の男ルイジ、それから最近パリから町にやってきたいかがわしい男のジョー、そしてビンバの4人がこの運搬の任に当たることになり、2台のトラックにそれぞれマリオとジョー、ルイジとビンバに分譲して、火災現場まで向かう旅が始まった。

 途中、悪路が続く場所もあったが、急ブレーキを踏んだりすれば、大爆発を起こす危険性があるので、2台とも慎重に運転を続けた。崖から落ちてきた岩が道を塞いでいたり、山道の途中の切り返しのための足場の木が腐りかけていたりして、2台は苦戦するが、何とかそれを切り抜けた。

 途中、怖じ気づいたジョーが

「報酬は運転代と恐怖の代金だ」

と口にするが、多額の報酬はいつ爆発するか分からないという「恐怖」に対する報酬だった。

 しかし、先頭を走っていたルイジとビンバの車が突然大爆発を起こす。マリオとジョーが現場に駆けつけると、ルイジとビンバの車は跡形もなく吹っ飛んでいた。そして、爆発現場には、原油が流れ込んでできた大きな水たまりができつつあり、マリオらの車の行く手を塞いでいた。

 ジョーは原油の水たまりに漬かりながら、トラックを前に進めようとするが、途中、ジョーが足をとられて、動けなくなる。一方、トラックを運転するマリオも、トラックを水たまりの途中で止めれば二度と動けなくなるので、前に進まざるを得ず、ジョーの足がトラックにひかれてしまった。結局、この怪我が原因で、ジョーは火災現場にたどり着く前に命を落としてしまった。

 マリオは結局1人で火災現場にたどり着き、多額の報償を手にして、ラジオから流れるワルツを聴きながら、浮かれた気持ちで町に向かって運転をしていた。町の人たちも、マリオの帰りをワルツを踊りながら待ちわびていた。

 しかし、そんな浮かれたマリオには、あっけない結末が待っていた・・・。


 わずかな衝撃でも車が吹っ飛ぶという設定が、この映画のスリル感を醸成しており、この設定のアイデアこそが映画の核心となっています。終始、手に汗握る場面が続き、最後まで見る側を飽きさせることがありません。

 淀川長治氏が『淀川長治 究極の映画ベスト100』の中で、マリオとルイジはホモセクシャルで、マリオがジョーに夢中になったことからルイジが嫉妬し、その腹いせにルイジが酒場でシャンペンを注文して豪遊するが、ジョーはそれを田舎者と見下し、ジョーとルイジが喧嘩をしたのだ、という見方を述べておられますが、これはなかなか鋭い見方だなぁと思いました。確かに、この映画では、3人の男のホモセクシャルの関係とニトログリセリンの爆発の恐怖が複雑に入り組み、映画に奥深さを与えているのだと思います。

淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)

淀川長治 究極の映画ベスト100 (河出文庫)

 双葉氏が与えた高い評価を決して裏切らない、素晴らしい出来の映画です。