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「没後50年 横山大観―新たなる伝説へ」@国立新美術館

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 国立新美術館で開催されている横山大観の展覧会を見てきました。横山大観といえば、文字どおり日本画の巨匠でありますが、多彩な筆致の絵が集結しており、その幅の広さに改めて驚かされます。

 大観は、「朦朧体」と呼ばれる線ぬきの色彩画の創始者として有名です。19世紀も終わろうとしていた頃、当時大観が慕っていた岡倉天心が大観らを呼んで「空気を描く工夫はないか。」と設問したことが、この画法の創設のきっかけだそうですが、日本画の伝統である線を排して、全面をぼかした色彩中心のこの画法は、当時はあまり評価されなかったとのことです。

 今回の目玉は、重要文化財に指定されている「生々流転」でしょう。40メートルもの長さになるこの絵巻には、万物が移り変わっていく様が壮大に描かれています。細かい部分まで手を抜かず丹念に描かれており、この作品にかける大観の熱意が伝わってきます。

 それからもう1つの絵巻である「四時山水」。これも壮大な作品です。1947年の作品ですから、大観は80歳前後ということになります。白黒のタッチの中で川の水の青色と紅葉の赤色とが色鮮やかに浮かび上がっていて、大変美しい情景が展開していきます。

 その他にも、《山に因む十題》の中の「龍踊る」の荘厳な富士山は、思わずため息がもれるほどの美しさです。大観は現存の絵でも500点近くの富士を描いているそうです。晩年の「霊峰飛鶴」の富士も、荘厳な富士をバックに飛ぶ鶴たちの姿が本当に美しい作品ですし、同じく晩年の「或る日の太平洋」のバックに厳かにたたずんでいる不動の富士も、重みがあります。

 また、《海に因む十題》の中の「春」「夏」「波騒ぐ」なども、その繊細な色遣いによって季節の特性に応じた海の表情の変化が読み取れます。

 島根県に大観の作品を数多く所蔵する美術館を創設した足立全康は、自叙伝の中で、

「大観の魅力を一言で言うなら、着想と表現力の素晴らしさにあると思う。」

と述べているそうですが、今回の展覧会でも実感したのは、大観の取り上げている題材のセンスの良さと、靄や雲海、波しぶきといった漠然とした対象物の表現の絶妙さでした。

 そして、大観の絵が年を追うごとに円熟味を増していることも実感できました。晩年の作品になればなるほど、絵全体の深みが増してきています。大観の絵がいかに精神面に大きく依拠していたが窺えます。

 若い時分から数々の挑戦を試み、晩年も亡くなる間際まで変わり続けた大観の“生き方”に、何よりも心を打たれました。