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「雨に唄えば」★★★★☆

雨に唄えば 50周年記念版 スペシャル・エディション [DVD]

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 サイレントからトーキーへの移行期を舞台に繰り広げられる、ミュージカル映画です。

 こういう映画を見ると、アメリカ文化の“普遍性”というのを感じざるを得ません。ごきげんな唄と踊りによって、魔法にかけられたかのように幸せな気分にさせられてしまいます。

 ドン(ジーン・ケリー)とリナ(ジーン・ヘイゲン)は、サイレント映画界の人気スターで、リナはドンに好意を持っていた。ドンは、ファンから逃れるため偶然飛び乗った車を運転していた舞台女優志望のケーシー(デビー・レイノルズ)から、台詞のない映画はどれも同じに見えると酷評されて傷つく。そんなときに、初のトーキー映画「ジャズ・シンガー」が登場し、大いに人気を博していた。ドンの出演する映画「決闘の騎士」もトーキーを取り入れるが、なかなかうまくいかない。そこで浮かんだのは、トーキーを取り入れたミュージカル映画を制作するという案だった。

 しかし、ドンと共演するリナは美貌を誇り、プライドの高い女優だったが、その姿からは想像のつかないキーキー声で、唄もダメで、トーキー映画には全く向いていなかった。そこで、ドンらは、唄がうまいケーシーの声をリナの口パクの映像にかぶせることとし、これが大いに観客からうけた。

 調子に乗ったリナは、観客の前でお礼のスピーチをするが、映画の声がリナの声でないことがばれてしまう。観客から唄ってみろとそそのかされたリナは、やむを得ず、幕の後ろでケーシーが唄うのに口パクをしてのがれようとしたが、ドンらは幕を上げてリナが口パクをしていたことを暴いてしまった・・・。

 映画で声が吹き込まれているのは今でこそ当たり前のことですが、かつては映像に声をぴったり合わせることは技術的に難しいものだったようです。フィルムと別にレコードを回すという方式も考えられたものの、針が飛んだときのリスクが大きい。そこで、音を光に変えてフィルムの横に焼き付ける「ヴァイタフォン」という技術がドイツで開発され、これが普及していったようです。

 ところが、トーキー映画が出現した当時は、これに対する批判というのも相当大きかったようです。チャップリンがトーキーの波に最後まで抵抗を試みようとしていたことは有名ですし、また、日本でもサイレント映画だからこそ成り立っていた職業である「弁士」の人達も、かつて映画の街だった神田で籠城事件を起こし、警官と衝突するといった事件もあったようです。

 ミュージカルを楽しみながら、そんな映画の歴史の一端を垣間見ることができ、見終わった頃にはハッピーな気分に浸っている・・・この映画は凄いと思いました。