映画、書評、ジャズなど

「カメラを止めるな」★★★★☆

 

カメラを止めるな!  [DVD]

カメラを止めるな! [DVD]

 

今更ではありますが、一時期大きな話題となった作品です。

冒頭、廃墟となった建物を舞台に、少人数の映画クルーたちがワンカットの作品を撮っているという設定。監督自らも熱くなりながら、本当のゾンビが出てきてしまい、関係者が次々とゾンビ化していき、殺されていき、最後は女子1人が生き残るという作品の映像が流れて、前半は終了。

映画は後半へ入ると、前半の作品が撮られる1か月前に時間は遡る。実は、この作品は、新しくできるゾンビチャンネルの目玉として、生中継されるものとして撮られていたのだ。この企画をある映画監督が引き受けた。現場での準備も整い、生中継の時間が近づいてきたのだが、俳優が2人交通事故に巻き込まれて来られなくなったり、ある俳優はアル中でへべれけに。そして、急遽、監督自らが監督役として出演することに。かつて問題のある女優だった監督の奥さんも急遽出演する。

生放送開始後も、様々なトラブルが続出。監督の奥さんも役に入り込み過ぎて手を付けられなくなる。それでも、監督はカメラを止めることなく、その都度、脚本を飛ばしたりしながらして臨機に対応しながら、作品は進んでいく。

生中継は何とか無事終了。現場のドタバタをよそに、ゾンビチャンネルの関係者は、何事もなく企画は成功したと喜んでいる。。。

 

 

この作品に関しては、一部、批判的な意見も見られるようですが、ユニークな作品設定が成功している作品だと思います。ワンカットの作品を撮っていて、そこに監督役がいて、さらに実際の監督がいるという三重構造みたいな設定は、アイデア勝ちですね。こういう複雑なシチュエーションは、映画だからこそできる表現だと思います。

 

前半と後半の組み立ても、あとで前半のシチュエーションの意味がじわじわと分かってくる構成になっており、観客を作品に効果的に引き込んでいると思います。

 

とても楽しめる作品でした。

ダイアナ・クラール@オーチャードホール

先日、ダイアナ・クラールの公演を鑑賞してきました。カナダ出身の女性ヴォーカリスト&ピアニストで、夫はエルヴィス・コステロです。

ジャズ・スタンダード曲を中心に選曲され、♪All or nothing at all, ♪Night and dayなど、とても聞きやすく、分かりやすい内容でした。

しっとりとした深みのあるヴォーカルが何とも言えない上質な雰囲気を醸成していました。女性ヴォーカリストで、あれだけ自然体で力まず無理をせずしっかりとした声で聴衆を魅了できる方は、なかなかいないと思います。正に天性の歌声なのでしょう。

それにしても、オーチャードホールをほぼいっぱいにするだけの集客力のあるジャズ・ミュージシャンはなかなかいません。本当はブルーノート東京くらいのスペースで聴けば、もう少し臨場感があったのかもしれません。

とても贅沢な夜でした。

ダイアナ・クラール | Diana Krall - UNIVERSAL MUSIC JAPAN

 


ダイアナクラールメドレー ♥ The Best Of Diana Krall

「去年マリエンバートで」★★★★

 

アラン・レネ監督の1961年の作品です。修復版が恵比寿で上映されていたので、鑑賞してきました。映画史上最も難解な作品の一つと言われるだけあって、理解するのは至難の業でしょう。というか、理解しようと思って観てははいけない作品だと言えるでしょう。

 

作品の内容を一言でいえば、ホテルを舞台に、男が女に対して「去年お会いしましたよね?」と問いかけ、女が「覚えてない」と答えるのを延々繰り返す話です。そこに、女の夫がしばしば登場し、女を撃ち殺したかと思えば、結局は死んでなかったり。。。

幻想的なオルガンの音色が独特の世界観を醸し出しています。


『去年マリエンバートで』 L'Annee Derniere a Marienbad

 

 

世界シネマの旅〈1〉

世界シネマの旅〈1〉

 

朝日新聞社『世界シネマの旅1』によれば、この作品の脚本を書かれたロブ=グリエ氏に、この作品をわからないという人が多い旨質問したところ、以下のように答えています。

「わかる?『わかる』って何ですか?初めがああで、最後はこうと納得することが、『わかった』ことなんですか?」

「事件は、決して直線的には起こらないんだよ」

「例えば、ケネディ暗殺など、いくら事実をかき集めても、いまだにわからない。」

「映画は人を安心させてやらなくてはならないものなんだろうか」

 

また、当時の映画係のシルヴェット・ボードロさんという方は、以下のように話をしています。

「実は、この映画は『昨年』起きた五日間のできごとと『現在』の七日間のできごとを描いたものなんです」

 そして、ボードロさんによれば、この映画には430のシーンがあり、「昨年」と「現在」の間を行ったり来たりしながら筋が進む、そして、その関係を分かりやすく示したダイヤグラムのような表が存在するのだそうです。

 

男を演じた俳優ジョルジョ・アルベルタッツィ氏も、

「筋はわからない。アラン・レネ監督は、ロケと同じ場面をセットで再現して撮るなど、出演者を混乱させて、筋が分からないようにしていた」

と述べています。

 

つまり、そもそも観客にスムーズにストーリーを追わせようという気が作り手にないわけで、そもそもこの作品を理解しようとして見てはいけないのであり、映像美と雰囲気を楽しめばそれでよいのだと思います。逆に言えば、こういう支離滅裂な世界を映像として描くことは、映画にしかできないことだとも言えるかもしれません。

 

ところで、作品の中で、不思議なゲームがたびたび登場します。マッチ棒を1本、3本、5本、7本と4段に並べ、2人のプレイヤーが順番にマッチ棒を取り除いていき(同じ段なら1回に何本取り除いてもよい)、最後に残ったマッチを取り除くと負けというゲームです。ロブ=グリエ氏は、このゲームを、自分がドイツの捕虜収容所で発明したと思っていたらしいのですが、実は3千年の歴史があるゲームだったそうです。

 

淀川長治さんがこんな言い回しで作品を評価しています。

「酔いながら、心のうちで笑いながら、ひとり、じっくりと楽しめる、名作。」

 

池上敏也「ブルーベリー作戦成功す」

 

『ブルーベリー作戦成功す』

『ブルーベリー作戦成功す』

 

 

 

製薬業界は、どの研究開発が身を結ぶかどうか見通しを立てるのが困難であり、多額の研究開発投資をしても、市販化できるのはほんの一部だというギャンブル的な側面があることが知られています。このため、他社が自社の発明を真似ていれば、差止めや賠償を求めて争いに発展するケースも多いわけです。

 

本書は、知財を扱う資格である弁理士の著者が、そうした医薬品を巡る製薬企業間の争いの特徴をうまくモチーフにして描いた小説です。

 

日本の中堅製薬メーカー青野薬品の研究者である主人公藤城は、会社の稼ぎ頭である医薬品が、独企業の特許権を侵害しているとして、訴えられていることを、上司から伝えられる。同社はその特許権は無効である旨の審判を特許庁に提起しているが、無効が認められるためには、その特許が出願前に公知の技術、すなわちプライヤー・アートが存在する事を証明しなければならなかった。

そんなとき、上司の下に、アードラーと名乗る人物が、プライヤー・アートの提供を打診してきた。アードラーは、タウベという人物をやりとりの窓口として指定してきた。

青野薬品は社運をかけて、アードラーに現金を渡すことにするが、その受け渡しに現れたのは、社員の女性だった。その女性はビルから転落して死亡する。

藤城は、社長からの頼みで、青野薬品の別の虎の子の技術と引き換えに、アードラーを突き止め、プライヤー・アートを入手するために、会社を辞めたことにして、ドイツに単身乗り込んだ。この作戦は、ブルーベリー作戦と名付けられた。藤城は、アードラーを探し出して、タウべが死んだことを伝えようと試みる。

独企業の知財部は、幹部同士が激しき鍔迫り合いを演じていた。藤城は、知り合いのその独企業の知財部の社員を訪ねた。藤城は、独企業に、青野薬品の技術の提供を持ちかけるが、かえって怪しまれることになる。

藤城は、亡くなった青野薬品の女性社員がタウべで、独企業の知財部の誰かがアードラーであると考えていた。そして、独企業の知財部の鍔迫り合いに巻き込まれ、同社の取締役会にも引っ張り出される。

しかし、実は、アードラーもタウべ も、独企業の内部の強硬派を追い落とすために、藤城の上司らが作り出した架空の存在だった。。。

 

 

著者の専門知識を生かしたよくできた作品で、国際的な特許紛争をモチーフに、見事なミステリー作品に仕上がっています。あっという間に読み通すことができました。

 

物語の舞台も、日本、ドイツのみならず、フランスやイギリスにもまたがり、スケールも大きい作品となっています。

 

製薬業界にとっては、主軸の製品が他社の特許権を踏んでいて、販売できなくなるとなれば、会社の命運を左右されることになります。だから、他社の特許権が無効である証拠を死に物狂いで手に入れようとする設定は、ある意味説得力があります。

 

特許についての知識がある読者はもちろんのこと、そうした知識があまりなくても、大変楽しめる作品だと思います。

「グランド・イリュージョン」★★★☆

 

ルイ・レテリエ監督による2013年の作品です。4人のマジシャンがマジックを駆使して次々と金を奪い、FBIを出し抜く作品です。

 

4人はタロットカードに書かれた場所に集められ、“フォーホースメン”というユニットを組んでスーパーマジシャンにのし上がる。ラスベガスのショーでは、観客をパリにワープさせ、パリの銀行から現金を略奪して、観客に配るというマジックを披露した。

次に、ニューオリンズでは、自分たちのスポンサーである富豪の預金口座を、災害の被災者たちの口座に移し替えてしまう。

FBIは彼らを犯罪者として摘発したいが、見破ることは困難だった。そこで、マジシャンたちのトリックを見破ることを生業としていたサディアスの力を借りる。

FBIで捜査を担当していたディランは、インターポールから派遣されたメラニーと共に捜査に当たる。フォーホースメンのアジトを襲撃するも、逃亡される。

さらに、フォーホースメンは、金庫を強奪して、FBIと最後の対決を迎える。盗まれたと思った金庫には夥しい風船が。現金はなぜかサディアスの車に詰められており、サディアスは逮捕される。

ディランは収監されているサディアスに面会に行く。ディランは、実はマジシャンの秘密結社のメンバーであり、フォーホースメンを陰でサポートしていたことを打ち明ける。マジシャンだったディランの父は、昔サディアスに追い詰められ、命を落としていたのだった。。。


グランド・イリュージョン 本予告

 

 

 4人のマジシャンたちが、強い者から巻き上げたお金を弱者に分けていくというストーリーは何とも痛快です。彼らと対峙しているFBIで中心的に捜査に当たっていたディランこそが彼らのサポーターだったという結論も、意表をついて面白い展開でした。

ただ、全体を通じて、どこか説得力に欠ける部分もあったことも事実です。4人の力だけであれだけのマジックを次から次へと披露することは、いくらフィクションといえども違和感を感じてしまいます。古代からマジックを守って来た「アイ」という結社のくだりも、フォーホースマンとの関連性が今一つしっくりきません。一時期ぎくしゃくしていたディランとメラニーが最後恋愛感情を抱くようになるのも、唐突感がありました。カーアクションのシーンも、あまり本筋と関係なかったように思いますし、その結果命を落としたはずのメンバーの1人が、実は死体安置所から奪われてきた死体だったというのも、う~んと思ってしまいます。

 

まぁ、指摘すればいろいろあるのですが、ただ、全体的にゴージャスな映像は楽しめますし、エンターテイメントとしてはしっかり楽しめる作品でした。

「ソイレント・グリーン」★★★★

 

 1973年のチャールストン・ヘストン主演の作品で、2022年の世界を描いたSFディストピアです。

時は2022年。人々は貧困にあえぎ、食料の供給もままならない状況で、人々はソイレント社がプランクトンから製造するソイレント・グリーンという食料の配給に頼っていた。

そんな中、ソイレント社の幹部だったサイモンソンが何者かに殺害された。その捜査に当たってのは、ソーン刑事(チャールストン・ヘストン)だった。ソーンは、ソルという老人と2人で暮らしていた。

ソーンの捜査は大きな力によってことごとく妨害される。

そして、老人ソルは、ソイレント社の隠された秘密を知ることになる。そして絶望のあまり、“ホーム”と呼ばれる安楽死施設に向かう。そこでは、クスリをうたれてリラックスした状態で、かつての美しかった自然の映像に囲まれながら、好きな音楽を聴きながら死を迎えることができる。

ソーンはソルの最期の瞬間に立ち会う。そして、そのままソルの遺体が運ばれる施設に潜入した。そこでは、なんと、ソイレント・グリーンが製造されていた。ソイレントグリーンの原料は人間だったのだ。

ソーンはその後銃撃されてけがを負う。運ばれる際、ソーンはソイレント・グリーンの闇を訴えるのだった。。。


Soylent Green - Trailer

 

 

 この作品では、富豪と暮らす若い女性が“家具”と呼ばれるなど、人間の尊厳が徹底的に否定された世界が描かれています。

人間が人間を食べるという何とも衝撃的な状況なわけですが、この作品を観て思い出すのは、かつて大きな社会問題となった肉骨粉によるBSE問題です。ある意味、牛を共食いさせることで招いた病気なわけですが、同様の事態が人間について描かれると、なおさら衝撃的です。

人口が膨張した世界においてこうしたシステムが構築されることはもちろんあり得ないと思うわけですし、映画ならではの究極的に歪んだ世界が描かれているわけですが、この作品を観ると、そうした世界が絶対にあり得ないという信念が揺らいでしまいます。それくらい、説得力を持って描かれています。

 

こうした架空の状況を説得的に表現できるというのは、正に映画の持つ最大の力であるようにも思います。

 

いろいろ考えさせられる作品でした。

 

 

 

「終電車」★★★★

 

終電車 Blu-ray

終電車 Blu-ray

 

 フランソワ・トリュフォー監督の1981年の作品です。

カトリーヌ・ドヌーヴの演技が光っています。

 

舞台は第二次大戦中のドイツ占領下のパリ。モンマルトル劇場の支配人であり演出家のユダヤ人ルカ・シュタイナーは、劇場の地下に身を潜め、妻のマリオンが支配人兼女優として活動していた。

劇場では、ルカが書いた『消えた女』の上映に向けて稽古が行われていた。新人のベルナールがマリオンの恋人役として起用された。

マリオンは毎晩ルカの下を訪れ、ルカは通気口から聞こえる稽古の音を聞きながら、アドバイスを与えていた。

『消えた女』は好評だったが、唯一ドイツ寄りの批評家ダクシアは辛口の批評を乗せた。ベルナールはダクシアに対し、マリオンに謝るよう喧嘩をふっかけ、それ以降、マリオンはベルナールと口をきかなくなった。

ベルナールは役を降りることをマリオンに告げる。実はマリオンはベルナールに恋心を抱いていたのだった。ルカもそのことを悟っていた。2人は口づけを交わし抱き合う。

やがてドイツ軍が一掃され、ルカも表に出られるようになった。マリオンはルカの演出で再びベルナールと共に舞台に立っていた。。。

 

ラストシーンの演出はトリュフォー監督らしさが光っていました。舞台を降板し去っていったベルナールが入院している病院をマリオンが訪れる。ベルナールはマリオンにもう愛はないので帰ってくれと伝える。そしてベルナールは起き上がり、マリオンと手をつなぎ、看護師たちも手を取り、カーテンコールのシーンへ。病室だと思われたのは、実は舞台の上だったのです。この観客をあっと言わせるラストシーンは、さすがトリュフォー監督です。

 

ずっと暗い雰囲気で来たのが、ラストでパッと明るくなり、とても後味のいい作品でした。