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「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」★★★★

 

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

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シリーズ4作目となる作品です。ハンガリー、ドバイ、ムンバイを舞台に壮大なアクションが繰り広げられ、楽しめる作品です。

 

スパイ組織IMFのメンバーが、ブタペストで、コバルトという人物に渡されるはずだったロシアの核兵器の暗号が書かれたファイルを奪い取ったが、暗殺者サビヌ・モローに殺され、核兵器の暗号が奪われた。

組織はその頃ロシアの監獄にいたイーサンを脱獄させる。イーサンらは、クレムリンに侵入してコバルトの正体を掴もうとするが、クレムリンは爆破され、コバルトの情報は持ち出されてしまう。この持ち出した男は、ヘンドリクスという核兵器の信奉者だった。

イーサンらは、モローのファイルがヘンドリクスの手に渡らぬよう、ドバイのホテルで奪還作戦を開始する。超高層ビルを舞台に作戦は展開され、モローは殺害されたが、ファイルはヘンドリクスの手に渡ってしまう。

舞台はドバイに移り、核兵器の弾頭を無力化することに成功する。。。

 

 

タイトルの「ゴースト・プロトコル」とは、組織自体を存在しないものとみなすということで、つまり、イーサンらの属するIMFという組織自体がないものということになり、イーサンらはあくまで個人的にミッションを遂行したということになります。

ドバイのブルジュ・ハリファでの攻防シーンは圧巻です。トム・クルーズのアクションは正に命がけで、外壁を縄一本で伝って降りたり、ガラスに吸着する手袋でよじ登ったりと、一体どうやって撮影したんだろうと思ってしまいます。

 

こういうエンターテイメント作品は、さすがハリウッドです。

 

とても楽しめる作品でした。

 

 

原田マハ「楽園のカンヴァス」

 

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

 

著者の作品は今回初めて読んだのですが、美術作品に絡んだミステリーで、とても楽しめる作品でした。

大原美術館で監視員をしている早川織絵。娘と母親と3人でひっそりと過ごすシングルマザーであったが、ある日、館長に呼ばれ、NYの美術館MoMAからアンリ・ルソーの絵『夢』の貸出に向けた交渉を任せられた。MoMAのチーフ・キュレーターのティム・ブラウンから織絵を交渉の窓口にするよう指名があったというのだ。

 

話は織絵が若かりし頃に遡る。当時MoMAのアシスタント・キュレーターを務めていた。ある日、伝説の絵画コレクターのバイラ―氏の代理人から、バイラ―氏が所有するルソーの名作を調査するよう、バーゼルに招待するとの手紙が届く。ティムは、自分の上司への手紙が間違って自分あてに送られてきたのではないかと疑いつつも、休暇を取ってバーゼルに向かう。

 

もう一人、バイラ―氏に招待されてバーゼルに来ていたのが、若かりし頃の織絵だった。バイラ―氏が所蔵したのは、MoMAの『夢』と類似の未知の絵だった。ティムと織絵に、ルソーにまつわる物語を順番に読ませ、そのうえで、この作品の真贋を分析してもらい、勝者はこの絵の扱いを自由に委ねられるという条件だった。

物語には、ルソーが恋したヤドヴィガという人妻とその夫が登場する。ヤドヴィガの夫は、ルソーが自分の妻に恋をしていることを知りつつ、ルソーの才能に惚れ込み、ルソーを支援していた。

この勝負の結果、ティムが勝利した。ティムはバイラ―氏から得たこの絵を巡る権利を使って大金を得ることもできたが、バイラ―氏の孫でインターポールに所属するジュリエットにこの絵を託すことにした。

そしてティムはあることに気付いていた。この物語で登場するヤドヴィガの夫こそ、このバイラ―氏であることを。。。

 

多くの天才画家は、売れないまま亡くなってしまい、死後に名声を獲得しているので、実は生前については未知の部分が多いわけですが、だからこそ想像力が掻き立てられ、ミステリーの題材としては適しているように思います。

この作品では、そんな天才画家たちのミステリアスな部分を見事に生かして、素晴らしい物語となっています。

 

物語の時制が現在と物語の中の過去とを行ったり来たりするという構成が大変効果的で、特に、バイラ―氏の提示した物語の中のルソーの記述には、グッと引き込まれます。

 

著者の経歴を見ると、大学時代に美術を専攻され、キュレーターの仕事もやっておられたので、とても現実感があり、物語も隅々まで説得力があります。

また、私個人としてもアンリ・ルソーの作品には惹かれていたので、この作品には強く共感できました。

 

この著者の作品はまた読んでみたいと思います。

「カサンドラ・クロス」★★★★

 

 

カサンドラ・クロス [DVD]

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ジュネーヴの国際保健機構に侵入したテロリストが、誤って細菌に触れてしまい、そのままストックホルム行きの列車に乗り込んでしまい、列車がパニックになるという話です。

 

当初、乗客たちは細菌にまみれたテロリストが乗り込んでいることを知らなかったのだが、その間に、テロリストは多くの乗客たちと接触して、感染が広がってしまう。事態の重大さを認識したアメリカ陸軍の大佐は、乗客が脱出して感染が広がるのをおそれ、列車の停止を許さない。

列車は目的地を変更し、ポーランドに向かって除染されることに。しかし、ポーランドに行くためには、「カサンドラ・クロス」という古びて長年使われていない鉄橋を渡る必要があった。列車が通過すれば、鉄橋は崩壊するおそれがあった。

乗客たちはやがて事態に気付く。列車には防護服に包まれた大量の兵士が乗り込んでくる。

列車がカサンドラ・クロスに向かっていることを知った乗客たちは、兵士に列車を止めるよう訴えるが、兵士たちは権限がないことを理由に拒否。

絶望的になった乗客は、兵士たちと撃ち合いになる。そして、一部の乗客は、列車の車両を切り離すべく、ガスボンベを爆発させた。

列車は、前方部分はカサンドラ・クロスに突入し、橋は崩落し、多くの乗客が川底に転落。後部はかろうじて橋の手前で停車し、助かった乗客たちは列車から逃げていく。

大佐は上司に、列車は川底に転落し、生存者はいないと報告。

大佐が街へ出ていくと、その部下は大佐に見張りを付けたのだった。。。

 

 

伝染すると甚大な被害が予想される状況の中、国家がどう対応すべきか、という難しい課題を孕んだストーリーです。国家としては、隔離政策を選択するわけですが、隔離される側としては、人権侵害を受けるわけです。橋が崩落する危険を知りながら列車を突っ込ませた大佐の行動が一概に悪意に満ちているとまでは言えないわけで、大変難しい状況です。

 

それにしても、ラストのシーンは意味深です。罪の意識に苛まれる大佐に、その部下が尾行を付けるという行為。これをどう解釈すべきでしょうか?その解釈はなかなか難しいですが、いずれにしても、国家の権力の威を借りて大勢の乗客を死に追いやったという一見強い立場の大佐が、案外脆い立場に置かれているというのは、何とも皮肉なことです。

 

ある意味では淡々としたストーリー展開ではありますが、最後まで引き込まれてしまう作品でした。

伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」

 

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

 

著者の「アイネクライネナハトムジーク」が大変良かったので、今更ながら、著者のデビュー作を読んでみました。(以下、ネタばれです。)

 

舞台は荻島という江戸時代から本土から断絶された島。主人公の伊藤は不意に会社を辞めた後、衝動的にコンビニ強盗を犯し、同級生の警官の城山に捕まった後、なぜかこの島に連れられてきたのだった。

荻島には、“優午”というしゃべるカカシがいて、何でも見通していたことから、住民たちの心の拠り所となっていた。警察官はいるものの、実際には桜という男が悪者を射殺することで秩序が成り立っている。反対のことした言わない絵描きの男、足が悪い田中という男。この島には欠けているものがあると言われているが、それが何かは誰も分からなかった。優午は伊藤に対し、田中に“オーデュボン”の話を聞きに行くよう勧める。

田中が言うには、かつてリョコウバトという集団で群れて飛ぶ鳩がいたのが、人間による虐殺で絶滅してしまった。オーデュボンという動物学者は、リョコウバトの壮麗さを残すためにその絵を描いたのだった。

 

あるとき、優午が誰かにバラバラにされる。伊藤がこの島に来る直前にこの島に本土からやってきた曽根川という男も殺害された。誰が優午、そして曽根川を殺害したのか?何でも見通しているはずの優午は自分の死を予測していなかったのか?

伊藤はその謎を解いていく。

実は、曽根川という男は、とっくに絶滅していたリョコウバトを目当てに島に渡って来たのだった。そして、優午は、曽根川の暴挙を阻止するために、島の住民たちを使って、“偶然”に曽根川を殺害させたのだった。

 

本土では、伊藤の元彼女である静香の下には、警察官の城山がやってきていた。元来危険人物であった城山は伊藤を凌辱する計画を立てていたが、伊藤の静香への手紙をたよりに荻島に行くことになり、桜に殺害される。

 

伊藤は手紙の中で、静香のサックスを聴きたいと書いていたため、静香は島へサックスを持って行った。島に欠けていたのは、音楽だった。。。

 

 

以上が本書のあらましです。最初の方は、この小説がどこに向かうのかがさっぱり分からず、なかなかのめり込めなかったのですが、途中からは、ぐいぐいと引き込まれていきました。

現実とファンタジーが融合する感じや、ミステリーの要素が加味されている感じは、どことなく村上春樹氏のテイストに近い感じもします。

粗削りな部分も多いですが、それにしても、物語後半の疾走するような感覚は、その後の活躍を予感させるだけの素晴らしい筆致でした。

 

 

 

浅田次郎「ブラック オア ホワイト」

 

ブラック オア ホワイト (新潮文庫)

ブラック オア ホワイト (新潮文庫)

 

最近文庫化されたのを契機に読んでみたのですが、これが大変面白い!個人的にかなりツボにはまりました。

主人公が久しぶりに再会した旧友都築の自宅に招かれ、彼の商社時代の体験談と「夢」について聞かされるという設定で、その地域ごとの歴史に根差したシチュエーションが夢の中に現れ、都築が巻き込まれます。そして、夢は単に夢で終わるのではなく、現実に反映されており、夢と現実の境界線が揺らぐところが大変よくできています。

 

都築の祖父は旧満鉄理事から商社に招かれ、父親も祖父の元部下であった縁で、都築は同じ商社マンとしての道を選択することとなった。

彼が商社マンとして活躍したのはバブルの時代。都築はスイス、パラオ、ジャイプール、北京、京都での体験を振り返る。

滞在先ホテルで、都築は枕白い枕と黒い枕を出される。白い枕で寝るときはいい夢を見るが、黒い枕で寝るときは決まって後味の悪い夢を見るとともに、その後、現実においても良くない結果が起こったのだった。

 

スイスでは、まず白い枕で、ニューヨークの街を追いかけられ、恋人と一緒に逃げ切る夢を見るが、黒い枕では恋人と喧嘩する夢を見る。そして、現実には、仕事の失敗でロンドンから日本に戻される。

パラオでは、白い枕で恋人と楽しいひと時を過ごした後、黒い枕では、太平洋戦争下で玉砕する夢を見る。

インドのジャイプールでは、黒い枕で、夫の死に当たって火に身を投げようとする女を救い、そして、白魔術と黒魔術が闘う場面の夢を見る。現実には、ODA絡みの仕事の業績を同期に横取りされてしまう。

その後都築は中国の仕事を任される。白い枕では、路地で少女から枕を買い、その少女が大きくなって都築の恋人となって、一緒に豪華な食事をとる夢を見る。他方、その後、部下の中国人スタッフが現地の社長になった夢を見る。現実には、そのスタッフが中国のスパイであることが発覚し、都築自身もスパイ扱いで本社に戻される。

京都では、商談のキーマンである著名なアメリカ人ドクター夫妻をもてなすのだが、侍の生き残りとしてドクターの妻を助ける夢を見る。しかし、ドクターの妻はその後心臓発作で亡くなる。都築はそれがドクターによる謀略であることを知っており、その後まもなく会社を辞めた。。。

 

夢と現実を巧妙にシンクロさせて、その境界を曖昧に描く作者の手法に脱帽します。そして、小説の舞台はグローバルにまたがり、その土地の史実と密接に結び付けながら描く手法はとても洗練されており、実際にバブルの時期に世界を旅している心境を味わえます。

 

そして、元満鉄理事だったという祖父の存在がとてもうまく生かされています。祖父は満鉄から商社に天下ったわけですが、商社の大陸の利権こそが、戦争を引き起こしたという史観がこの小説の根底に流れています。

「大陸への進出は軍部の独走ではなく、財閥の利権を護るためだったと聞いたことがある。・・・それが歴史の真相だとすると、辻褄が合うじゃないか。元大本営参謀が総合商社を率いて活躍したことも、元満鉄理事がうちの会社の役員に迎えられたことも。」

 

久しぶりに印象的な小説に出会いました。

「ファミリー・プロット」★★★★

 

ヒッチコックの1976年の作品です。

霊能者の女ブランチが、富豪の女レインバードから、甥に財産を継がせるために探してほしいとの依頼を受ける。ブランチは付き合っている男ジョージと共に、息子の捜索を開始する。

 

他方、アダムソンはフランという女と組んで富豪を誘拐して宝石を強奪する。

 

ジョージは、かつてのレインバード家の運転手を辿って、レインバードの甥の墓があることが分かる。しかし、その墓には誰も埋まっていないことが分かる。本来死んでいるはずの甥だったのが、宝石を強奪したアダムソンだった。

 

アダムソンらは、ブランチを監禁するが、ジョージが駆けつけ、ブランチを救出する。逆にアダムソンらを閉じ込めたブランチらは、シャンデリアに隠されたダイヤを見つける。。。

 

 

ヒッチコックらしさは随所に出ていたものの、ヒッチコック作品としては、ストーリー的にやや面白みに欠けるかなぁ、というのが率直な印象です。

 

ただ、ブレーキが利かなくなった車で下りの坂道を暴走する場面は、さすがヒッチコックらしい演出でした。

伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

 

伊坂幸太郎さんの短編集です。作品同士が相互につながっているところが魅力的です。

 

「アイネクライネ」は、先輩のミスが原因で夜の街角でアンケートを取っている独身の男の話。アンケートに応じてくれた一人の女性は、ト イストーリーのバズの人形を持っていた。やがて車を運転していると、道路工事で誘導していたのがその女で、出会いの偶然性を感じる。。。

 

「ライトヘビー」は、美容師の主人公が、客の女性から弟と引き合わされる話。女性の弟から度々電話がかかってくるが、直接会ったことはない。ある時、女性に誘われて主人公は女性宅でボクシングの試合を観戦する。そして主人公は、チャンピオンになったボクサーが度々電話を寄越してきた弟であることに気付く。。。

 

ドクメンタ」は、5年に1回開催されるドイツの現代美術の展覧会にかけて、主人公が5年おきの免許更新のたびに遭遇する子連れの人妻の話。主人公もその女性も伴侶が家を出てしまっている。女性の夫は、その口座に謝罪の言葉を振込人名義として百円ずつ振り込んでいた。。。

 

「ルックスライク」は、高校の女教師と生徒の話と、ファミレスの店員と客の関係から交際がスタートした若い男女の話が並行して進んでいく。若い男女はやがて別れてしまうのだが、ラストでは、高校の女教師は、生徒のお父さんと昔付き合っていたことが判明する。。。

 

「メイクアップ」は、主人公が高校時代にいじめられた同級生と社会人になって再会する話。その同級生は主人公の化粧品会社の広告の提案に手を挙げてきたのだが、主人公が同級生であることに気づいていなかった。主人公にとっては復讐のチャンスだったが、結局実行できないのだった。。。

 

そしてラストの「ナハトムジーク」は、「ライトヘビー」で登場したヘビー級ボクサーの試合が、これまでの短編の登場人物と薄っすらと関連づけられながら、振り返られる。。。

 

 

伊坂幸太郎さんの作品は、これまで「重力ピエロ」を読んだことがありましたが、個人的には、奇抜な出来事抜きに日常世界が淡々と進む本作品の方に惹かれました。

 

一見脈絡のない短編が、実は薄っすらと関連性を持っているところがとてもお洒落で、しかも強引さがないところが素晴らしいです。

 

平凡な日々の中にも、実は気づかないような魅力やちょっとした幸福が含まれている、そんな著者のメッセージが込められているのではないか、と個人的には思ってしまいました。

 

かなり良質な短編集だと思います。