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梶谷懐「中国経済講義」

 

 中国経済の現状を中立かつ冷静に分析した良書です。世間には、中国の技術の凄さを強調する論調と、中国の暗部を強調する論調とが、ともすれば両極端に分かれる中、本書は、終始冷静な筆致で分析がなされています。

 

こうした観点から見て、本書で特に興味深かったのは、第6章「共産党体制での成長は持続可能か―制度とイノベーション―」です。著者は、中国の知的財産を巡り3つの層に整理できることを指摘します。

一つ目の層は「プレモダン層」で、知的財産権をまったく無視する層。

二つ目の層は「モダン層」で、ファーウェイやZTEのように、近代的な知的財産権によって、独自の技術をガッチリ囲い込む戦略を採用している層。

三つ目の層は、独自の技術を積極的に開放し、様々な人が関わることでイノベーションを促進していこうとする層。

著者は、これら3つの層が渾然一体となっているのが、深圳のエコシステムの一つの特徴だと指摘します。

また、著者は、深圳における「デザインハウス」の存在にひときわ注目しています。「デザインハウス」とは、無数のプレイヤーが乱立する中で、どの会社と付き合えばよいかについて指南してくれるガイドのような役割を担っています。この「デザインハウス」が、3つの層をつなぎ合わせ、相互に補完するエコシステムを構築しているというわけです。

 

現在の中国のダイナミズムを理解する上で、こうした説明は非常に説得的です。日本人はついつい中国の最先端の部分や遅れている部分に限定して注目しがちですが、総体として見ると、現状をよりを良く理解できます。

 

ただ、いずれにしても強調しておきたいことは、深圳の「モダン層」は、先端技術分野においては、日本企業のはるか先を行っているということです。この事実に目をつぶってはいけないと思います。

 

こうした冷静な中国経済分析が出てくることはて、今後、日本が中国にどのように対応していくべきかを考える上で大きな意義を持つと思います。

 

「ラルジャン」★★★★

 

ラルジャン ロベール・ブレッソン [Blu-ray]

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 ロベール・ブレッソン監督の1983年の作品です。この監督の作品を観るのは初めてですが、いかにもフランス映画といった雰囲気の作品で、冷たく淡々と話が展開されていきます。

 

ガソリンの集金にカメラ屋にやって来たイヴォンは、高校生が友人から渡されて使った偽札をお釣りとしてつかまされてしまい、それをカフェで使おうとして、逮捕されてしまう。

この件で、イヴォンは職を失い、やけくそになって、銀行強盗に加わり、投獄される。

イヴォンには家族がいたが、獄中で娘が亡くなったとの報を受け、妻からも見放されてしまう。

出獄後、イヴォンは、ホテルでオーナーらを次々と殺害。たまたますれ違った婦人の家に居候し、そこでも次々と人を殺めていくのだった。。。

 

 

他人にはめられ、社会に復讐する男の冷酷さが際立った作品ですが、結局、何の救いもなく、最後まで殺人を続けるまま、話は終わってしまい、ある意味、暗く絶望的な作品でした。

 

 

 

 

 

「さよならをもう一度」★★★★

 

さよならをもう一度 [DVD]

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妙齢の婦人役をイングリッド・バーグマンが演じている1961年の作品です。

 

インテリアを手掛けるポーラ(イングリッド・バーグマン)は、トラック販売を手掛けているロジェ(イヴ・モンタン)と長年付き合っていたが、ロジェはポーラとの会食の約束を平気ですっぽかす。

そんなロジェの紹介で、ポーラはある富豪婦人の家の装飾を手掛ける仕事を得る。その婦人の息子フィリップは、ポーラよりはるかに年下だったが、ポーラに惚れ込んでしまう。

ロジェが他の女と泊りがけででかけたのを知り、ポーラはついにフィリップと同居するようになる。しかし、フィリップは、益々ぐうたらな生活を送るようになる。

しかし、ロジェとポーラは再び関係を取り戻すようになり、ポーラはフィリップとの同居を解消する。

ロジェとポーラは同居を始めるのだが、ロジェは相変わらずポーラとの約束をすっぽかすのだった。。。

 

 

この作品の原作は、フランソワーズ・サガンの『ブラームスはお好き』ですが、作品中では、ブラームスの音楽が効果的に使われています。


さよならをもう一度(GOODBYE AGAIN)~マーティ・ゴールド・オーケストラ

 

この作品が公開された当時、イングリッド・バーグマンは40代半ばということになりますが、『別離』や『カサブランカ』などとはまた一味違う、益々洗練された美しさを醸し出しています。

 

ラストの何とも言えない虚無感が印象に残る作品です。

「ナイロビの蜂」★★★★☆

 

ナイロビの蜂 (字幕版)
 

ジョン・ル・カレの原作を映画化した作品です。2005年の公開当時に映画館で鑑賞しましたが、久々に観て、やはりいい作品だと思いました。

 

イギリス外交官のジャスティン(レイフ・ファインズ)はケニアに赴任している。妻のテッサ(レイチェル・ワイズ)も、アーノルドという黒人男性と共に、現地の貧困層の医療問題に取り組んでいた。

しかし、テッサとアーノルドが共に活動で向かった先で、テッサが事故死したという一報にジャスティンは接する。

テッサとアーノルドの関係は、周囲から怪しまれていた。ジャスティンも当初は、2人の関係を疑っていた。しかし、アーノルドは同性愛者であり、テッサと恋に落ちることはあり得ないことをジャスティンは知る。

さらにジャスティンは、テッサは、欧米の製薬企業が、いまだ危険性が払拭されていない医薬品の効果を確かめるために、ケニアの貧しい人々を治験の対象としていたことを突き止め、その問題を政府の高官に直訴していたことを知る。テッサは、ジャスティンに迷惑をかけないよう、ジャスティンに知らせずにこうした活動をしていたのだった。

ジャスティンは、テッサの遺志を引き継ぎ、欧米の製薬企業の横暴を暴いていく。その過程で、ジャスティンは自分の上司も、テッサの活動を妨害していたことを知る。テッサは、製薬業界と政府の利権に手を付けようとして、命を奪われたのだった。

ジャスティンは、テッサが命を落とした場所に赴いた。そして、テッサと同様に、何者かによって命を奪われる。。。

 


The Constant Gardener - Trailer

当初、ジャスティンは妻テッサの不貞を疑っていたのが、次第に、テッサへの疑惑が晴らされていき、テッサが自分を愛していたことを知り、ジャスティンは妻を疑った自分を恥じていく過程が実によく描かれています。

 

ちなみに、原題は“The Constant Gardener”です。ジャスティンは庭いじりが好きな外交官という設定ですので、こういうタイトルが付けられたのでしょう。しかし、外交官でありながら、妻のように社会問題に大した関心を持つわけでもなく、妻が命を落として、その真相を探っていく中で、ようやく庭いじりを超えて、社会問題に関心を抱くようになっていくというジャスティンの成長過程としてこの作品を見れば、非常に奥が深いタイトルのように思います。

 

この作品の魅力の一つは、レイチェル・ワイズの魅力的なキャラクターでしょう。美貌もさることながら、夫に見せる天真爛漫な姿と、その裏で社会問題に鋭く切り込む熱意を併せ持つ難しい役柄をうまく演じています。アカデミー賞では助演女優賞を受賞していますが、大いに納得です。

「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」★★★★


『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』ヘイロージャンプフィーチャレット

ミッション:インポッシブルの最新作を鑑賞してきました。

トム・クルーズのアクションは、やりすぎなくらいエスカレートしており、それだけでも見る価値はあります。ヘイロージャンプと呼ばれる飛行機からの危険なダイビングシーンなどは見ごたえがあります。

 

トム演じるイーサン・ハントは、盗まれたプルトニウムを回収するというミッションを与えられる。手掛かりが少ない中、ジョン・ラークという男とホワイト・ウィドウという女がパリで会うことを知り、イーサンらは急遽パリへ向かう。

CIAはイーサンの動向を警戒し、ウォーカーを監視役としてイーサンに同行させるが、しばしばイーサンとぶつかる。

数々の障壁を克服しながら、イーサンらは、プルトニウム爆弾の起爆を阻止する。。。

 

 

アクションシーンだけ見れば、おそらくこれまでのシリーズの中でもダントツかもしれません。パリの凱旋門でのカーチェイスノルウェーのプレーケストーレンの断崖絶壁でのヘリコプターを巡る壮絶な格闘シーンなどは、想像を絶するアクションで、トム・クルーズでなければできないアクションでしょう。

 

正直、ストーリーは無駄にややこしくなっていて、いただけません。アクションを見せるのであれば、もっとわかりやすくシンプルなストーリーにしておいた方が良かったように思います。

 

それでも、この素晴らしいアクションシーンだけでも、必見の作品と言えます。

「続 忍びの者」★★★★

 

続 忍びの者 [DVD]

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『忍びの者』の続編です。

前作では、信長によって伊賀忍者が滅ぼされ、石川五右衛門は忍者から足を洗って、マキと幼い子供とともに穏やかに過ごしていた。しかし、そんな五右衛門らを襲撃し、五右衛門は愛する一児を無残に殺害される。

五右衛門は、信長にしぶとく抵抗を続けていた雑賀の一向一揆のもとを訪れ、信長への反撃に向けた共闘を開始。

五右衛門は、信長から冷遇されていた明智光秀をけしかける。光秀は豊臣秀吉が遠征に出ている隙を狙い、信長のいる本能寺に奇襲をかける。五右衛門は最後、信長と対峙し、残酷に信長を殺害する。

その後、秀吉は、雑賀の一向一揆に猛攻撃をかけ、一向一揆をせん滅させ、マキも命を落とす。

五右衛門は秀吉側に捕らえられ、熱湯風呂によって処刑されることに。。。

 

 

昭和に作られた時代劇だけあって、今では考えられないほどの残酷なシーンがたびたび登場します。中でも、五右衛門が信長を殺害するシーンは、手足を切り落としていく残忍な描写となっています。

忍者映画という響きから想像されるようなエンターテイメント的な要素はなく、主役の市川雷蔵のさわやかな雰囲気とは対照的な重苦しい空気が始終漂う映画ですが、逆にリアリティが感じられます。おそらく、戦国時代のいくさはこんなむごたらしい感じだったのでしょう。

 

「忍びの者」★★★★

 

忍びの者 [DVD]

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1962年の山本薩夫監督の作品です。主役は市川雷蔵シリーズものですが、その最初の作品です。忍者映画ではありますが、戦国時代を忍者として生きる人々の集落を舞台にリアリティがある作品です。

 

忍者の石川五右衛門は、百地三太夫を頭領とする忍者の集団に属しており、三太夫の寵愛を受けていた。三太夫の悲願は、信長の暗殺だった。

同じ忍者の集団の藤林長門守も信長の暗殺を狙っており、両者は競合関係にあった。

五右衛門は三太夫の若い妻と不倫関係となり、それを女中らに目撃されていた。三太夫の妻は井戸に転落して死亡。五右衛門は自分が三太夫の妻を殺してしまったと思う。三太夫は、五右衛門が信長の暗殺に成功すれば許すとのこと。

五右衛門は信長の暗殺のために向かった堺で遊女のマキと知り合い、結婚を申し込む。

五右衛門は、三太夫の妻の死が三太夫の殺害によるものであることを知る。

三太夫はマキをも人質にとり、五右衛門に信長の暗殺をけしかける。五右衛門はあと一歩のところで信長を暗殺するところだったが失敗。信長は忍者の集落を逆に攻撃する。

三太夫は殺された。五右衛門は殺害された三太夫の遺体を見て、三太夫がもう一つの忍者集団藤林長門守の頭領も兼ねていたことを知ったのだった。。。

 

 

最後のどんでん返しにはあっけにとられました。ラストのシーンでマキのもとに笑顔で走っていく五右衛門の姿は、とても後味がよく清々しかったです。

五右衛門のキャラクターは決して魅力的というわけではありませんが、最後に五右衛門が卑劣な三太夫に勝利するストーリー展開は痛快で、とても楽しくさせられる作品でした。