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「人生万歳」★★★★☆

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 ウディ・アレン監督のユーモア・センスが炸裂している2009年の作品です。次々と沸き起こる破天荒な展開に抱腹絶倒といった感じです。原題は“Whatever Works”です。

 ボリス(ラリー・デヴィッド)は、かつてコロンビア大学の物理学者だった初老の男で、いつもくどい自説をまくし立てている頑迷な性格の持ち主で、かつて飛び降り自殺を試みたが、偶然助かってしまったという過去を持つ。

 ある日、南部から家出してきた若い女性メロディ(パトリシア・クラークソン)が家に転がり込んできた。ボリスはいやいやメロディを居候させるが、そのうち、ボリスはメロディからの求婚を受け入れ、2人は結婚する。

 そこに、メロディの母親マリエッタが転がり込んでくる。夫のジョンが自分の友人と駆け落ちしてしまったとのこと。マリエッタはコラージュ・アートに目覚め、ボリスの2人の友人の男たちと意気投合し、やがて3人で同居し始める。

 そこに夫のジョンも転がり込んでくる。ジョンは妻と寄りを戻そうとするが、あるバーで知り合った男に、実はゲイであることを隠して結婚していたことを告白。2人はゲイ・カップルとなる。

 メロディも母親が勧める若い俳優の卵と恋に落ちる。

 失意のボリスは再度飛び降り自殺を試みたが、またしても見知らぬ女性の上に落ち、助かってしまう。しかも、怪我をした女性と恋に落ちる。

 こうして成立した多くのカップルたちが、年越しにボリスの家に集まって、幸せな時間を過ごしているだった。。。

 ボリスが画面に向かって観客に話しかけてくる手法は、いかにもウディ・アレン監督らしい演出です。手を洗うときに時間を測るために♪Happy Birthdayを2回歌うという几帳面なボリスのキャラクター設定も、ウディ・アレン監督らしいセンスが現れています。ボリスのうんちく話にも、ウディ・アレン監督らしい知性がちりばめられています。

 それぞれの登場人物たちが、それぞれに人生の悩みを抱えながらも、前向きに新しい道を見出していくストーリーはとても痛快で、観る人を幸せな気分にさせてくれます。そういう意味で、『人生万歳』という邦題は作品の雰囲気を良く表しているように思います。

 ある意味で、ウディ・アレン監督の真骨頂ともいうべき作品でした。

マイケル・ルイス「ブーメラン 欧州から恐慌が返ってくる」

 『世紀の空売り』が大変リアリティに富んで面白かったので、その続編ともいうべき本書を読んでみました。

 前作はサブプライム・ローンのショートにかけていた投資家たちの話でしたが、本書では、国家の破綻にかけるヘッジファンドの経営者がまず登場します。ギリシア、アイルランド、イタリア、スイス、ポルトガル、スペインといった国のCDSに加えて、日本とフランスのCDSが投機対象になっているという話は、少々背筋が寒くなります。

 本書では、ヘッジファンドが破綻にかけている国々であるアイスランド、ギリシア、アイルランドといった国々が取り上げられています。

 まずはアイスランドはもともと漁師の国でしたが、あるとき、漁師に漁獲高を割り当てる制度を導入し、その権利が証券化されていきました。やがて漁師たちは金融取引に手を出すようになり、アイスランドは、次第に金融の国へと移っていきます。金融の収入が漁業の収入を上回っていったのです。
 こうしてアイスランドでは、これまで金融の経験がなかった人たちが金融に携わっていくようになります。右肩上がりに価値を高めていく資産を、借りた金で可能な限り買い集める、これがアイスランド人がアメリカ型金融から学んだ最大の知恵でした。こうしてアイスランド人は多額の海外資産を手にします。
 あるヘッジファンド運用者は次のような説明をしていたとのこと。

「きみは犬を飼っていて、わたしは猫を飼っている。それぞれの価値は十億ドルということで、わたしたちは同意する。きみはわたしに犬を十億ドルで売り、わたしはきみに十億ドルで猫を売る。これでわたしたちは、もうペットの飼い主ではなく、十億ドルの資産を持つアイスランドの銀行だ・・・」

 これがアイスランドの金融の実態だったわけです。

 こうしてヘッジファンドと化したアイスランド国家は破綻します。


 そして、次はギリシア。とにかく多額の借金を抱えており、政府職員の給与が多額です。しかも、国家予算の管理もずさんで、随所にでたらめが発覚します。徴税体制もずさんで、国民は税金をごまかすことに慣れています。
 著者はある修道院を訪ねます。このヴァトペディ修道院は、資産価値のない湖と官有地を交換したとして、ギリシア政府が転覆した際に問題となりました。ヴァトペディ修道院は、建物の修復のための財源を不動産で調達しようとしたのです。これも、ギリシア政府の資産管理能力を象徴する件といえるでしょう。

 次はアイルランド。賃貸価格から乖離した不動産価値の高騰によって、空前のバブルが生じます。銀行も不動産投資に巨額の資金を貸し付けます。政府は銀行の返済を肩代わりしたため、国家は破綻することになります。

 対照的なのはドイツです。国内においてはモラルをわきまえつつ堅実な行動をとりつつも、海外の銀行にはお金を貸してきたため、大きな損失を被ることになります。本書によれば、ドイツの銀王は、アイスランドアイルランドの銀行、そしてアメリカの各種のサブプライムローンに多額の資金をつぎ込んでおり、ギリシア国債もかなり抱えているとのこと。リスクを冒しているわりには、銀行員たちの給与はそれほど高くなかったというのはドイツ人らしいのかもしれません。

 本書では、最後にアメリカのカリフォルニア州ヴァレーホという破産した町が取り上げられます。

 本書を読んで、とにかく著者のマイケル・ルイス氏の体当たりの取材に感銘を受けます。各国の首脳にインタビューを試みたり、ギリシアの修道院に取材に行ったりと、バブルがなぜ起こり、なぜ破綻したのかを解明するために、その鍵を握るプレイヤーたちに直接取材をすることで、当時の雰囲気を浮かび上がらせようという意気込みを感じます。

 バブルが発生する背景には、もちろん、マクロ的な経済状況が大きく作用しているわけですが、マイケル・ルイス氏の本書や前作を読んでみると、それを支えた政府やヘッジファンドの関係者など、個々のプレイヤーが大きく作用していることがよく分かります。バブルの生成や崩壊に寄与しキーマンとなった「誰か」がちゃんといるわけです。

 臨場感溢れる本でした。