映画、書評、ジャズなど

石原慎太郎「-ある奇妙な小説-老惨」

 

文學界2018年7月号

文學界2018年7月号

 

文學界の7月号では、村上春樹氏の書下ろし短編3本が掲載されていることは、先日の記事でも取り上げたところですが、同じ号で石原慎太郎氏が小説を発表されています。死期を悟った老人の周囲との会話を描いたものですが、これはどう見ても、石原慎太郎氏本人の心境を描いたものです。

作品では、三島由紀夫西部邁ら自ら命を絶った同士への言及があったり、家族に見守られつつ死にたいという願望が表明されていたり、人生において死線を超えてきた体験、米国の出版社からの版権購入のオファーを無視してしまったことへの後悔などなど、石原氏本人の本音であることが窺えるようなエピソードが多々出てきます。ジャズにまつわるエピソードも登場しているのも興味深い点です。

 

以下の主人公の言葉に、石原氏の現在の心境が凝縮されているような気がします。

「そして間もなく俺は死ぬ。人間の最後の未知、最後の未来を知ることになるのだが、その時果たしてそんなにそれを意識して味わうことが出来るものかな。最後の未知についてはもの凄く興味はあるが、それについてはその時点ではどう知ることも出来はしまい。それだけは悔しいがね。」

 

ご高齢でありながら、いまだに現役バリバリの作家として作品を世に問い続けている姿勢には頭が下がる一方、普段強気な石原氏のやや弱気な内面が垣間見られる点が興味深い、そんな作品でした。

 

必読の作品です。

 

 

 

「ジョーズ」★★★★☆

 

ジョーズ [DVD]

ジョーズ [DVD]

 

スピルバーグ監督による1975年の作品で、映画ファンでなくとも誰しもが知る作品です。

改めて見直してみると、とても迫力ある映像で、当時としてはいかに画期的な作品であったかが分かります。

 

米国の田舎の海岸で鮫に襲われる事件が多発する。警察署長のブロディは人々の安全を守るために遊泳禁止を主張するが、海水浴シーズンを目前に観光へのダメージを気にする市長は、必要以上に鮫が取り上げられるのを嫌い、遊泳を禁止しようとしなかったため、新たな被害者が出ることになる。

ブロディは、海洋学者のフーパ―と共に、漁師のクイントの船に乗って、鮫退治に海に出る。激しい攻防の末、クイントは鮫に襲撃され、船は沈没する。残った2人は鮫と激しい攻防の末、ようやく鮫を退治した。。。

 

その音楽はあまりに有名です。


ジョーズBGM

 

単なる鮫退治のストーリーだけでなく、鮫出没への対応を巡る行政内部の意見の対立が描かれている点が面白いです。

 

スピルバーグ監督が28歳のときの作品ですが、迫力ある映像を見ると、既に大物監督の片鱗を十分に見せているように思いました。

プーシキン美術館展@東京都美術館

pushkin2018.jp

 上野の東京都美術館で『プーシキン美術館展』を鑑賞して来ました。超一級のフランス絵画が展示されており、特に牧歌的な自然の風景を描いた作品が多く、とても楽しめました。

 

目玉は、クロード・モネの『草上の昼食』です。自然の中で寛ぐ貴族たちの幸せな時間が切り取られている感じです。

ルノアールの『庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰』、ポール・ゴーガン『マタモエ、孔雀のいる風景』やアンリ・ルソーの『馬を襲うジャガー』も見逃せません。

セザンヌの作品も数点あり、いずれの素晴らしかったです。

その他、個人的には、

・クロード・ロラン『エウロペの掠奪』

・ジャン=バティスト・マルタンナミュール包囲戦』

エドゥアール=レオン・コルテス『夜のパリ』

が印象的でした。

 

これも見逃せない展覧会の一つです。 

 

村上春樹「三つの短い話」

 

文學界2018年7月号

文學界2018年7月号

 

文學界の7月号に村上春樹氏が3つの短編が掲載されています。

 

最初の短編は『石のまくらに』。主人公が学生時代にレストランでバイトしていた頃に一夜を共にした年上の女性の話。その女性は、いくときにほかの男性の名前を叫ぶかもしれないと事前に言って、実際に他の男の名前を口にしてタオルを噛んだ。そして後日、自分が書いた短歌の本を送って来た。。。

 

二つ目の短編は『クリーム』。主人公がかつて一緒にピアノを習っていた女子から、突然演奏会の招待状を受け取る。あまり気が進まない中、花束を買って会場に向かうが、その建物は鍵がかけられていた。その後立ち寄った公園で、見知らぬ老人から、

「時間をかけて手間を掛けて、そのむずかしいことを成し遂げたときにな、それがそのまま人生のクリームになるんや」

と言われる。。。

三つ目の短編は『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』。主人公はかつてある雑誌に、チャーリー・パーカーアントニオ・カルロス・ジョビンと残した録音が発見されたという想定で文章を寄稿したという話。もちろん、2人が共演したなんて嘘であるわけだが、ある日主人公がNYで中古レコードやに入ると、なんとかつて自分がでっちあげたのとほぼ似たような演奏が収められたレコードが置いてあった。主人公は最初は買うことを躊躇したが、再度買うためにその店に行くと、そんなレコードはないと言われた。。。

 

個人的には、三つ目の短編が一番面白かったですね。パーカーとジョビンの競演なんて、ジャズファンにとっては、考えただけでもとてもわくわくしてしまいます。

 

3つの短編のいずれも、深い余韻を残すもので、さすが村上春樹氏です。

レイラ・スリマニ「ヌヌ」

 

ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫)

ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫)

 

 パリに住む共働きの夫婦が、完璧なベビーシッター(ヌヌ)と巡り合い、夫婦それぞれが自分たちのやりたい仕事ができるようになった最中に、ヌヌに子供たちを殺害されてしまうという話です。

冒頭で、いきなり、ヌヌが子供たちを殺害する場面が出てきて、その後、そこに至るまでの経緯が描かれるという構図です。

ヌヌのルイーズは、ミリアムとポール夫妻の子供たちを献身的に見守り、ルイーズが家庭に入ってきたことによって、家庭は格段に整理されるようになり、夫妻も思う存分仕事に打ち込めるようになるのですが、その反面、妻のミリアムは、子供たちの相手をすることが億劫になるという面も見られるようになってきます。ルイーズが子供たちの信頼を得れば、本来は夫妻は自らの仕事に打ち込めるようになり、ハッピーな方向に向かうはずであるにもかかわらず、逆に、ミリアムは子供たちの面倒を見ることが億劫になってくる面も見られるようになっていきます。

そんなわずかなズレが最終的に悲惨な結果を招くことになるのですが、物語では、その原因ははっきりとした形で示されているわけではありません。なので、読み終わった後に、必ずしもすっきりしない部分も残ります。

 

しかし、この物語では、ヌヌという存在を通して、今のフランス社会のある種の歪みが浮き彫りになっているように思います。文章表現もなかなか工夫されていて、読みごたえはあります。

 

現代社会に対してある種の警鐘を投げかけている小説であるように思いました。

ルーヴル美術館展@国立新美術館

ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか|企画展|展覧会|国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO

国立新美術館で開催されている「ルーヴル美術館展」を鑑賞してきました。

古代から近代に至るまでの幅広い時代の一流の美術品が展示されており、予想以上に圧倒されました。

古代エジプトの展示品は、アレクサンドロス大王の肖像など、正に教科書で見たことがあるような作品がずらりと並んでいた感じです。

ルイ14世やナポレオンの肖像や彫刻も多数揃っています。

大理石の彫刻は、布の質感まで伝わってくるものばかりで、その高い技術に感心させられます。

「ブルボン公爵夫人、次いでブーローニュおよびオーヴェルニュ伯爵夫人ジャンヌ・ド・ブルボン=ヴァンドーム」と題する彫刻は、腐敗した女性の死骸で、大腸がむき出しになっていて、ウジ虫が湧いているという衝撃的でインパクトのある彫刻でした。

このほか、印象的だったのは、

・ジャック=ルイ・ダヴィッドと工房《マラーの死》

・ヴェロネーゼの《美しきナーニ》

・アントワーヌ=ジャン・グロの《アルコレ橋のボナパルト

・アントワーヌ・ヴェスティエの《画家の妻と子どもの肖像》

エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの《エカチェリーナ・ヴァシリエヴァナ・スカヴロンスキー伯爵夫人の肖像》

といった辺りでしょうか。

 

こうした素晴らしい展覧会が開催できるのも、主催者である日本テレビルーヴル美術館に永年に渡り支援してきた経緯があるのではないかと思います。

 

とにかく、ため息の連続という感じで、素晴らしい作品が勢ぞろいしているような印象でした。もう一回くらいは見ておきたい展覧会でした。

纐纈歩美@Lydian

小川町にあるLydianというジャズライブハウスに足を運んでみました。

http://jazzlydian.com/

割と最近開店したお店のようで、こういうお店があることを知らなかったのですが、神田の大衆居酒屋として有名な「みますや」の隣のビルの地下にあります。

 

この日は、纐纈歩美(as)田中菜緒子(p), 安田幸司(b)というメンバーでした。台風が近づいていて雨が降る中でしたが、それでも多くの聴衆が来店していました。

 

演奏された曲は、半分がスタンダード、残り半分は纐纈歩美さんのオリジナルといった感じでした。とてもセンスの良い選曲だったように思います。♪For Heven's Sakeや♪You Go to my Headなどのスタンダードももちろんよかったのですが、纐纈歩美さんのオリジナル曲も案外素敵な曲でした。

 

あまり余計なMCもなく、淡々と曲が演奏されていくスタイルは、個人的には好きでした。田中菜緒子さんのピアノもとても素敵でした。

 

音楽もさることながら、ビジュアル面でも素敵なライブでした。