映画、書評、ジャズなど

「レッド・スパロー」★★★★☆


映画「レッド・スパロー」TVCM15秒(ドミニカ編)

ジェニファー・ローレンス主演のスパイ映画です。ジェニファー・ローレンスの体を張った演技もさることながら、ストーリにいくつもの工夫が施されており、最初から最後までのめりこんでしまいました。最近観た映画の中ではいちばんおもしろかったです。

 

レッド・スパローは、ロシアの女スパイ集団のことで、特殊な訓練を受け、時にはハニートラップも仕掛けます。

ボリジョイ劇場で主役を張っていたドミニカは、ステージ上の怪我でバレリーナ人生を断たれてしまう。宿舎からも退去を求められ、体の不自由な母親を養う必要がある中、叔父のワーニャはドミニカをスパイの道に誘う。

養成所に入ったドミニカは、早速反政府の人物の殺害現場に立ち会ってしまい、この道から抜けられなくなる。

 

そんなとき、米国CIAのネイトからロシア側のスパイ、通称モグラを聞き出すミッションを与えられる。ブダペストで2人は接近するが、ネイトはドミニカがスパイであることを見抜く。いつのまにか、ドミニカは米国にシンパシーを寄せるようになり、ロシア側の諜報活動を妨害することに。

これがばれて、ドミニカはロシア政府から激しい拷問を受ける。そして、叔父のワーニャに、再度ミッションを完遂するチャンスを与えてもらう。

ドミニカは再びネイトに接近するが、そこにロシアの諜報員が現れ、ネイトを拷問する。ドミニカは一旦はそれに加担するふりをするが、結局、ロシアの諜報員を殺害し、ネイトを助ける。

 

怪我を負ったドミニカの前に現れたのは、ロシア諜報機関のトップだった。彼はドミニカに、自分がモグラであることを告白し、自分がモグラであることをロシア政府に伝えるよう促す。

ドミニカは本国にモグラの名前を伝える。そのモグラとドミニカは互いに引き渡されることに。そのとき、ロシア側から引き渡されたモグラは。。。

 

ドミニカはロシアの諜報機関で順調に出世していく。。。

 

おそらく、ドミニカは、ネイサンや米国に好意を抱いていたわけで、多くの視聴者は、ドミニカが米国にあっさり寝返る結末を予測したと思うのですが、ドミニカは、

米国へのシンパシーを抱きながら、ロシアに残り、その中で出世していく道を選びます。しかも、自分の叔父をあっさりろ売ってしまうわけです。正直、この結末には衝撃を受けました。

 

ドミニカ役にジェニファー・ローレンスをあてたことはとてつもなく大正解だったと思います。冷徹に大胆に行動する一方、女心も覗かせる難しい役どころを見事に演じています。

 

とにかく素晴らしく面白い作品でした。

 

デービッド・アトキンソン「新・生産性立国論」

 

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論

 

 

最近活発に観光政策などについて発言されている著者が、生産性向上に向け提言されている本です。かなり共感できる内容でした。

 

著者の主張は、人口減少社会を迎える日本では、生産性向上が急務であり、そのための方策として、①企業数の削減、②最低賃金の段階的な引き上げ、③女性の活躍を挙げています。

 

著者は日本の生産性が驚くほど低いことを指摘しますが、その背景としていくつか興味深い点を指摘しています。

例えば、利益と生産性の混同です。人件費と設備投資を削れば短期的に利益は増えますが、付加価値やイノベーションは損なわれます。

さらに、効率性と生産性の混同についても指摘されています。効率がいいからといって生産性が高いとは限らないという指摘はその通りだと思います。

 

また、著者は日本における「高品質・低価格」への信奉を厳しく批判します。これは、生産性の低さをごまかす屁理屈であり、労働者が精魂込めて作ったものを安く売ることで、労働者の能力や労力に見合った給料をもらえなくなる要因だというわけです。

 

そして、日本の経営者の無能を指摘している部分も痛快です。著者は人口減少社会で経営者が賃金を下げたことを糾弾します。労働組合の弱体化もその背景として指摘されます。。。

 

 

以上が本書の指摘の概要ですが、こうした著者の説明は、とても説得力があります。大企業は空前の内部留保を抱えながらも、それを労働者の賃金に反映しようとしません。かつてアメリカでフォーディズムを提唱したヘンリー・フォードは、労働者は消費者でもあり、労働者の賃金を上げることが、ひいては製品の需要を増やすことを理解していました。アトキンソン氏の指摘もそうしたフォーディズムの考え方と通ずるものがあると思います。

 

日本では一時期、新古典派経済学の影響から、価格が下がることを良しとし過ぎた嫌いがあります。しかし、そうした風潮がその後のデフレの傾向を助長した面があるように私は思います。

 

とても共感できる内容の本でした。

 

 

「シェイプ・オブ・ウォーター」★★★☆


『シェイプ・オブ・ウォーター』日本版予告編

先日アカデミー作品賞を受賞した作品を鑑賞してきました。声が出ない主人公の女性が半魚人と恋する大人のラブファンタジーで、これまでにないジャンルの作品といえるかもしれません。

 

しゃべることができないイライザは、極秘の研究を行う施設の清掃員として働いていた。その施設にアマゾンの奥地で神として崇められていた半魚人が運び込まれる。粗暴な性格の半魚人であったが、イライザは不思議と心が通じ合った。

ところが、半魚人は解剖されることになったため、イライザらは半魚人を施設の外部に連れ出すことに。イライザの自宅の浴室でかくまうとともに、イライザと半魚人は恋を育む。

しかし、半魚人が弱ってきたため、イライザは大雨の日を見計らって、半魚人を海に返すことにする。施設の警備責任者がそれを追って、海に戻る直前に、半魚人とイライザを撃つ。半魚人は瀕死のイライザを抱えて海に飛び込んでいった。。。

 

ギレルモ・デル・トロ監督は、この作品の中で、阻害されてきた人たちを前面に描いています。声のでないヒロインであるイライザや半魚人を始め、清掃員の同僚の黒人女性、ゲイの老人などなど。

監督自身もメキシコ出身ということで、そうした生い立ちがこの作品のコンセプトに反映されているように思います。

こうした監督の思いは大変共感できるものの、もう少しキャラクター設定に深みがあれば良かったかなという気もします。

 

ファンタジーでありながら、ヒロインのヌードや自慰行為のシーンなど、大人のテイスト満載なところは、斬新です。

「スリー・ビルボード」★★★★☆


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

2017年のアメリカ映画です。

アメリカの田舎町を舞台にした人間ドラマなのですが、憎悪と共感で揺れ動くが人々の感情の描き方が絶妙で、アッと言わせられる展開でありながら、説得力があります。

 

娘をレイプの上焼き殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、道路沿いの3つの看板(ビルボード)を借りて、警察署長を非難する広告を掲載する。

警察署長のウィロビーは、自分に対する誹謗だとして広告の撤去を求めるが、ミルドレッドの意思は固い。ウィロビーは自分が膵臓癌の末期癌であることを伝えるものの、ミルドレッドはそれを承知で署長を非難していたのだった。

ミルドレッドに対する圧力や嫌がらせも続く。勤め先のギフトショップの店長も逮捕される。ミルドレッドの息子の友人からも嫌がらせを受ける。ミルドレッドに看板を貸したレッドも圧力がかかる。ミルドレッドはレッドから追加の広告費用を求めらるが、ちょうど匿名で追加費用がレッドのもとへ送られてきたため、ミルドレッドは広告を継続することができた。

そんな中、ウィロビーは自ら命を絶つ。家族とミルドレッドに手紙が残されていた。そこに書かれていたのは、ミルドレッドの追加の広告費用の送り主がウィロビーであったという事実であった。

 

ウィロビーの部下のディクソンは、レッドを2階から突き落とし怪我を負わせた。そして、ディクソンは、後任の警察署長から解雇されてしまう。ディクソンはウィロビーからの手紙を署内で読んでいた時、そうと知らないミルドレッドは警察署に火炎瓶を投げ込み、ディクソンは大火傷を負う。

 

ディクソンは入院するが、隣のベッドにいたのは、ディクソンが投げ落としたレッドだった。レッドはディクソンに気づいたが、それでも火傷を負ったディクソンにオレンジジュースを渡す。

 

ディクソンはある酒場で、隣の客が自分のレイプ話を自慢しているのを聞く。その状況がミルドレッドの娘の事件に酷似していたため、ディクソンは車のナンバーを控えるとともに、その男の顔を引っ掻いてDNAを採取する。それをミルドレッドにも伝えたのだったが、結局別人であることが判明。その男は、同じ時期にイラク戦争に行っていたのだった。

 

しかし、ディクソンはこの男を殺しに行くことを決意する。そのことをミルドレッドに伝えると、彼女も同調する。2人は一緒に車でその男を殺しに向かう。ディクソンは火炎瓶を投げ込んだのがミルドレッドであることは重々承知だった。2人は、男を本当に殺すかどうかは道々決めていこうと話し合う。。。

 

本当によく出来た脚本だと思います。一見すると、殺された娘の仇を討つ母親と、犯人捜査に消極的な警察、という正義vs悪の構図のようにも見えるのですが、事はそう簡単ではありません。ウィロビーが実はミルドレッドの広告を支援したり、ディクソンが警察を解雇された後も犯人逮捕に向けて尽力したり、レッドが自分に怪我を負わせたディックに優しさを見せたりすると、なおさら善悪の構図が分からなくなってしまいます。娘を殺害されたミルドレッドすら、本当に善人なのかよくわからなくなります。

 

しかし、そんな善悪を明確に決められないという真実こそ、映画の作者が伝えたかった点ではないかと思います。被害者は怒りを抱くのは当然でありますが、その怒りの矛先が向けられた警察が必ずしも悪者というわけではないのは当然です。

 

社会には寛容さが必要だというメッセージを、私はこの作品から感じ取りました。

 

最後、ミルドレッドとディクソンの殺意が車の中で次第に揺らいで行き、作品中始終ムスッとした顔をしていたミルドレッドの顔に笑顔が浮かんだシーンは、とても救われた気持ちにさせられました。

 

とても素晴らしい作品でした。

乃南アサ「しゃぼん玉」

  

しゃぼん玉 (新潮文庫)

しゃぼん玉 (新潮文庫)

 

2004年に刊行された純文学です。著者の作品を読んだのは初めてしたが、田舎の人情味溢れる情景がとてもうまく表現された作品です。

 

都会でひったくりを繰り返し、若い女性を刺してしまった伊豆見翔人は、トラック運転手を刃物で脅しながら、宮崎の田舎に逃げ込んできた。降ろされた場所でさまよっていると、バイク事故でケガをした老婆から声をかけられた。

老婆を助けた翔人は老婆の家に居候することになる。どうやら翔人は、老婆の孫と間違えられている感もあった。若者が少ない田舎村で、翔人は何かと頼りにされた。もうすぐ平家祭りが近づく中、翔人は仕事にその準備手伝いに駆り出された。

そんな中、翔人はこの田舎村に戻って来た美知という若い女性と知り合う。翔人は美知のことを意識するのだが、美知が自分が刺した女であることを知る。一人の女性の運命を狂わせてしまったことに、翔人は深く衝撃を受け、自首することを決意する。

刑期を終え、翔人は再びこの村に戻って来た。老婆はまだ元気だった。翔人は昔のようにこの村に再び受け入れられたのだった。。。

 

人生はしゃぼん玉だと投げやりに考えていた翔人が、田舎の人間味溢れた人情に触れる中で人間性を取り戻し、自分が犯した罪を償おうという気になっていく過程が、とてもよく描かれています。

若かりし一時期、社会に反旗を翻したり、やけくそになりたくなる衝動に駆られた人は多いと思います。しかし、そんな気持ちを克服して、大人になるにつれて、やがて人との絆の大切さを感じるようになり、大きくなっていくわけです。翔人が田舎の人情に触れてそんな成長を経験したことに共感した読者は多かったのではないかと思います。

 

著者の他の作品も読んでみたくなりました。

 

「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」★★★★

 

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

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シリーズ4作目となる作品です。ハンガリー、ドバイ、ムンバイを舞台に壮大なアクションが繰り広げられ、楽しめる作品です。

 

スパイ組織IMFのメンバーが、ブタペストで、コバルトという人物に渡されるはずだったロシアの核兵器の暗号が書かれたファイルを奪い取ったが、暗殺者サビヌ・モローに殺され、核兵器の暗号が奪われた。

組織はその頃ロシアの監獄にいたイーサンを脱獄させる。イーサンらは、クレムリンに侵入してコバルトの正体を掴もうとするが、クレムリンは爆破され、コバルトの情報は持ち出されてしまう。この持ち出した男は、ヘンドリクスという核兵器の信奉者だった。

イーサンらは、モローのファイルがヘンドリクスの手に渡らぬよう、ドバイのホテルで奪還作戦を開始する。超高層ビルを舞台に作戦は展開され、モローは殺害されたが、ファイルはヘンドリクスの手に渡ってしまう。

舞台はドバイに移り、核兵器の弾頭を無力化することに成功する。。。

 

 

タイトルの「ゴースト・プロトコル」とは、組織自体を存在しないものとみなすということで、つまり、イーサンらの属するIMFという組織自体がないものということになり、イーサンらはあくまで個人的にミッションを遂行したということになります。

ドバイのブルジュ・ハリファでの攻防シーンは圧巻です。トム・クルーズのアクションは正に命がけで、外壁を縄一本で伝って降りたり、ガラスに吸着する手袋でよじ登ったりと、一体どうやって撮影したんだろうと思ってしまいます。

 

こういうエンターテイメント作品は、さすがハリウッドです。

 

とても楽しめる作品でした。

 

 

原田マハ「楽園のカンヴァス」

 

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

 

著者の作品は今回初めて読んだのですが、美術作品に絡んだミステリーで、とても楽しめる作品でした。

大原美術館で監視員をしている早川織絵。娘と母親と3人でひっそりと過ごすシングルマザーであったが、ある日、館長に呼ばれ、NYの美術館MoMAからアンリ・ルソーの絵『夢』の貸出に向けた交渉を任せられた。MoMAのチーフ・キュレーターのティム・ブラウンから織絵を交渉の窓口にするよう指名があったというのだ。

 

話は織絵が若かりし頃に遡る。当時MoMAのアシスタント・キュレーターを務めていた。ある日、伝説の絵画コレクターのバイラ―氏の代理人から、バイラ―氏が所有するルソーの名作を調査するよう、バーゼルに招待するとの手紙が届く。ティムは、自分の上司への手紙が間違って自分あてに送られてきたのではないかと疑いつつも、休暇を取ってバーゼルに向かう。

 

もう一人、バイラ―氏に招待されてバーゼルに来ていたのが、若かりし頃の織絵だった。バイラ―氏が所蔵したのは、MoMAの『夢』と類似の未知の絵だった。ティムと織絵に、ルソーにまつわる物語を順番に読ませ、そのうえで、この作品の真贋を分析してもらい、勝者はこの絵の扱いを自由に委ねられるという条件だった。

物語には、ルソーが恋したヤドヴィガという人妻とその夫が登場する。ヤドヴィガの夫は、ルソーが自分の妻に恋をしていることを知りつつ、ルソーの才能に惚れ込み、ルソーを支援していた。

この勝負の結果、ティムが勝利した。ティムはバイラ―氏から得たこの絵を巡る権利を使って大金を得ることもできたが、バイラ―氏の孫でインターポールに所属するジュリエットにこの絵を託すことにした。

そしてティムはあることに気付いていた。この物語で登場するヤドヴィガの夫こそ、このバイラ―氏であることを。。。

 

多くの天才画家は、売れないまま亡くなってしまい、死後に名声を獲得しているので、実は生前については未知の部分が多いわけですが、だからこそ想像力が掻き立てられ、ミステリーの題材としては適しているように思います。

この作品では、そんな天才画家たちのミステリアスな部分を見事に生かして、素晴らしい物語となっています。

 

物語の時制が現在と物語の中の過去とを行ったり来たりするという構成が大変効果的で、特に、バイラ―氏の提示した物語の中のルソーの記述には、グッと引き込まれます。

 

著者の経歴を見ると、大学時代に美術を専攻され、キュレーターの仕事もやっておられたので、とても現実感があり、物語も隅々まで説得力があります。

また、私個人としてもアンリ・ルソーの作品には惹かれていたので、この作品には強く共感できました。

 

この著者の作品はまた読んでみたいと思います。