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主人公の高田健一(高倉健)は、ちょっとした諍い毎をきっかけに長年息子の剛一と連絡が途絶えていた。そんな中、息子の妻理恵(寺島しのぶ)から、剛一が癌であることを知らされる。知らせを受けた健一は病院を訪れるが、剛一は父親に会おうとしなかった。
理恵は健一に剛一が登場するビデオを見せる。そこには、中国の雲南省を訪ね地域の演劇を研究する剛一が撮影した映像があった。そこに登場していたのが劇の第一人者の李加民。彼は剛一に対し、次に来た時には『単騎、千里を走る。』を演じることを約束していた。
この映像を見た健一は、剛一のために自分ができることは、自ら中国に行って李加民が『単騎、千里を走る。』を演じるのを撮影して持ち帰ることしかないと思い、単身、中国雲南省に渡る。
剛一が訪れた際にガイドを務めた邱林に会うが、李加民は刑務所の中にいることが分かった。健一は、他の人の劇を撮影するのでは意味がないと考え、李加民が演じることにこだわり、滞在期間を延長してねばり強く交渉を重ねた。その結果、刑務所の幹部が健一の熱意を受け入れ、刑務所内で李加民に劇を演じることを許可した。
ところがいざ劇を演じる段になって、李加民は自分の息子と会いたい気持ちを抑えられなくなり、演じられなくなってしまった。
健一は李加民の故郷の村に向かい、李加民の息子を連れてくることを決意する。村では健一は温かい歓迎を受ける。李加民の息子を父親に会わせるために連れ出すことになったが、途中、その息子は逃げ出してしまう。その後を追う健一はようやく息子に追いつく。2人は急な崖の下で一夜を過ごし、2人の間には心の交流が芽生えていた。
翌朝2人は村人たちに発見される。健一は李加民の息子に再度父親に会いたいか確認してもらい、その気がないことが分かると、健一を連れて行くことを諦めた。
旅の途中、日本の理恵から何度か電話があり、剛一が『単騎、千里を走る。』にそれほど思い入れがない旨を伝えられる。そして、剛一が亡くなったことを健一は旅先で知ることになる。健一も李加民に劇を撮影することには、もはやこだわっていなかったが、李加民の希望を受け入れてようやく劇を撮影することになった。。。
健一は結局、剛一に映像を持ち帰ることはできませんでしたが、旅先での人びととの交流を通じて、息子とのつながりを幾分でも取り戻すことができたことに充実感を感じているように思います。最後に高倉健が海辺で寡黙に佇む場面は、この役者さんの存在感の大きさを表しているように思います。言葉を語らなくても、言わんとしていることが伝わってくる、、、この点にこそ高倉健の凄さがあるのだと思います。
高倉健がチャン・イーモウ監督の作品に出ることを決めるまでには、相当の時間を要したそうです。劉文兵氏による『証言 日中映画人交流』という本の中で、著者が高倉健にインタビューを行っています。
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「そういうところにね、中国人の持っている、何て言うのかな、心意気と言うんですか。文化と言うんですか。ああ、人の持っている想いの大切さ、あの映画の中で張芸謀が言おうとしたことは、これなんです。」(p55-56)
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「やっぱり張芸謀は、自分のやるべきことをぐっと掴んでいったということですね。だから、人の運っていうのは分からないですけど、張芸謀っていう不思議な青年に最後は動かされたっていうのがあります。商売とか政治とかを抜きにして、純粋にいいものを撮ろうとしていたからでしょうね。」(p54)
張芸謀にどんな映画を作ってほしいかと聞かれた高倉健は、次のように述べています。
「やっぱり一つは“大きな声で言わない”っていうような映画を作ってほしいね。(中略)僕がなぜ、『初恋のきた道』に感動したのか。それは、小さな声で囁いたからだ。僕、そっちのほうが好みだね。あれは、なかなかできない技ですよ。(中略)いつも「ウワー!」とか大声でやるのはね、みんなが簡単にできちゃいますよね。しかし、『初恋のきた道』のあの技はね、張芸謀以外、誰にも出せない。「あなたにはそういうものをやり続けてほしい」と僕は彼に何十回も言いました。」(p63)
この言葉に、高倉健さんの映画観が滲み出ているような気がします。
最後に、「不器用」なイメージに対する高倉健の言葉を紹介しておきます。
「僕、自分では不器用だとは思っていませんけどね。生命保険会社のCMで、「不器用ですから」ってコピーあてられてね。僕は何か、世間では不器用な人間だと思われているから。そんなことはない。僕は充分、器用に生きているつもりだけど。」(p71)
日本映画界を長年支え続けられた大俳優のご冥福を心よりお祈りいたします。