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西山圭太「DXの思考法」

 

 久々に目から鱗な衝撃を受けた大変刺激的な本です。

DXの本質を「レイヤー構造」というキーワードから読み取る分析と言ってもよいでしょう。著者の幅広い見識をフル活用して書かれたものなので、決して簡単に理解できる代物ではありませんが、間違いなく最先端の産業構造分析です。

 

著者は、デジタル化の本質を「抽象化」として捉えています。これは、かつての日本の産業の成長を支えてきた「タテ割り」の発想を打ち砕くもので、汎用的に課題を解こうというアプローチと言えます。

それから、著者は、「インダストリアル・トランスフォーメーション(IX)」後の新しい産業のエコシステムを「レイヤー構造」と表現しています。これまでの産業構造は、機器ごとに別々のピラミッド構造のシステムが存在していたのが、共通のレイヤーが積み上がり、データの交換やソフトウェアによる課題解決ができるようになっているというわけです。著者は以下のように述べています。

「こうしてレイヤーの増加と解ける課題の多様化、高度化とがセットで進んできたのが、デジタル化の歴史である。」(P66)

こうしたレイヤーが増えると、イノベーションにもつながります。そして、AIを活用したソフトウェアを使って、様々な課題解決にもつながります。

こうしたアプローチは、アリババの戦略の発想とも共通すると著者は指摘します。著者によれば。アリババは「計算処理基盤」と「データ解析」という2層のレイヤー構造から成っているとのこと。そして、このAPIによってレイヤーを増やすことで、製造業をレイヤー構造に変えていったのだということです。この部分はアリババも出資している「ルーハン」という企業が担っています。こうした構造をルーハンは「レイヤーケーキ」と呼んでいるのだそうです。

ネットフリックスは、クラウドサービスなどを活用してレイヤーを積み上げ成功した企業と言えます。つまり、

「レイヤーが積み重なって、ビジネスの全体をソフトウェアでコントロールできるようになった

という状況がネットフリックスに起こっているわけです。

 

本書では他にも多くの貴重な示唆が含まれているのですが、著者の鋭い思考を分かりやすく書き下すことは至難の業です。アーキテクチャの考え方、インディア・スタックの話、ドイツのレファレンス・アーキテクチャ(RAMI4.0)の分析、ダイセルという企業による実践等々。

近年の産業構造を本書以上に深く鋭く分析したものは見当たりません。

 

多くのビジネスマンに読まれるべき本だと思います。