映画、書評、ジャズなど

「砂の器」★★★★★

 

<あの頃映画> 砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]
 

松本清張原作で1974年に野村芳太郎監督の作品で、脚本を橋本忍山田洋次が担当しています。まだ根強い出自に関わる偏見が日本社会で残る中で起こった悲劇ともいうべき殺人事件を鮮やかに描いており、犯人が壮大なオーケストラの奏でる場面と幼い犯人が父親と放浪する生い立ちの場面のコントラストが、この作品を日本映画史上に残る傑作としているように思います。

 

国鉄蒲田駅の操車場において死体が発見される。身元の手掛かりは、本人とその知り合いが立ち寄ったバーのホステスが聞いたズーズー弁と「カメダ」という言葉のみであった。

事件を担当する今西刑事(丹波哲郎)と若手刑事の吉村刑事(森田健作)は、東北の亀田という地名の場所を訪れるが、何も手掛かりは得られなかった。

しかし、吉村は、バーのホステスが中央線の夜行列車から白い紙吹雪をまき散らしていたことを知り、犯行時の衣服を隠滅したのではないかと推測する。そのバーのホステスは間もなく失踪する。

一方、被害者の息子が突如現れる。被害者は島根県でで刑事をした三木謙一という人物だった。息子によれば、三木は伊勢参りに向かったものの、東京に行く予定はなかったとのこと。

今西は、ズーズー弁が出雲地方にもあり、そこに「亀嵩」という地名があり、かつて三木が亀嵩の駐在であったことを突き止める。

今西は急遽、亀嵩に飛ぶ。聞き込みを続けると、三木は正義感溢れる人物であり、人に恨みを買うようなところは全く見当たらなかった。

そんな中、ホステスの高木理恵子が流産で死亡する。その家に訪れていたのが、音楽家の和気英良であった。和気はこれからを期待される若手音楽家ホープであり、有名政治家の娘と婚約していたが、高木理恵子はその情婦だったのだ。

 やがて、亀嵩の駐在時代、子供のなかった三木が、放浪していた親子の子供を引き取って育てようとしていたことが判明する。親子の出自も判明する。もともと石川県の山村で生活していたのであるが、父親がハンセン病にかかり、母親が去り、父子だけが村を追われるようにして放浪の旅に出て、行き着いたのが亀嵩だった。そこで父子の面倒を見たのが三木だったが、父親は療養所に入ることになり、残された子を引き取ることにした。しかし、間もなく、子供は失踪してしまう。その子供こそが、その後音楽家として大成した和気であった。

三木は、伊勢参り行った際に立ち寄った映画館で、行方不明となった息子が音楽家の和気であることを知り、急遽上京して面会したのだった。

こうして、和気に逮捕状が出される。警察の捜査会議で今西がこうした経緯を報告する。ちょうどその頃、和気は「宿命」と題する一大交響曲の初演を熱演していた。。。

 

この作品の見どころは、最後、和気が交響曲を演奏するのと同時並行で、今西が捜査会議で報告するシーンでしょう。今西は、和気の生い立ちを淡々と報告しますが、和気が父親の病気のせいで差別を受け、寒い中を放浪しなければならず、いじめを受けるなどして、いかにつらい思いをしてきたかが、映像とともに報告されます。それと同時並行で、成功者としての和気の堂々たる演奏が進んでいきます。このコントラストによって、これだけ才能ある人が出自や身内の病気という理由だけで差別を受けなければならないという当時の日本社会の理不尽さが如実に浮かび上がってきます。

 

Wikiによれば、この作品を作るに当たっては、集客が困難といった理由で反対もあり、なかなか順調には進まなかったようです。橋本忍も当初は内容がつまらないと感じたようで、黒澤明も、シナリオを読んで一蹴したそうです。

しかし、結果的には大ヒットにつながり、原作者の松本清張も小説では絶対表現できないとして高く評価したというのが、興味深い点です。

 

GW初日に大変いい作品を鑑賞できました。