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「去年マリエンバートで」★★★★

 

アラン・レネ監督の1961年の作品です。修復版が恵比寿で上映されていたので、鑑賞してきました。映画史上最も難解な作品の一つと言われるだけあって、理解するのは至難の業でしょう。というか、理解しようと思って観てははいけない作品だと言えるでしょう。

 

作品の内容を一言でいえば、ホテルを舞台に、男が女に対して「去年お会いしましたよね?」と問いかけ、女が「覚えてない」と答えるのを延々繰り返す話です。そこに、女の夫がしばしば登場し、女を撃ち殺したかと思えば、結局は死んでなかったり。。。

幻想的なオルガンの音色が独特の世界観を醸し出しています。


『去年マリエンバートで』 L'Annee Derniere a Marienbad

 

 

世界シネマの旅〈1〉

世界シネマの旅〈1〉

 

朝日新聞社『世界シネマの旅1』によれば、この作品の脚本を書かれたロブ=グリエ氏に、この作品をわからないという人が多い旨質問したところ、以下のように答えています。

「わかる?『わかる』って何ですか?初めがああで、最後はこうと納得することが、『わかった』ことなんですか?」

「事件は、決して直線的には起こらないんだよ」

「例えば、ケネディ暗殺など、いくら事実をかき集めても、いまだにわからない。」

「映画は人を安心させてやらなくてはならないものなんだろうか」

 

また、当時の映画係のシルヴェット・ボードロさんという方は、以下のように話をしています。

「実は、この映画は『昨年』起きた五日間のできごとと『現在』の七日間のできごとを描いたものなんです」

 そして、ボードロさんによれば、この映画には430のシーンがあり、「昨年」と「現在」の間を行ったり来たりしながら筋が進む、そして、その関係を分かりやすく示したダイヤグラムのような表が存在するのだそうです。

 

男を演じた俳優ジョルジョ・アルベルタッツィ氏も、

「筋はわからない。アラン・レネ監督は、ロケと同じ場面をセットで再現して撮るなど、出演者を混乱させて、筋が分からないようにしていた」

と述べています。

 

つまり、そもそも観客にスムーズにストーリーを追わせようという気が作り手にないわけで、そもそもこの作品を理解しようとして見てはいけないのであり、映像美と雰囲気を楽しめばそれでよいのだと思います。逆に言えば、こういう支離滅裂な世界を映像として描くことは、映画にしかできないことだとも言えるかもしれません。

 

ところで、作品の中で、不思議なゲームがたびたび登場します。マッチ棒を1本、3本、5本、7本と4段に並べ、2人のプレイヤーが順番にマッチ棒を取り除いていき(同じ段なら1回に何本取り除いてもよい)、最後に残ったマッチを取り除くと負けというゲームです。ロブ=グリエ氏は、このゲームを、自分がドイツの捕虜収容所で発明したと思っていたらしいのですが、実は3千年の歴史があるゲームだったそうです。

 

淀川長治さんがこんな言い回しで作品を評価しています。

「酔いながら、心のうちで笑いながら、ひとり、じっくりと楽しめる、名作。」