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池上敏也「ブルーベリー作戦成功す」

 

『ブルーベリー作戦成功す』

『ブルーベリー作戦成功す』

 

 

 

製薬業界は、どの研究開発が身を結ぶかどうか見通しを立てるのが困難であり、多額の研究開発投資をしても、市販化できるのはほんの一部だというギャンブル的な側面があることが知られています。このため、他社が自社の発明を真似ていれば、差止めや賠償を求めて争いに発展するケースも多いわけです。

 

本書は、知財を扱う資格である弁理士の著者が、そうした医薬品を巡る製薬企業間の争いの特徴をうまくモチーフにして描いた小説です。

 

日本の中堅製薬メーカー青野薬品の研究者である主人公藤城は、会社の稼ぎ頭である医薬品が、独企業の特許権を侵害しているとして、訴えられていることを、上司から伝えられる。同社はその特許権は無効である旨の審判を特許庁に提起しているが、無効が認められるためには、その特許が出願前に公知の技術、すなわちプライヤー・アートが存在する事を証明しなければならなかった。

そんなとき、上司の下に、アードラーと名乗る人物が、プライヤー・アートの提供を打診してきた。アードラーは、タウベという人物をやりとりの窓口として指定してきた。

青野薬品は社運をかけて、アードラーに現金を渡すことにするが、その受け渡しに現れたのは、社員の女性だった。その女性はビルから転落して死亡する。

藤城は、社長からの頼みで、青野薬品の別の虎の子の技術と引き換えに、アードラーを突き止め、プライヤー・アートを入手するために、会社を辞めたことにして、ドイツに単身乗り込んだ。この作戦は、ブルーベリー作戦と名付けられた。藤城は、アードラーを探し出して、タウべが死んだことを伝えようと試みる。

独企業の知財部は、幹部同士が激しき鍔迫り合いを演じていた。藤城は、知り合いのその独企業の知財部の社員を訪ねた。藤城は、独企業に、青野薬品の技術の提供を持ちかけるが、かえって怪しまれることになる。

藤城は、亡くなった青野薬品の女性社員がタウべで、独企業の知財部の誰かがアードラーであると考えていた。そして、独企業の知財部の鍔迫り合いに巻き込まれ、同社の取締役会にも引っ張り出される。

しかし、実は、アードラーもタウべ も、独企業の内部の強硬派を追い落とすために、藤城の上司らが作り出した架空の存在だった。。。

 

 

著者の専門知識を生かしたよくできた作品で、国際的な特許紛争をモチーフに、見事なミステリー作品に仕上がっています。あっという間に読み通すことができました。

 

物語の舞台も、日本、ドイツのみならず、フランスやイギリスにもまたがり、スケールも大きい作品となっています。

 

製薬業界にとっては、主軸の製品が他社の特許権を踏んでいて、販売できなくなるとなれば、会社の命運を左右されることになります。だから、他社の特許権が無効である証拠を死に物狂いで手に入れようとする設定は、ある意味説得力があります。

 

特許についての知識がある読者はもちろんのこと、そうした知識があまりなくても、大変楽しめる作品だと思います。