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梶谷懐「中国経済講義」

 

 中国経済の現状を中立かつ冷静に分析した良書です。世間には、中国の技術の凄さを強調する論調と、中国の暗部を強調する論調とが、ともすれば両極端に分かれる中、本書は、終始冷静な筆致で分析がなされています。

 

こうした観点から見て、本書で特に興味深かったのは、第6章「共産党体制での成長は持続可能か―制度とイノベーション―」です。著者は、中国の知的財産を巡り3つの層に整理できることを指摘します。

一つ目の層は「プレモダン層」で、知的財産権をまったく無視する層。

二つ目の層は「モダン層」で、ファーウェイやZTEのように、近代的な知的財産権によって、独自の技術をガッチリ囲い込む戦略を採用している層。

三つ目の層は、独自の技術を積極的に開放し、様々な人が関わることでイノベーションを促進していこうとする層。

著者は、これら3つの層が渾然一体となっているのが、深圳のエコシステムの一つの特徴だと指摘します。

また、著者は、深圳における「デザインハウス」の存在にひときわ注目しています。「デザインハウス」とは、無数のプレイヤーが乱立する中で、どの会社と付き合えばよいかについて指南してくれるガイドのような役割を担っています。この「デザインハウス」が、3つの層をつなぎ合わせ、相互に補完するエコシステムを構築しているというわけです。

 

現在の中国のダイナミズムを理解する上で、こうした説明は非常に説得的です。日本人はついつい中国の最先端の部分や遅れている部分に限定して注目しがちですが、総体として見ると、現状をよりを良く理解できます。

 

ただ、いずれにしても強調しておきたいことは、深圳の「モダン層」は、先端技術分野においては、日本企業のはるか先を行っているということです。この事実に目をつぶってはいけないと思います。

 

こうした冷静な中国経済分析が出てくることはて、今後、日本が中国にどのように対応していくべきかを考える上で大きな意義を持つと思います。