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多和田葉子「胡蝶、カリフォルニアに舞う」

 

文學界2018年7月号

文學界2018年7月号

 

 これまた文學界7月号からですが、多和田葉子氏の短編がとてもユニークで、何とも言えない不思議な読後感を残してくれる作品でした。

 

主人公Iは、留学がうまく行かず、家族に内緒で米国から帰国し、迎えに来た優子に勧められるがままに、優子の家に転がり込む。翌日はある企業との採用面接が予定されていた。

翌日、Iは中央線に乗り込み面接に向かう。女性専用者に乗ってしまうが、なぜかIは女に見られていた。

面接先の社長室に入ると、別室に向かうように言われる。白い壁には、炊飯器に関する意味不明な話をする米国人が登場して辟易する。

 

Iが目を開けると、そこは米国に向かう飛行機の中だった。。。

 

 

とても不思議な「多和田ワールド」が繰り広げられています。

荒唐無稽でシュールな描写が次々と展開されていき、キツネにつままれた思いで鬱憤が募っていくのですが、最後の場面で、そうした感情がスーッと抜けていく感覚がとても爽快です。

 多和田氏の小説は、過去に「雪の卒業生」を読みましたが、ホッキョクグマを主人公とする3つの物語はいずれもとてもシュールです。



ドイツを拠点に世界中を行き来する著者ならではのシュールな世界観は、荒唐無稽であるものの、読者の心をつかんで離さない魅力があります。

 

それにしても、文學界7月号は、とても“当たり”です。