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石原慎太郎「-ある奇妙な小説-老惨」

 

文學界2018年7月号

文學界2018年7月号

 

文學界の7月号では、村上春樹氏の書下ろし短編3本が掲載されていることは、先日の記事でも取り上げたところですが、同じ号で石原慎太郎氏が小説を発表されています。死期を悟った老人の周囲との会話を描いたものですが、これはどう見ても、石原慎太郎氏本人の心境を描いたものです。

作品では、三島由紀夫西部邁ら自ら命を絶った同士への言及があったり、家族に見守られつつ死にたいという願望が表明されていたり、人生において死線を超えてきた体験、米国の出版社からの版権購入のオファーを無視してしまったことへの後悔などなど、石原氏本人の本音であることが窺えるようなエピソードが多々出てきます。ジャズにまつわるエピソードも登場しているのも興味深い点です。

 

以下の主人公の言葉に、石原氏の現在の心境が凝縮されているような気がします。

「そして間もなく俺は死ぬ。人間の最後の未知、最後の未来を知ることになるのだが、その時果たしてそんなにそれを意識して味わうことが出来るものかな。最後の未知についてはもの凄く興味はあるが、それについてはその時点ではどう知ることも出来はしまい。それだけは悔しいがね。」

 

ご高齢でありながら、いまだに現役バリバリの作家として作品を世に問い続けている姿勢には頭が下がる一方、普段強気な石原氏のやや弱気な内面が垣間見られる点が興味深い、そんな作品でした。

 

必読の作品です。