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レイラ・スリマニ「ヌヌ」

 

ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫)

ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫)

 

 パリに住む共働きの夫婦が、完璧なベビーシッター(ヌヌ)と巡り合い、夫婦それぞれが自分たちのやりたい仕事ができるようになった最中に、ヌヌに子供たちを殺害されてしまうという話です。

冒頭で、いきなり、ヌヌが子供たちを殺害する場面が出てきて、その後、そこに至るまでの経緯が描かれるという構図です。

ヌヌのルイーズは、ミリアムとポール夫妻の子供たちを献身的に見守り、ルイーズが家庭に入ってきたことによって、家庭は格段に整理されるようになり、夫妻も思う存分仕事に打ち込めるようになるのですが、その反面、妻のミリアムは、子供たちの相手をすることが億劫になるという面も見られるようになってきます。ルイーズが子供たちの信頼を得れば、本来は夫妻は自らの仕事に打ち込めるようになり、ハッピーな方向に向かうはずであるにもかかわらず、逆に、ミリアムは子供たちの面倒を見ることが億劫になってくる面も見られるようになっていきます。

そんなわずかなズレが最終的に悲惨な結果を招くことになるのですが、物語では、その原因ははっきりとした形で示されているわけではありません。なので、読み終わった後に、必ずしもすっきりしない部分も残ります。

 

しかし、この物語では、ヌヌという存在を通して、今のフランス社会のある種の歪みが浮き彫りになっているように思います。文章表現もなかなか工夫されていて、読みごたえはあります。

 

現代社会に対してある種の警鐘を投げかけている小説であるように思いました。