カンヌの金賞受賞ということで、本作を鑑賞してきました。
とても日本映画らしい作品で、派手さはなく淡々とストーリーが進んでいきますが、とても深い余韻を残してくれる作品です。
下町の狭い建屋に暮らす5人。家主の老女の初枝、柴田治と信代夫妻、息子の祥太、信代の妹の亜紀。そこに、両親から虐待を受けている幼い女の子ゆりを家に連れてくる。
一見すると家族であるが、実はそれぞれ血はつながっていない。
クリーニング店で働く信代の給与と、初枝の年金が主な収入源で、治と祥太は万引きを繰り返すことで、一家はかろうじて生計を立てている。亜紀は風俗店で働いている。
家族はそれぞれがある意味幸せを感じながら暮らしていたのだったが、ある日初枝が亡くなる。家族は葬式を挙げず、初枝を埋葬する。さらに、祥太が万引きで捕まると、警察が介入し、ゆりの誘拐、初枝の死体遺棄により、信代はその罪をかぶり刑務所に入ることに。これを契機に家族はバラバラに生活することに。祥太は施設に入り、ゆりも親元に帰る。
しかし、それぞれの生活は決して幸せなものではなかった。。。
ラストは、幼いゆりが再び本当の親に迫害されて、家の外で寂しそうな様子でいるシーンなのですが、このシーンがこの作品のすべてを象徴しているように思います。ゆりは結局、血のつながった親の元で戻り、マスコミもこれで一件落着と捉えていたのですが、結局、ゆりにとっては、本当の親の元で暮らすよりも、「疑似家族」の中で生活していた方が幸せだったわけです。にもかかわらず、世間的には、子供は本当の親の元に戻った方が幸せだというレッテルを貼って、この事件を見てしまう。このギャップこそ、監督が訴えたかったメッセージだったように思います。
そうだとすると、この作品のタイトルは、もう少し工夫の余地があったように思います。今回はカンヌ金賞受賞で注目を集めたから良かったものの、正直、このタイトルでは、せっかくの良い作品でも、タイトルを見ただけで敬遠してしまう人が多く出てしまうような気がします。
この作品は、キャスティングが非常に良かったように思います。夫婦役のリリーフランキーと安藤サクラ、祥太役の城桧吏、亜紀役の松岡茉優も大変素晴らしいですが、中でも樹木希林の名演が光っています。セリフがない場面でも、表情だけであらゆるメッセージを聴衆に伝えられる演技は、さすがの一言です。
日本映画は、是非こういう路線で世界に発信していってほしいですね。