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デービッド・アトキンソン「新・生産性立国論」

 

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論

 

 

最近活発に観光政策などについて発言されている著者が、生産性向上に向け提言されている本です。かなり共感できる内容でした。

 

著者の主張は、人口減少社会を迎える日本では、生産性向上が急務であり、そのための方策として、①企業数の削減、②最低賃金の段階的な引き上げ、③女性の活躍を挙げています。

 

著者は日本の生産性が驚くほど低いことを指摘しますが、その背景としていくつか興味深い点を指摘しています。

例えば、利益と生産性の混同です。人件費と設備投資を削れば短期的に利益は増えますが、付加価値やイノベーションは損なわれます。

さらに、効率性と生産性の混同についても指摘されています。効率がいいからといって生産性が高いとは限らないという指摘はその通りだと思います。

 

また、著者は日本における「高品質・低価格」への信奉を厳しく批判します。これは、生産性の低さをごまかす屁理屈であり、労働者が精魂込めて作ったものを安く売ることで、労働者の能力や労力に見合った給料をもらえなくなる要因だというわけです。

 

そして、日本の経営者の無能を指摘している部分も痛快です。著者は人口減少社会で経営者が賃金を下げたことを糾弾します。労働組合の弱体化もその背景として指摘されます。。。

 

 

以上が本書の指摘の概要ですが、こうした著者の説明は、とても説得力があります。大企業は空前の内部留保を抱えながらも、それを労働者の賃金に反映しようとしません。かつてアメリカでフォーディズムを提唱したヘンリー・フォードは、労働者は消費者でもあり、労働者の賃金を上げることが、ひいては製品の需要を増やすことを理解していました。アトキンソン氏の指摘もそうしたフォーディズムの考え方と通ずるものがあると思います。

 

日本では一時期、新古典派経済学の影響から、価格が下がることを良しとし過ぎた嫌いがあります。しかし、そうした風潮がその後のデフレの傾向を助長した面があるように私は思います。

 

とても共感できる内容の本でした。