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「スリー・ビルボード」★★★★☆


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

2017年のアメリカ映画です。

アメリカの田舎町を舞台にした人間ドラマなのですが、憎悪と共感で揺れ動くが人々の感情の描き方が絶妙で、アッと言わせられる展開でありながら、説得力があります。

 

娘をレイプの上焼き殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、道路沿いの3つの看板(ビルボード)を借りて、警察署長を非難する広告を掲載する。

警察署長のウィロビーは、自分に対する誹謗だとして広告の撤去を求めるが、ミルドレッドの意思は固い。ウィロビーは自分が膵臓癌の末期癌であることを伝えるものの、ミルドレッドはそれを承知で署長を非難していたのだった。

ミルドレッドに対する圧力や嫌がらせも続く。勤め先のギフトショップの店長も逮捕される。ミルドレッドの息子の友人からも嫌がらせを受ける。ミルドレッドに看板を貸したレッドも圧力がかかる。ミルドレッドはレッドから追加の広告費用を求めらるが、ちょうど匿名で追加費用がレッドのもとへ送られてきたため、ミルドレッドは広告を継続することができた。

そんな中、ウィロビーは自ら命を絶つ。家族とミルドレッドに手紙が残されていた。そこに書かれていたのは、ミルドレッドの追加の広告費用の送り主がウィロビーであったという事実であった。

 

ウィロビーの部下のディクソンは、レッドを2階から突き落とし怪我を負わせた。そして、ディクソンは、後任の警察署長から解雇されてしまう。ディクソンはウィロビーからの手紙を署内で読んでいた時、そうと知らないミルドレッドは警察署に火炎瓶を投げ込み、ディクソンは大火傷を負う。

 

ディクソンは入院するが、隣のベッドにいたのは、ディクソンが投げ落としたレッドだった。レッドはディクソンに気づいたが、それでも火傷を負ったディクソンにオレンジジュースを渡す。

 

ディクソンはある酒場で、隣の客が自分のレイプ話を自慢しているのを聞く。その状況がミルドレッドの娘の事件に酷似していたため、ディクソンは車のナンバーを控えるとともに、その男の顔を引っ掻いてDNAを採取する。それをミルドレッドにも伝えたのだったが、結局別人であることが判明。その男は、同じ時期にイラク戦争に行っていたのだった。

 

しかし、ディクソンはこの男を殺しに行くことを決意する。そのことをミルドレッドに伝えると、彼女も同調する。2人は一緒に車でその男を殺しに向かう。ディクソンは火炎瓶を投げ込んだのがミルドレッドであることは重々承知だった。2人は、男を本当に殺すかどうかは道々決めていこうと話し合う。。。

 

本当によく出来た脚本だと思います。一見すると、殺された娘の仇を討つ母親と、犯人捜査に消極的な警察、という正義vs悪の構図のようにも見えるのですが、事はそう簡単ではありません。ウィロビーが実はミルドレッドの広告を支援したり、ディクソンが警察を解雇された後も犯人逮捕に向けて尽力したり、レッドが自分に怪我を負わせたディックに優しさを見せたりすると、なおさら善悪の構図が分からなくなってしまいます。娘を殺害されたミルドレッドすら、本当に善人なのかよくわからなくなります。

 

しかし、そんな善悪を明確に決められないという真実こそ、映画の作者が伝えたかった点ではないかと思います。被害者は怒りを抱くのは当然でありますが、その怒りの矛先が向けられた警察が必ずしも悪者というわけではないのは当然です。

 

社会には寛容さが必要だというメッセージを、私はこの作品から感じ取りました。

 

最後、ミルドレッドとディクソンの殺意が車の中で次第に揺らいで行き、作品中始終ムスッとした顔をしていたミルドレッドの顔に笑顔が浮かんだシーンは、とても救われた気持ちにさせられました。

 

とても素晴らしい作品でした。