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乃南アサ「しゃぼん玉」

  

しゃぼん玉 (新潮文庫)

しゃぼん玉 (新潮文庫)

 

2004年に刊行された純文学です。著者の作品を読んだのは初めてしたが、田舎の人情味溢れる情景がとてもうまく表現された作品です。

 

都会でひったくりを繰り返し、若い女性を刺してしまった伊豆見翔人は、トラック運転手を刃物で脅しながら、宮崎の田舎に逃げ込んできた。降ろされた場所でさまよっていると、バイク事故でケガをした老婆から声をかけられた。

老婆を助けた翔人は老婆の家に居候することになる。どうやら翔人は、老婆の孫と間違えられている感もあった。若者が少ない田舎村で、翔人は何かと頼りにされた。もうすぐ平家祭りが近づく中、翔人は仕事にその準備手伝いに駆り出された。

そんな中、翔人はこの田舎村に戻って来た美知という若い女性と知り合う。翔人は美知のことを意識するのだが、美知が自分が刺した女であることを知る。一人の女性の運命を狂わせてしまったことに、翔人は深く衝撃を受け、自首することを決意する。

刑期を終え、翔人は再びこの村に戻って来た。老婆はまだ元気だった。翔人は昔のようにこの村に再び受け入れられたのだった。。。

 

人生はしゃぼん玉だと投げやりに考えていた翔人が、田舎の人間味溢れた人情に触れる中で人間性を取り戻し、自分が犯した罪を償おうという気になっていく過程が、とてもよく描かれています。

若かりし一時期、社会に反旗を翻したり、やけくそになりたくなる衝動に駆られた人は多いと思います。しかし、そんな気持ちを克服して、大人になるにつれて、やがて人との絆の大切さを感じるようになり、大きくなっていくわけです。翔人が田舎の人情に触れてそんな成長を経験したことに共感した読者は多かったのではないかと思います。

 

著者の他の作品も読んでみたくなりました。