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伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」

 

伊坂幸太郎さんの短編集です。作品同士が相互につながっているところが魅力的です。

 

「アイネクライネ」は、先輩のミスが原因で夜の街角でアンケートを取っている独身の男の話。アンケートに応じてくれた一人の女性は、ト イストーリーのバズの人形を持っていた。やがて車を運転していると、道路工事で誘導していたのがその女で、出会いの偶然性を感じる。。。

 

「ライトヘビー」は、美容師の主人公が、客の女性から弟と引き合わされる話。女性の弟から度々電話がかかってくるが、直接会ったことはない。ある時、女性に誘われて主人公は女性宅でボクシングの試合を観戦する。そして主人公は、チャンピオンになったボクサーが度々電話を寄越してきた弟であることに気付く。。。

 

ドクメンタ」は、5年に1回開催されるドイツの現代美術の展覧会にかけて、主人公が5年おきの免許更新のたびに遭遇する子連れの人妻の話。主人公もその女性も伴侶が家を出てしまっている。女性の夫は、その口座に謝罪の言葉を振込人名義として百円ずつ振り込んでいた。。。

 

「ルックスライク」は、高校の女教師と生徒の話と、ファミレスの店員と客の関係から交際がスタートした若い男女の話が並行して進んでいく。若い男女はやがて別れてしまうのだが、ラストでは、高校の女教師は、生徒のお父さんと昔付き合っていたことが判明する。。。

 

「メイクアップ」は、主人公が高校時代にいじめられた同級生と社会人になって再会する話。その同級生は主人公の化粧品会社の広告の提案に手を挙げてきたのだが、主人公が同級生であることに気づいていなかった。主人公にとっては復讐のチャンスだったが、結局実行できないのだった。。。

 

そしてラストの「ナハトムジーク」は、「ライトヘビー」で登場したヘビー級ボクサーの試合が、これまでの短編の登場人物と薄っすらと関連づけられながら、振り返られる。。。

 

 

伊坂幸太郎さんの作品は、これまで「重力ピエロ」を読んだことがありましたが、個人的には、奇抜な出来事抜きに日常世界が淡々と進む本作品の方に惹かれました。

 

一見脈絡のない短編が、実は薄っすらと関連性を持っているところがとてもお洒落で、しかも強引さがないところが素晴らしいです。

 

平凡な日々の中にも、実は気づかないような魅力やちょっとした幸福が含まれている、そんな著者のメッセージが込められているのではないか、と個人的には思ってしまいました。

 

かなり良質な短編集だと思います。