デュポンの御曹司が五輪レスリングの金メダリストを射殺するというショッキングな実話を映画化した作品です。作品は全体を通して暗い雰囲気が漂い、淡々と話が進んでいくので、やや退屈感もないわけではないのですが、これが実話だという前提で見ると、大変重厚感のある作品となっています。
五輪レスリングのメダリストのマーク・シュルツは、デュポンの御曹司のジョンから呼び出しの電話を受ける。ジョンの邸宅の敷地内のトレーニング場で練習するチーム「フォックスキャッチャー」に入ってオリンピックを目指さないかという誘いだった。
マークは当初ジョンとうまくやっていたが、次第に2人の仲には亀裂が生じてくる。そんな中、ジョンは、マークの兄で同じくレスリングのメダリストであるデイヴ・シュルツを呼び寄せる。デイヴは優秀な指導者であったため、ジョンのチームを支える指導者の立場になった。そんな中、マークは次第に居場所をなくしていってしまう。
その後、マークはチームを去り、デイヴはチームに残ったが、ある日、ジョンの敷地内に住むデイヴの下を訪れたジョンは、いきなりデイヴに発砲し、射殺する。。。
ジョンとマーク、デイヴの3人の間の微妙な人間関係の変化が、実に絶妙に描かれています。ジョンとマークの仲に亀裂が入り、デイヴが入ることでその亀裂はさらに助長され、デイヴとマークの仲にも亀裂が生じ、最期はジョンとデイヴの間に不信感が生まれて、射殺に至るわけです。
この作品の最大のテーマは、なぜジョンがデイヴを殺害したかにあります。もちろん、ジョンが統合失調症だったという面があるわけですが、この作品を見ると、ジョンのデイヴに対する嫉妬心が大きく働いているのではないかと感じます。ジョンが母親の前では、いかにも自らが指導者として仕切っているかのようなふりをしている場面があります。また、リングサイドに入ってコーチを務めることに固執します。しかし、結局、ジョンは優秀な指導者たりえず、デイヴを超えることはできなかったわけです。こうして、ジョンの心中には次第にデイヴに対する嫉妬心が芽生えてきた、というのが本作品の見立てといえるでしょう。
ジョン・デュポンを演じているスティーヴ・カレルの演技が光っています。ちなみに、カレルは、最近ではウディ・アレンの「カフェ・ソサエティ」の中での好演が光っていました。
見ごたえのある作品でした。