映画、書評、ジャズなど

「チャイナ・ゲイト」★★★★☆

インドシナ戦争を舞台にした1957年公開の映画です。長らく日本では公開されてこなかった作品のようですが、とても素晴らしい作品です。

時は1954年。場所はインドシナ。フランスはモスクワから調達される武器を遮断するため、外国人傭兵部隊を組織して、弾薬が保管されている“チャイナ・ゲイト”を爆破するミッションを与える。

このミッションには、白人とアジア系のハーフであるリア(アンジー・ディキンソン)が参加する。彼女には幼い息子がいたが、その息子の父であるブロック(ジーン・バリー)もこのミッションに参加することに。ブロックとリアはかつて結婚していたのだが、生れた息子がアジア系の外見だったことにショックを受けたブロックは、妻と息子を捨ててしまったのだ。

リアは密輸を通じて顔が広く、チャイナ・ゲイトへの案内役として最適だったが、ミッションに参加する代わりに、息子をアメリカに避難させることを条件とした。

こうして、ブロックとリアはジャングルを潜り抜けて、チャイナ・ゲイトを目指す。

チャイナ・ゲイトを仕切る司令官は、実はリアにかつて求婚していた男だった。リアは息子を連れてこの地に来るようにしきりに誘われるが、ミッションを淡々と進める。

しかし、弾薬庫に導線を引いていざ点火しようとしたとき、司令官はリアの陰謀に気付き、導線は切断されてしまう。リアはミッションを成功させるため、わが命を顧みず、自ら弾薬に点火し、命を落とす。

残された息子は、無事アメリカに送られることなる。。。

 

この作品の背景には、人種差別に対する問題意識が色濃く存在します。ブロックは外見がアジア系だというだけで、自分と血のつながった息子と妻をあっさり捨ててしまうわけです。

ちなみに、このミッションに参加した1人の黒人を演じているのが、なんとあのナット・キング・コールです。ナット・キング・コールは、当初、映画製作費に比べて多額の報酬を提示したようですが、監督の人種差別反対の姿勢に関心を持ち、最低限の報酬での出演に同意したとのこと。

作品中、ナット・キング・コール自らタイトル曲を歌うシーンが、初めの方と終わりの方に2か所あります。低音で厳かに歌うナット・キング・コールの声が素晴らしく、しびれます。


CHINA GATE NAT KING COLE

 

この作品の魅力は、何といってもリアの女としての強さでしょう。夫に捨てられて、女手一つで息子を育て、息子をアメリカにやるためだけを目指して、危険なミッションに参加します。ミッションの途中で、元夫のブロックから、再び一緒になりたいと言われて感激するものの、結局はミッションを成功させるために自らの命をなげうつ姿は、息子を思う女の力強さがよく表現されており、思わず胸が締め付けられます。

 

監督のサミュエル・フラーの作品が日本で公開されたのはごく最近のようですので、おそらく日本ではこの監督自体、一般にはあまり知られていないと思われます。しかし、この作品を見るに、なぜもっと早く日本で見られなかったのか、不思議でなりません。

 

この監督の他の作品もぜひ見てみたいと思います。