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映画、書評、ジャズなど

E・C・ベントリー「トレント最後の事件」

文学 ミステリー

 

トレント最後の事件【新版】 (創元推理文庫)

トレント最後の事件【新版】 (創元推理文庫)

 

1912年に発表され、江戸川乱歩が惚れ込んだミステリー作品の古典です。画家で探偵のトレントが見事に事件を解明していくわけですが、単にトリックを暴くというだけでなく、トリックが暴かれた後の後半の展開が見どころという、一見変わった作品です。

 

アメリカの実業家マンダースンが邸宅の庭先で射殺体となって発見される。数々の事件を解明してきた画家であり探偵のトレントは、新聞社からの依頼で、この事件の解明に当たる。

トレントは、マンダースンの美しい妻メイベルの叔父カプルズとは旧知の仲であり、事件の探索はスムーズに進んでいく。話によれば、マンダースンは周囲の人々から嫌われており、メイベルとの仲もうまくいっていなかった。

マンダースンの死体が発見される前夜、彼は秘書のマーローと一緒に夜のドライブに出かけると妻に言い残していた。マンダースンは夜のうちに邸宅に戻っていたところを、家の人々に目撃されていたが、マーローはそのまま離れた土地のホテルを訪れ、夜遅くに邸宅に戻っていた。

トレントは、調査を進めていくうち、実は夜邸宅に戻って来たマンダースンと思われた人物はマーローであったこと突き止める。マンダースンは、若きマーローと自分の妻メイベルの関係を疑っていた。マーローにはマンダースンを殺害する動機もあると思われた。トレントは、解明した内容を手紙にしてメイベルに残し、そのまま事件から手を引くことに。

 

しかし、トレントは、メイベルに一目惚れしていた。そして、メイベルがこの事件に関与していなかったかどうか、それが気になっていた。トレントはメイベルに再会し、事件について改めて問いただす。トレントは、メイベルがマーラーと親密な関係にはなかったこと、そして事件に関わっていないことを知り、メイベルにプロポーズする。

 

その後、トレントは、マーローに会う。マーローから聞いた話は意外なものだった。マーローはマンダースンから殺人犯に仕立て上げられたと考えていたのだった。その夜、マーローはマンダースンの死体を発見したのだが、マンダースンがマーローに罪を着せるために、無理やりマーローに架空の人物を迎えに行かせるようにした後に自らの命を絶ち、マーローがマンダースンの財産を盗んで逃走を図っているという風に見せかけようとしていたと咄嗟に考えた。マーローは絞首刑から自分の身を守るためには、マンダースンになりすまして、一旦邸宅に戻った風に装ったのだった。

 

そして、トレントは、メイベルとの結婚を報告するため、叔父のカプルズと会うのだが、そこで驚愕の事実を聞かされた。それは、マンダースンを撃ったのがカプルズ自身だという事実だった!

 

 

前半のトレントが事実を解明していく過程は、ごく普通のミステリー小説と何ら変わらないのですが、後半に入ると俄然面白い展開となっていきます。前半と後半とで、作品の雰囲気もガラッと変わるわけですが、個人的には後半の方が断然面白かったです。

 

事件の被害者であり加害者かもしれないメイベルに対し、探偵のトレントが一目惚れをするというところは、人間味が溢れていて大変面白い点でしょう。メイベルはもしかするとマンダースン殺害の共犯者かもしれない、しかしメイベルへの気持ちが忘れられないので、メイベルが好きなオペラに通って再会を果たすというトレントのキャラクター設定が大変ユニークです。

 

追い込まれたマーローの咄嗟の行動についても、大変気持ちがよくわかります。慕っていたマンダースンが、マーローを罪に陥れるために完璧なまでの状況を作り出し、マーローの逃げ場をふさいでしまう。追い込まれたマーローは、自らを守るために、マンダースンになり切る。誰しも、期せずしてあらぬ罪を着せられそうになるという恐ろしいシチュエーションを多かれ少なかれ経験したことがあるのではないでしょうか。そんな状況に置かれたマーローの気持ちは大変共感できます。

 

そして、最後のどんでん返し。調子に乗って事件の全容をカプルズに話をしていたトレントが、そのカプルズが実はとっくに事件の全容を分かっていたという衝撃的な展開は、とても斬新です。こうした意外性が最後にどかんと出てくるとは、すごいミステリー小説だと思います。

 

恋愛の要素あり、大どんでん返しあり。さすが江戸川乱歩が惚れ込むだけある素晴らしい作品でした。