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ワシントン・ポスト取材班「トランプ」

政治

 

トランプ

トランプ

 

トランプに関する書籍は多数出版されていますが、とりあえず本書を読んでみました。本書では、トランプがこれまでに数々の破産を経験し、そして、自らのブランドを高めるためにマスコミを恫喝し、裁判沙汰を数多く抱えてきたことが描かれています。本書を読むと、トランプという人物のどこをどう見ても、アメリカ大統領としての資質のかけらすら感じられないという印象を持たざるを得ません。

 

以下、本書の内容をなぞっていきたいと思います。

 

トランプは、クイーンズにある裕福な家庭に育ちます。トランプの祖父フリードリッヒはドイツで理髪師の修業を積んで、16歳で移民としてニューヨークにやってきたとのこと。トランプは父親のフレッドから厳しくしつけられたものの、幼少時代から問題を抱えていたようです。小学校2年生のときに音楽の教師を殴って目の周りに痣を作らせたとのこと。そんな素行の悪さを心配した父親は、トランプをニューヨークのミリタリー・アカデミーに転入させます。その後、フォーダム大学に進みますが、2年でペンシルバニア大学のウォートン・スクールに入ります。

トランプは、父親フレッドの不動産開発に若い頃から関わり、ウォートン・スクールを卒業すると、25歳にしてトランプ・マネージメントの社長になります。コニーアイランドにはトランプ親子の経営するアパート群“トランプ・ビレッジ”がありますが、そこで黒人と白人が入居するアパートを分けていた疑惑が持ち上がり、トランプ親子は司法省から訴えられます。

そんな時期にトランプは、その後のトランプビジネスを支えることになる弁護士のロイ・コーンと出会います。トランプのそばにはコーンがいるという関係が続くことになります。

 

トランプは、マンハッタンの開発に力を入れます。父親のフレッドは反対しますが、トランプはマンハッタンこそが世界の中心だと考え、勝負をかけます。そして、コモドア・ホテルを再建する権利を手に入れようと画策します。そのプロジェクトを進めるためには、鉄道会社がホテルの売却に同意し、市も計画を承認し、銀行が前もって金を貸してくれる必要がありましたが、トランプは当事者たちに空手形を切りまくり、市からは無理やり固定資産税の免除を認めてもらい、強引にプロジェクトを進めていきます。こうして、トランプはグランド・ハイアットをオープンさせますが、間もなくハイアットのプリツカー家と対立し、その持分をプリツカー家に譲ることになります。

その後、トランプはマンハッタンのある物件に注目します。そこには高級デパートのボンウィット・テラーの旗艦店が建っており、後日トランプタワーが建つことになります。その建物を取り壊す際、トランプは貴重な女神像を美術館に寄贈することになっていたはずなのに、評価額が低いことが分かると容赦なく取り壊してしまいます。また、解体をするにあたっては、ポーランドからの不法移民が動員されました。

トランプタワーの評判を挙げるために、トランプは英国の王室が購入を検討しているという噂をでっち上げ、トランプ神話も膨れ上がっていきます。

 

自らのブランドに人一倍関心があったトランプは、メディアの取り上げ方を大いに気にしました。毎朝自分について書かれた記事をチェックしていたとのこと。時には、トランプの友人を騙って、自らマスコミに電話して情報を流したりしたようです。マスコミにトランプの広報担当者として電話をかけ、トランプの周囲には美女がいくらでもいて、よりどりみどりで、有名な美女が引きも切らずトランプのところに電話をかけてくるのだ、という内容を伝えたこともあるとのこと。自分を攻撃したり、意に沿うような内容を書かなかったマスコミに対しては容赦なく反撃します。

 

 トランプはカジノビジネスにも乗り出します。アトランティックシティでライセンスを申請しますが、マフィアとのつながりや資金不足などが問題となります。訴追歴については当初隠していましたが、その後明らかにします。結局、トランプの申請は承認され、1984年にトランプの最初のカジノがオープンします。

その後、トランプはカジノを次々と買っていきます。3つ目のタージマハルは、建設途上の物件を買い取ったものですが、資金調達のためにジャンク債に手を出し、多額の金利を払わなければならないことになります。

 

トランプは、美人コンテスト事業にも手を出します。ミス・ユニバース機構の支配株式を取得し、自らのブランド価値向上に利用します。

さらに、アメフトにも手を出します。NFLのチームの買収に失敗したトランプは、後発リーグUSFLに参入し、莫大な放映料を目当てにトップリーグを反トラスト法違反で訴え、し烈な闘争を仕掛けます。しかし、トランプがNFLフランチャイズを持ちたいがために闘争を仕掛けていると言ったという証言が出され、裁判は不利な展開へ。結局、USFLはわずかな賠償しか手にすることができず、USFLは消滅します。

 

90年頃にはトランプの負債は32億ドルにまで膨れ上がります。多額の個人保証もついています。カジノの従業員への支払いすらままならない状態になります。タージマハルを建てた際のジャンク債の高利率も問題になります。父親もトランプに資金支援を行いますが、結局、トランプは所有するすべてのカジノを破産させることになります。しかし、カジノを依然として支配し続けます。

その後、トランプは新たな株式公開会社を設立し、借金まみれのカジノを法外な金額で買い取ります。そしてこの会社もやがて破産することに。

数々の破産を経験してもトランプが生き残れたのは、関係者が何よりもトランプというブランドが必要だと考え、トランプを表舞台に留めておいた方が得策だと判断したという面が大きいように思います。

 

 トランプの知名度をさらに押し上げたのが、リアリティ番組『アプレンティス』への出演です。「お前はクビだ!」という決め台詞はトランプのアドリブだったとのこと。トランプはこの番組での役どころをうまくこなしていきます。

その後もトランプは、数々のビジネスに手を出します。トランプブランドのライセンス、トランプ大学、住宅ローン会社トランプ・モーゲージの設立などなど。

世界にもビジネスを展開していき、その関心はアゼルバイジャン、トルコ、インドネシア、UAE、パナマスコットランド、さらにはロシアに向かいます。ロシアでは、ロシア版トランプのような人物と親しくなります。トランプはプーチンを持ちあがる発言を繰り返し、ミス・ユニバース世界大会の前日に面会をするはずでしたが、土壇場でキャンセルに。このとき、トランプはプーチンからロシアでの開催に感謝する手紙をもらいます。

 

 トランプは政治にも関心を持つようになり、次第に大統領を意識するようになります。しかし、支持政党がころころ変わり、レーガンの資金集めに協力したり、ビル・クリントンを支持したり、改革政党に加わったり、ヒラリー・クリントンに接近したり、ポリシーは一貫していません。ヒラリーが上院議員になった2001年には、なんと民主党員になっていたとのこと。本書によれば、1999年から2012年までに7回も党を変えていたようで、他方、大統領選では一貫して共和党に投票していたと本人は述べているようで、正直政治思想は見えません。

 

トランプは、自らを実際以上に大富豪に見せようとしていたようです。トランプの負債が大きいことを指摘する人には損害賠償請求訴訟を起こしています。トランプは相手を恫喝するのに訴訟という手段を多様しているようで、ある分析によれば、トランプと彼の会社は30年間に1900件余りの訴訟を起こしているようで(ちなみに訴訟を起こされた件数は1450件とのこと)、この中には自分の都合の悪い疑問を投げかけた人物を叩くことに主眼が置かれたものも含まれているようです。トランプは自らの資産を少なく見積もる人物については、ブランド価値が正当に評価されていないと考えていたようです。

 

 

本書では、以上のようなトランプの遍歴が事細かに取材されて書かれています。本書から浮かび上がってくるトランプ像は、自分を悪く言う人物を訴えて恫喝しながら自らのブランドを築き上げ、女性にもてるという大富豪という虚像をでっち上げ、時には相手を欺きながら強引にプロジェクトを進め、数々の破産で債権者たちに莫大な負担を強いてもさほど気にせず懲りずに投資を繰り返すビジネスマンという感じです。誰がどう見ても、世界最大の大国の大統領を任せられる人格を持ち合わせている人物には見えません。

本書を読んでも、なぜトランプがアメリカ大統領に選ばれたのか?という根本的な問いかけに対する明確な回答を得ることは正直できませんでした。本書は共和党大会でトランプが大統領候補に選出されたあとの2016年8月に発売されたものなので、なぜトランプが大統領に選ばれたのか?という視点で分析されたものではもちろんなく、あくまでトランプの遍歴を事実関係に基づいて描いた形になっていますので、そうした分析は他の本を読んだ方がより分かりやすく分析されているのかもしれません。おそらく、本書を書いている人たちの中でも、トランプが本当に大統領になると思っていた人は少なかったのではないかと思います。

 

今後、こうしたトランプという破天荒な人格が、国際政治にどのような影響を与えるのか、本書を読んで益々心配になりました。おそらくは、これまでのスタイルで、多くの国々に対して恫喝をくり返していくのだと思いますが、大統領が他国に恫喝を繰り返し、国民に米国第一主義をアピールする裏で、外交当局がしっかりと地に足の着いた外交を他国との間で進めていくことができるかが、大きな鍵となってくるように思います。それができなければ、米国の外交はトランプのスタイルの下で機能不全に陥ってしまうでしょう。

 

いずれにしても、本書はよく取材されて書かれている本だと思います。