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映画、書評、ジャズなど

「泥の河」★★★★★

映画

 

小栗康平監督作品集 DVD-BOX

小栗康平監督作品集 DVD-BOX

 

 小栗康平監督のデビュー作で、原作は宮本輝の作品です。

1981年の作品ですが、日本社会が神武景気に浮かれ「もはや戦後ではない」と言われた時期、いまだ戦争が色濃く残っている戦後日本社会を舞台にした作品です。川沿いのうどん屋の息子の信雄と船上で暮らす喜一という2人の子供の交流を通して描かれています。

 

信雄のうどんやの対岸にある日、一艘の船が横付けされる。船には母親と娘と息子の喜一の3人が暮らしていた。喜一の母親は体を売って稼いでいた。

信雄と喜一は橋の上で出会い、互いに行き来する仲となる。信雄の両親も当初は戸惑っていたが、喜一とその姉のことを気に入る。

しかし、2人で祭りに行った日の帰り、2人は喜一の船に立ち寄るのだが、信雄は偶然、喜一の母親が体を売っている場面を目撃してしまう。信雄はその日以降、大きく落ち込んでしまう。

そんな時、突然、喜一の船が曳航されて移動を始める。信雄は必死に後を追い、「きっちゃーん!」と呼びかけ続けるが、船の中からは返事はなかった。。。

 

この作品では、神武景気に浮かれている日本社会の中で、いまだ多くの人たちは戦争を抱えつつ生きていることを表しているように思います。

とりわけ、たくましく前向きに生きている女性に比べ、男たちはますます弱気になっている姿が印象的です。この作品でも、信雄の父も、喜一の父も、帰還兵です。喜一の父はその後不幸にして船から落ちて命を落としてしまい、だから喜一の母親は体を売って生活しているわけです。

信雄の家のうどん屋がの常連客が無残な死に方で命を落とした際、信雄の父は、以下のようにつぶやいているのがとても印象的です。

「あんなむごたらしい死に方するくらいやったら、戦争で死んどった方が、生きてるもんかて諦めがつくっつうもんや。」

「今んなって戦争で死んでた方が楽やったと思うてる人がぎょうさんおるやろうな」

こんな弱気を吐く男連中に対して、女たちは現実的に力強く生きています。信雄の母親しかり、喜一の母親だって、周囲から差別的な目で見られながらも、生活のために男を取りながら子供たちを養っているわけです。喜一の姉も、家事を一心に引き受けながら、母親を献身的に支えています。

 

こうした、弱音を吐く男たちと力強く生きる女たち、という対比は、戦後日本映画を貫く特徴であるように思います。そんな数々の戦後日本映画の中でも、この作品における戦後日本社会の描き方は秀逸です。

 

本作品では、信雄を演じる子役の演技が印象的です。寡黙な中にも芯の強さが滲み出た演技です。そして、信雄の母親を演じる藤田弓子の演技も素晴らしく、明るく力強く生きる戦後日本女性を見事に表現されています。

 

大変素晴らしい作品でした。