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映画、書評、ジャズなど

橘玲「マネー・ロンダリング」

文学

 

マネーロンダリング (幻冬舎文庫)

マネーロンダリング (幻冬舎文庫)

 

金融ミステリーで秀逸な作品を執筆されている著者が2002年に書かれたデビュー作です。著者の作品は「タックスヘイヴン」を読んだことがありましたが、このデビュー作はそれを圧倒する素晴らしい出来映えです。

 

主人公は香港を拠点に脱税を指南するコンサルタントの工藤秋生、通称アキ。資金を洗浄したいいかがわしい顧客を相手に商売をしている。

アキにはマコトという子分のような存在がいた。マコトはアキの金融の知識に惚れ込み、日本でHPを開設して、アキにせっせと顧客を送り込んでいたのだった。

ある日、アキの下を麗子というとびきりの美人が訪ねて来る。婚約者がある事情で金をタックス・ヘイブンに移す必要があるということだった。アキは麗子に手続を指南するとともに、麗子と親密な関係になる。

 

やがて麗子は日本に帰っていくが、その後、アキの下をヤクザが訪ねて来る。麗子が自分たちの金を持ち逃げしたのだという。

 

アキは日本に帰って麗子の行方を探す。麗子の足取りや過去を辿る中で、アキは麗子の出自の謎を知るようになる。そして、麗子が婚約者や元いた会社の役員を手玉にとって資金を集めたことを知る。アキのところにやってきたヤクザたちも、資金を拠出していた。

 

ヤクザたちは執拗に麗子を追う。その過程で多くの人々の命が失われる。ヤクザも命を落とす。それは麗子の復讐だった。。。

 

 

それにしても、本書では、金融犯罪の手口が高いリアリティを持って描かれています。外為法の抜け穴、信用保証制度の悪用の手口、移転価格税制の問題、割引金融債の悪用等々、大変精緻で現実的です。経験した人でないとここまで描くことはできないのではないかと思ってしまいます。

麗子たちが仕組んだファンドのスキームも飛ばしの手口です。金融機関からの融資で不良債権の価値の下がった担保物件を簿価で買い取り、損失を飛ばし、ファンドは買い取った物件を売却して現金化し、運用が成功すれば数年後に返済するし、失敗しても責任は後々の経営者に押し付けられることになります。本書でも麗子たちは、こうしたスキームを使って金融機関からお金を引き出しています。そして、麗子を追っていたヤクザたちは、このファンドの見せ金として資金をつぎ込み、ファンドを支配していたわけです。

 

いかにも当時ならありそうな話です。

 

もう一つの本書の魅力は、やはり麗子のキャラクターでしょう。一見派手で目を引く美人でありながら、暗い過去を抱え、強烈な復讐心に燃えて、周囲の人たちを冷淡に巻き込み、命まで失わせてしまう。。。実際に身近にいたら大変なことですが、小説のキャラクターとしては、とてもよく出来ています。

 

なお、本書の解説は、元財務官僚の議員で現在民進党の代表選に名乗り出ている玉木雄一郎氏が書かれていますが、こちらも分かりやすくまとまっています。

 

執筆からだいぶ経っていますが、間違いなく超一級の金融ミステリー小説であり、何度でも読み直したくなる本でした。

 

タックスヘイヴン』については、以下の記事をご覧ください。

loisir-space.hatenablog.com