豊臣秀吉の治世において、全盛を誇る狩野派に対抗して独自の地位を築いていく長谷川等伯の生きざまを描いた作品です。
モチーフは、絵の一門同士の対立ですが、本能寺の変、秀吉と利休の関係、秀吉の朝鮮出兵、キリシタン迫害など歴史的な事件が織り込まれており、壮大な作品となっています。
等伯は、我が世を謳歌する狩野派が絵の世界を支配する中、一門の拡大に向けて努力している。大きなプロジェクトの獲得に向けて大金を投じるが、狩野派の圧力でダメになってしまい、大きなダメージをこうむる。
等伯には期待をかけている息子の久蔵がいたが、絵に迷い、家を飛び出してしまう。父等伯の出身地を訪ねた後戻ってくると、再び創作に打ち込む。久蔵は、良家の人妻と仲睦まじい関係となり、一緒に暮らすことに。
そんな中、秀吉の息子が急逝し、秀吉は弔いのため祥雲寺の襖絵を大量に等伯に依頼する。久蔵は当初松林を描いていたのを急遽取りやめ、桜の木を描くことにする。膨大な作業の末、絵は完成するするが、久蔵は息絶えた。
息子や妻たちに先立たれた等伯は、徳川からの絵の依頼を受けるため江戸に向かい、エドに着くとすぐに命を落とした。。。
この作品は、重厚なテーマでありながら、筆致の軽快さからか、とてもすらすらと読めてしまいます。等伯の壮絶な生きざまがリアルに浮かび上がってきます。
そして、当時の様々な歴史的事件が織り込まれており、人々がどういう風にとらえていたかが鮮やかに浮き上がっています。
朝鮮出兵に駆り出された夫に裏切られた人妻と久蔵との恋愛は、この作品の適度なスパイスになっています。
近著『イモータル』も大変素晴らしかったですが、数年前に刊行されたこの作品も実に素晴らしい作品でした。この作者の本に完全にはまってしまいました。