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映画、書評、ジャズなど

金沢ジャズストリート2015

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KANAZAWA JAZZ STREET 2015|金沢ジャズストリート2015
 今年も金沢ジャズストリートに来ました。今年で7回目、18の会場で110のバンドが参加されているそうです。前日までは雨が降っていたことから、天気が心配されましたが、初日から3日間ともに晴天に恵まれ、最高のコンディションでの開催となりました。

 昨年はベニー・ゴルソンロン・カーター、ケニー・バロンといった海外の大御所が参加していましたが、今年のラインナップを見てみると、山下洋輔渡辺貞夫小曽根真といった日本の大御所が一堂に勢ぞろいしており、これまたゴージャスな顔ぶれとなっています。この3人のステージが一挙に鑑賞できる機会はそうめったにありませんので、楽しみに足を運びました。

 今年は、街角ライブの会場が少し変わっています。昨年あったいくつかの会場がなくなった代わりに、竪町や近江町市場、そして東別院山門前に新たに会場ができていました。

 竪町のストリートはいつの間にかおしゃれなアパレル店が並ぶきれいなストリートに変貌していましたが、その一角にステージが設けられていました。


 片町には、このシルバー・ウィークに片町きららがオープンしたばかりで、すぐ前の広場で演奏が行われていました。


 さらに、金澤表参道と呼ばれる横安江町商店街沿いにも、東別院の門前にステージが設けられ、演奏が行われていました。


 観光客でごった返す近江町市場の脇にも、こんなステージができていました。

 ここは例年ステージが設置される香林坊アトリオ広場です。

 いずれのステージも、金沢の魅力的な街並みやスペースの中にステージが設けられており、そこに足を運ぶことによって、金沢の街を堪能でき、金沢の魅力を知ることができるような形になっています。それもジャズストリートの大きな意義の一つでしょう。

 北陸新幹線が開通してから初めてのジャズストリートですが、大きく変わった点は、欧米系の外国人が数多く見られた点です。これも新幹線効果なのだと思いますが、多くの欧米系外国人たちが、街角ライブに足を止め、熱心に演奏に耳を傾け、温かい拍手を送っている光景をあちこちで目にしましたが、昨年までのジャズストリートではあまり目にしなかった光景です。

大学生バンド

 質の高い大学ビッグ・バンドの参加は、金沢ジャスストリートの目玉の一つだと思いますが、今回も多くのクオリティの高い大学ビッグ・バンドが参加しており、いしかわ四高記念公園の大勢の観客の前で堂々と演奏していました。

 開会式の後、最初に登場したのは、地元の金沢大学のM.J.Sというバンドです。すべての部員が必ず1回は演奏に参加するスタイルを取っているそうですが、みんなで演奏の充実感を味わうという意味では、これも一つの学生バンドの在り方だという風に思います。

 大阪大学のニュー・ウェーブ・ジャズ・オーケストラは、法被を着てカウント・ベイシーの演奏ばかりを取り上げているビッグ・バンドで、♪Corner Pocket,♪April In Parisなどの名曲を演奏していました。今年の山野ビッグバンド・コンテストで優秀ソリスト賞を取ったというサックス奏者をフィーチャーしたバラード・ナンバー♪Here's That Rainy Dayの演奏が光っていました。

 東京工業大学のラテンバンド、ロス・ガラチェロスの演奏も大変素晴らしく、軽快なMCとともに、質の高い演奏を繰り広げていました。今年の山野ビッグバンド・コンテストでも2位だったとのことで、このコンテストで優秀ソリスト賞を取られているというピアニストの演奏が素晴らしかったです。

 そして、やはり大学ビッグ・バンドの最大のお目当ては国立音大のニュー・タイド・ジャズ・オーケストラです。国立音大が演奏する時間帯になると、公園中に人があふれかえりますので、国立音大の演奏時間を確認した上で足を運んでいる方が相当多くおられるものと思われます。演奏のクオリティの高さもさることながら、このバンドは聴衆の楽しませ方を大変よく心得ているなぁと感心してしまいます。音楽がエンターテイメントであることをきちんと理解されています。ドラムとパーカッションの熱い掛け合いは、プロ級のハイレベルなバトルでした。

 国立音大で教鞭をとっておられる小曽根真さんの曲♪No Siestaも演奏され、大変大盛り上がったところに、アンコールでは小曽根真さんご本人も登場されてピアノを演奏されるという思わぬサプライズに、聴衆は大喜びでした。

 学生さんたちが、これだけ大勢の観衆を前に演奏できる機会というのは、なかなか他にないのではないかと思います。いしかわ四高記念公園のステージでは、多いときでおそらく千人を超える?聴衆が集まり、温かい拍手を送るわけですから、学生さんたちにとっては極めて大きな刺激になると思いますし、素晴らしい経験だと思います。プロのジャズ・ミュージシャンだって、ここまでの観客の前で演奏する機会はめったにないでしょう。学生さんたちも金沢ジャズストリートに呼ばれることを非常に光栄に感じているように見受けられました。

 こうした学生さんたちの中から、将来世界の第一線で活躍するプロのジャズ・ミュージシャンが生まれてくる可能性が大いにあるわけですから、大変楽しみです。金沢ジャズストリートが学生バンドにとっての「聖地」のような感じになっていけばよいなぁと思います。

山下、渡辺、小曽根の豪華競演!

 今回の目玉は、日本を代表するジャズの大御所である山下洋輔渡辺貞夫小曽根真の3人が一挙に見られることでしょう。お3人はいずれも今日のジャズ界の圧倒的な第一人者でありながら、そのカラーがだいぶ違っているところも楽しみな点です。

 個人的には山下洋輔さんの演奏を生で聴くのは実は初めてです。山下さんといえば、ピアノを炎上させるパフォーマンスなど過激で前衛的なパフォーマンスの印象が強いので、今回の演奏が果たしてどんな演奏になるのか、もしかすると過激なフリー・ジャズの演奏で全く理解不能なステージになってしまうのではないか、という不安も個人的には少なからずあったことも事実です。

 まずは山下さんのステージです。ご本人作曲の♪ファースト・ブリッジという曲が演奏された後、トランペットの類家心平さんをフィーチャーした♪I Remember Cliffordが演奏されます。この曲を作曲したベニー・ゴルソンは昨年の金沢ジャズストリートに参加され、まさにこの曲を作曲したご本人が演奏してくれて、大変な感銘を受けたことが記憶に焼き付いているわけですが、今回の類家さんの演奏も最高に素晴らしい演奏で、音がどこまで伸びていくようなトランペットの音色がホールに響き渡り、背中がぞくぞくするほど感動的なものでした。

 それからテナー・サックスの菊池成孔さんをフィーチャーした♪大きなのっぽの古時計が続きます。かつて菊地さんが山下さんのバンドに参加したときに、この曲をやりましょうと言ってきたのがこの曲だそうです。メロディラインを生かしながらもフリーのテイストたっぷりに演奏されていました。
 菊地さんといえば、かつて東京大学での講義を本にした著作など、数々の本を書かれている方です。私もかつて読みましたが、大変感銘を受けました。十二音平均律→バークリー・メソッド→MIDIという流れの中で、ジャズの歴史を捉えようという意欲的な試みで、ビバップからモード奏法へと進化していくジャズの歴史の意味が理解できます。

http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20071110/p1

 その後全員で♪Night In Tunisia, ♪スパイダーといった曲目を演奏されました。♪スパイダーという曲は、メンバーそれぞれがソロパートでやりたいように演奏するスタイルの曲で、いかにも山下さんらしい曲です。そしてアンコールは激しい♪Take The A Trainで、あっという間の1時間半のステージが終了しました。

 こうした個性的なメンバーがかなり自由にそれぞれのスタイルで演奏を繰り広げれば、普通は各自ばらばらな感じの演奏になってしまいそうなものですが、そんなメンバーたちを盛んに鼓舞しながらも一体感をもったステージに仕上げているのは、さすが山下洋輔さんです。山下さんの演奏も、一見すると乱雑に鍵盤を叩きまくっているかのようにも見えますが、ちゃんとコードに合った鍵盤を叩いています。

 ちなみに、山下さんのピアノに火をつける演奏は、数年前にも再度実行されたそうで、それは金沢21世紀美術館のスタッフの協力で行われたとのこと。石川の海岸で行われたパフォーマンスが、YouTubeで見られます。 山下さんは、数年前に日経新聞私の履歴書に書かれたことがあり、それが本になって出版されていますが、この本は大変面白いです。

即興ラプソディ―私の履歴書

即興ラプソディ―私の履歴書

 ヨーロッパ・ツアーでの成功、あの有名なタモリさんとの出会い(山下さんはタモリさんの面白さをいち早く見出されて、芸能界に売り込まれた方として有名です。)などなど、数々の興味深いエピソードが満載です。


 翌日は渡辺貞夫さんのステージでした。そういえば、山下さんが上記の本の中で、最初に渡辺貞夫さんに出会ったときの衝撃を綴られています。渡辺さんがアメリカから帰国して日本の若手ミュージシャンをチェックに現れるということで山下さんらが待ち構えていると、渡辺さんがジーパンとスニーカー姿で現れたそうです。そして、♪Stella By Starlightの最初の二音が響き渡り、山下さんはそのまま後ろに吹き飛ばされて倒れたというくらいの衝撃だったと振り返っています。そして、「日本人でもこんなになれるのだ!」という感想を持ったとのこと。

 さて、渡辺貞夫さんのステージは、山下洋輔さんのステージとはいろいろな面で対照的で、アメリカ西海岸の心地よい風が吹き抜けるかのようなさわやかで清々しい演奏が中心です。曲目も緩急自在といった感じで、アップテンポの曲もあれば、♪My Foolish Heart, そして貞夫さん定番の♪You Better Go Nowといったバラードをしっとりと聴かせてくれました。そして、最後はアンコールの曲で終わりかと思ったところに、さらに、ピアノとのデュオでチャップリンの♪Smileを聴かせてくれるところは、さすが渡辺貞夫さんです。

 渡辺貞夫さんのステージは、いつ見ても全力で吹ききってくれ、全く手を抜いたりすることがありません。最初から最後まで休むことなく繊細なサックスを奏でる体力は、とても82歳とは思えません。このお歳で依然として第一線で活躍される所以が理解できます。


 翌日のホールでは、サックス・プレイヤーの坂田明さんのステージがありました。坂田さんは昔、山下洋輔さんのバンドメンバーとしてヨーロッパに遠征に行かれています。坂田さんはご存知フリー・ジャズをとことん極めたミュージシャンです。ミジンコの研究家でもあるそうです。
 冒頭のご挨拶で、このステージは「音楽」ではなく「風景」として見てほしいとのご発言があった時点で、どんなステージになるかある程度は予想され覚悟はしていましたが、想像以上にフリーなジャズを展開されていました。(♪役立たずなどの曲が坂田さんの歌入りで演奏されたときは、正直どういう反応をしたらよいのか戸惑いました。)

 アンコールは、映画『ひまわり』のテーマ音楽で、ヘンリー・マンシーニの曲。これまでのフリーなジャズ演奏が嘘のようなしっとりした素晴らしい演奏です。この曲を聴いて、個人的には心の底からホッとした気持ちになれたのでした。 坂田さんは、かつて山下さんたちとフリー・ジャズをガンガンやっていた頃のスタイルを唯一頑なに守っているのかもしれません。会場には往年のジャズファンたちが大勢詰めかけて、かつてのフリー・ジャズの空気を共有しつつ懐かしんでいるかのように盛り上がっていました。


 最終日の夜は、小曽根真さんのステージです。といっても、リーダーはデイヴ・ウェックルというドラマーでしたので、ドラムが前面に出た迫力のあるステージで、小曽根さんはやや引いた感じでピアノの演奏をされていた印象です。聴衆は大変大盛り上がりのステージでしたが、個人的にはもう少し小曽根さんのピアノを存分に堪能できるステージだったらよかったなぁ、という感じでした。

 個人的には、山下洋輔さんのステージが一番印象的でした。その余韻は、後程、金沢のジャズ・バー「YORK」で味わうことになります。

尾山神社の夕暮れ

 今年も尾山神社にはステージが設置されました。個人的には最も好きなシチュエーションのステージであり、ここでの演奏を毎年とても楽しみにしています。ただ、昨年までとはステージの位置が異なり、入口に近いところに設置されていました。尾山神社といえば、神門のステンドグラスが特徴的ですが、夕暮れ時は夕日によってステンドグラスが明るく輝きます。今回のステージの位置ですと、ステージの横でステンドグラスが輝く構図になりますので、今回の配置変更は大変良かったと思います。

 この尾山神社での演奏の中に、今回密かに楽しみにしていた演奏がありました。それは、フィリップ・ストレンジさんの演奏です。児玉有里子さんというヴォーカリストのステージにピアニストで参加されていたのですが、このフィリップさんといえば、『すごいジャズには理由(ワケ)わけがある』という著作が有名です。

すごいジャズには理由(ワケ)がある──音楽学者とジャズ・ピアニストの対話

すごいジャズには理由(ワケ)がある──音楽学者とジャズ・ピアニストの対話

http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20141130/p1
 この本は、例えば、ビル・エヴァンスのトリオで音楽をぐいぐい引っ張っているのは、エヴァンスではなくラファロなのだという指摘、マイルスのモードは、音楽材料を思い切ってシンプルにしたものだという指摘などなど、大変知的刺激に富んだ本で、目から鱗が落ちるような指摘の連続でした。その本の印象に違わず、その演奏スタイルは知的で繊細なものでした。ちょうど日が沈んで辺りが暗闇に移っていく中での演奏で、とても神秘的で神々しい雰囲気の中でジャズを聴けるのは至福の瞬間でした。

 スタンダード曲がおさめられたストレンジ氏のCDを会場で購入しました。シンプルで繊細な演奏スタイルが大変素晴らしく、夜寝る前に静かに流すのに適しているようなアルバムです。

One Summer Afternoon

One Summer Afternoon

 ちなみに、尾山神社のライブでは、REIKO with Big Treeというバンドのステージが印象的でした。

 昨年の金沢ジャズストリートのコンペティションで優勝されたバンドだそうで、ピアソラの♪リベルタンゴチック・コリアの♪Spainなどの曲を大胆なアレンジで演奏されていました。特にピアノの宮川真由美さんという方の髪を振り乱しながらのアグレッシブな演奏が印象的でした。
 金沢ジャズストリートのコンペティションで優勝されたバンドがこうやって再び金沢で演奏できる機会があるというのは、大変素晴らしいことだと思いました。

夜中の盛り場のジャズ

 このジャズストリートでは多くの会場が設けられていますが、深夜まで演奏が繰り広げられるのは、新天地の特設ステージのみです。盛り場の中の猫の額のような小さなスペースの奥の方にステージが設けられ、酒を片手にワイワイ盛り上がりながらジャズを聴くのに最も適した会場で、個人的には最も雰囲気が好きな会場の一つです。今年は、路地にずらっとミニテーブルが並べられ、多くの聴衆がテーブルを囲んでお酒を飲みながらジャズに耳を傾けられる環境となっていました。

このステージに夜11時に登場したのがサックス・プレイヤーの川嶋哲郎さんです。

これまで川嶋さんのステージは東京で何度か鑑賞したことがありましたが、金沢では初めてです。川嶋さんの演奏は、あるときはフリー・ジャズ特有のピーッという高音を出しながらダイナミックな演奏をしつつ、あるときはとてもメロディアスな旋律を奏でられ、緩急自在のセクシーな演奏をしてくれる、ちょい悪おやじ風のサックス・プレイヤーです。お酒を片手に盛り上がりながら聴くには最も適したミュージシャンでしょう。
 このステージではハンク・モブレーの名曲♪This I Dig Of Youのダイナミックな演奏で始まり、予想通りの変幻自在の演奏で聴衆の大喝采を浴びていました。

 ちなみに、川嶋さんのステージは翌日の石川県教育会館でもありました。いしかわ四高記念公園の東工大の演奏を途中で抜けて会場に着くと、数百人入れる座席は既に満席。さすが目の肥えたジャズファンの方々は、素晴らしいステージをきちんとチェックしておられます。川嶋さんに加え、ピアニストの宮本貴奈さん、ベースの荒玉哲郎さん、ドラマーの大坂昌彦さんという豪華な組み合わせのステージが無料で見られるわけですから、これだけの人たちが集まって当然といえば当然です。この日のステージは、エリントンの楽曲一筋でしたが、ステージは大いに盛り上がりました。

コルトレーン研究家の講話

 2日目は、金沢蓄音器館というところで、トーク・ライブを聴いてきました。

 登壇されたのはコルトレーン研究家である藤岡靖洋さんです。少し前に岩波新書からコルトレーンについての本を出されていますが、これがまた大変面白い本でしたので、トーク・ライブを楽しみに足を運びました。

コルトレーン――ジャズの殉教者 (岩波新書)

コルトレーン――ジャズの殉教者 (岩波新書)

http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20110330
 藤岡さんはもともと呉服屋さんをされている方とのことで、コルトレーンの研究にもう何十年もはまっており、先日は、藤岡さんの発見したコルトレーンテンプル大学でのライブの音源がCD化されてグラミー賞を受賞したとのことです。
Offering [12 inch Analog]

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 とにかく、コルトレーン研究に対する執念は並大抵ではなく、先祖のルーツやこれまで住んだことのある家を丹念にたどったり、未発表の音源の発掘に向けて世界を飛び回られたり、その執念には頭が下がります。そして、現在、コルトレーンに影響を受けた世界の5人のうちの一人として藤岡さんが取り上げられたドキュメンタリー映画の製作が進められているとのことです。

 趣味が高じて云々、というのを正に体現されている方です。アメリカの歴史を交えながら語られるコルトレーンの逸話に聞きほれながら、あっという間の1時間でした。

 ちなみに、藤岡さんの一押しのコルトレーンのアルバムは『Coltrane live at Birdland』だそうです。

ライヴ・アット・バードランド

ライヴ・アット・バードランド

 1963年に黒人教会が爆破されて少女4人が亡くなった事件を知ったコルトレーンが吹き込んだアルバムとのことです。♪Alabamaがこの事件を取り上げた曲です。

ヨークの夜

 ジャズストリート最終日は、ジャズ・バー「ヨーク」(YORK)に立ち寄るのが定番です。

 ちなみに、金沢には著名なジャズ・バーとして、このヨークの他に、「穆然」(ぼくねん)というジャズ・バーがあります。

 古い塀に囲まれた屋敷の敷地に足を踏み入れると庭園があり、その奥の方の建物がバーになっています。カレーが名物ということで、ランチの時間帯にお邪魔しましたが、大きなスピーカーから心地よいジャズが流れていて、とても雰囲気の良いお店でした。

 カレーも大変おいしかったです。改めて夜のお邪魔しようと思って足を運んだところ、既に座席が満席で入れませんでしたので、夜は結構混むお店なのだと思います。

 さて、話をヨークに戻すと、この店には、前日、ジャズストリートの出演者たちが大勢詰めかけ、ごった返していたようで、オーナーのママさんがお疲れ気味のところにお邪魔しました。金沢のジャズ界の生き字引ともいうべきママさんなので、何十年も前に山下洋輔さんと坂田明さんと一緒に写った写真をお持ちでした。ヨークのレコードコレクションは3千枚にも及ぶそうですが、その中には当然、山下洋輔さんのアルバムも数多く含まれており、今回はそのうちの何枚かを聴かせていただきました。

 中でも印象的だったのが、武田和命さんというサックス・プレイヤーのアルバムで、山下洋輔さんも参加している『ジェントル・ノヴェンバー』です。

ジェントル・ノヴェンバー

ジェントル・ノヴェンバー

 武田さんという方は、かつては日本のコルトレーンと呼ばれた方だそうで、山下さんとは古くからキャバレーなどで一緒にプレイされていた方です。山下さんは、本の中で、このアルバムの一曲目♪Soul Trainについて、次のように書いておられます。

「一曲目の最初の二小節で武田の音に心を奪われる。同じ曲をやっているコルトレーンの演奏と比べても遜色はない。」

 こうしたしっとりとしたバラード曲の演奏では、山下さんのピアノの繊細さがことさらに際立ちます。ちなみに、ドラマーの富樫雅彦さんが亡くなられた際のトリビュートアルバムにも山下洋輔さんのピアノが1曲だけ収録されているのですが、そのしっとりとした演奏も大変素晴らしいです。

マイ・ワンダフル・ライフ 富樫雅彦バラード・コレクション

マイ・ワンダフル・ライフ 富樫雅彦バラード・コレクション

 今回のステージでも演奏された♪Night In Tunisiaもおさめられている山下洋輔さんのピアノソロアルバムも素晴らしかったです。

 麿赤兒が率いる舞踏グループ「大駱駝艦」とコラボした『嵐』というアルバムはジャケットインパクトに圧倒されます。このジャケットだけ見ても、山下さんが前衛的な取組の最先端を行かれていたことがよくわかります。

嵐(紙ジャケット仕様)

嵐(紙ジャケット仕様)

 このほか、ヨークでは、古き時代の日本人のレコードをいくつか拝聴させてもらいました。井野信義さんというベーシストがレスター・ボウイという方とデュオで録音したアルバムが大変素晴らしく、印象的でした。
デュエット

デュエット

 昨年この店に来たときもレスター・ボウイのレコードをかけてもらっていた記憶があったのですが、亡くなられたご主人がレスター・ボウイを気に入られていたようです。

 昔のアルバムをいろいろと引っ張り出していただき、とても楽しい時間を過ごさせてもらいました。山下さんたちが昔お店に来られた際に、冷やし中華の話で盛り上がっておられた話などを聴かせていただき(注:山下さんの本にも出てきますが、山下さんたちはかつて「全日本冷し中華愛好会」なる会を結成して、「何故冬に冷し中華が食えないのか。ビールもアイスクリームも冬にもあるではないか。断固抗議する!」という運動を展開されていたとのこと)、お疲れだったママさんも山下さんのレコードを聴きながらだんだんとお元気になられて、気が付くと夜中1時まで3時間以上もお邪魔してしまいました。ジャズ全盛期を同時代的に生きてこられた方々の話というのは大変貴重で、勉強になります。そして、当時のジャズをめぐる雰囲気が生き生きと伝わってきます。

 おかげさまで、ジャズストリートを締めくくるのにふさわしい夜となりました。

感想

 今年はなんといっても新幹線効果で、このシルバー・ウィークは例年以上の観光客が金沢に押し寄せていました(21世紀美術館には毎回足を運んでいたのですが、今回はあまりの混雑ぶりにパスしました。)。その分、ジャズストリートのいずれの会場も、設置された座席はほぼ埋まっている状態でしたので、演奏するミュージシャンたちは大変充実した思いで演奏できたのではないかと思います。

 街角で温かく熱心なジャズファンの前で演奏する機会というのは、ミュージシャンたちにとっても大変素晴らしいことだと思います。特に、金沢ジャズストリートに集まる聴衆の方たちは大変耳が肥えていますので、なおさらでしょう。ジャズという音楽を通じたミュージシャンと聴衆の交流、そして、集まった聴衆の間での一体感というのは、街を明るく活気づけるうえで大変重要な要素なのではないかと思います。

 ちなみに、いくつかのライブ会場で、司会者が県外から来た人たちに挙手を求める場面がありましたが、見たところ、3分の1以上の方が挙手されていたように思いました。これだけ多くの方々が他県からおそらくはこのジャズストリート目当てに金沢に集まっているということに、少々おどろきました。それだけ金沢ジャズストリートのクオリティの高さが知られてきているということなのでしょう。

 また、冒頭に触れたように、今回のジャズストリートには、特に欧米系の外国人の方々が街角で足を止めてジャズの演奏に聞き入る光景が目につきました。おそらく、新幹線の影響で、日本に来た観光客が金沢まで足を延ばしやすくなったのでしょう。こうした状況は、金沢ジャズストリートが世界的なイベントへと発展していく大きなチャンスだと思います。今回のジャズストリートは、例年に比べると比較的国際色が薄かった印象ですが、これからは世界につながっていくフェスティバルに発展していけば、さらなる展開の方向性が見えてくるように思います。

 今年も大変充実した3日間のジャズストリートでした。