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映画、書評、ジャズなど

バートン・マルキール「ウォール街のランダム・ウォーカー」

経済

ウォール街のランダム・ウォーカー <原著第10版>―株式投資の不滅の真理

ウォール街のランダム・ウォーカー <原著第10版>―株式投資の不滅の真理

 プリンストン大学教授の著者が、株式投資について書いた本です。初版が刊行されてから40年以上の歳月が過ぎて10版を重ねているようですが、最新の情報がきちんと織り込まれてアップデートされています。投資家、特にインデックス投資を推奨する投資家の間では、ある種のバイブル的な存在と言っても過言ではありません。著者の経歴から分かるように、単なる投資ガイドではなく、株式の価格形成の理論を歴史的事象の積み重ねから論証しており、知的刺激に満ちた本です。

 本書の最大のメッセージは、どんな投資家も、市場平均と同じポートフォリオで運用するインデックス・ファンドを上回る成績を上げることは難しい、ということです。すなわち、

「市場における株価形成は非常に効率的であり、チンパンジーがウォールストリート・ジャーナルの相場欄にダーツを投げて選んだ銘柄からなるポートフォリオでも、プロのファンドマネージャーと同じような成果を上げることができる」

というのが著者の主張であり、高い手数料を払ってプロの投資家に運用を委ねるよりも、インデックス・ファンドに投資する方が良いというわけです。

 本書では、チャートを用いたテクニカル分析、ファンダメンタル価値理論を銘柄選択に生かそうとするファンダメンタル分析、いずれも投資手法として推奨しません。特に、テクニカル分析については、手厳しく批判します。こうした戦略を採るよりも、「バイ・アンド・ホールド」戦略、すなわち、ある銘柄や銘柄群を買って長期間保有する戦略を上回る利益を上げることはない、というのが著者の結論です。ファンダメンタル分析についても、株価には新たな情報が既に織り込み済みであり、ファンダメンタル情報によって継続的な利益を得ることは難しいというのが著者の結論です。

 著者は、分散投資によるリスク低減について論じています。例えば、国内株式と外国株式があり、外国株式の方がリスクが高かったとしても、リスクの高い外国株式を少し加えるだけで、ポートフォリオ全体のリスクが低減するというわけです。
 その一方で、著者は、システマティック・リスクは分散投資によっても低減できないと述べています。システマティック・リスクというのは、株式市場全体が変動し、また全部の株式が少なくともある程度は一緒に動く傾向があることから生まれるリスクです。これは一般に「ベータ」と呼ばれるものです。

 著者によれば、ポートフォリオに含まれる銘柄数を増やしていったときのリスクの低減を分析すると、60銘柄を組み入れた時点で、総リスクは低下しなくなるとのこと。残ったリスクがシステマティック・リスクということになります。そして、この分散投資によって除去できないシステマティック・リスクの分こそが、プレミアムによって報われるべき部分だと著者は述べます。

 しかし、このベータが本当に有用なリスクの尺度か、高いベータの方が低いベータよりも一貫して高いリターンを生むか、といえば、著者はこれも否定します。つまり、著者の分析によれば、ベータとリターンの間には何の関係性も見出せなかったというわけです。

「完全なリスクの尺度は、依然として神秘的で私たちの手の届かないところにあるのだ。」

と著者は述べています。
 こうして、著者は、効率的市場理論に立脚しつつ、どんな手法を用いても将来を一貫して予測することなどできず、インデックス・ファンド投資するのが一番よいという結論に到達します。そして、行動ファイナンス学派がいくら市場の効率性を否定したところで、市場は新たな情報をすばやく織り込んでおり、やはり市場は効率的なのだと述べています。

 確かにプロの投資家の中には、ある期間について見れば市場平均を上回る運用成績を上げているところもありますが、長期間で見る限り、インデックス・ファンドへの投資に叶わないのだというわけです。

 本書を読むと、お金の運用はアクティブ運用のファンドではなく、インデックス運用ファンドに投資しようという気になります。書店で見かける投資指南本の中にも、本書の影響を受けたものが見られます。
全面改訂 ほったらかし投資術 (朝日新書)
 このほか本書では、過去の株式市場における様々な事象についても触れられていて、大変興味深いです。

 1960年代の「トロニクス・ブーム」では、社名をエレクトロニックな響きのあるものにすれば、新規公開株の株価が跳ね上がりました。同じ頃の「コングロ・ブーム」では、何の成長可能性がない企業をいくつか束ねるだけで、成長可能性が擬製されました。さらに、もっともらしいストーリーの語れる銘柄群が「コンセプト株」として流行しました。

 最も傑作なのは、80年代のZZZZ(ジー)ベストのケースです。バリー・ミンコウはカーペットのクリーニング業を経営し、その会社の名前をZZZZベストとします。この会社の株は異常なほど投資家を魅了しました。ミンコウは、ウォール街に向かって、自分の会社はIBMより経営がうまくいっているとか、カーペット・クリーニング界のゼネラル・モーターズになると公言し、投資家たちは熱心に聞き入ったそうです。しかし、ミンコウのバブルはあっさりはじけます。ミンコウはマネーロンダリングをやっており、同社の目覚ましい成長はほとんど演出されたものであることが分かったのです。こうしてミンコウは刑務所に入れられますが、その後、敬虔なクリスチャンになり、メディア・ビジネスを始めるとともに、さらにはFBIの特別顧問に就任したとのこと。
 そして、80年代のインターネット・バブルでは、インターネットとおよそ関係のない多くの企業が、いかにもインターネットに関連ありそうな呼称の社名に変更しただけで、株価が倍以上になったとのこと。

 こうして見るだけでも、株式市場がときとしていかに狂気を催すかが分かります。しかし、こうした数々の狂気にもかかわらず、著者は、市場は効率的だと主張しているところが本書の特徴でしょう。
 つまり、こうして市場が乱高下しても、インデックス・ファンドに長期で投資をしていれば、長い目で見れば資産を増やすことができるのです。本書によれば、市場平均と全く同一のポートフォリオに投資するバイ・アンド・ホールド戦略でも、過去80年以上の期間にわたって、10%以上の年平均リターンを実現してきたとのこと。2008年の金融危機の際も、幅広い債券に分散投資するファンドの中には高いリターンが得られたものもあるとのことです。こうしたデータの裏付けが、本書の説得力を増しています。

 単なる投資本ではなく、株価をアカデミックに分析した興味深い本でした。