読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる
映画、書評、ジャズなど

「羅生門」★★★★☆

羅生門 デジタル完全版 [DVD]

羅生門 デジタル完全版 [DVD]

 数年ぶりに見ましたが、見るたびに新たな発見を感じるところはさすが名作です。

 どしゃ降りの雨の羅生門で、木樵と若い僧侶が考え込んでいるところに、下人が雨宿りのために加わる。木樵と僧侶は、つい先日起きた不可解な事件について考えあぐねていたのだった。

 木樵が山に入ると、そこには金澤武弘という侍の遺体があった。関係者が検非違使庁で取り調べを受けたが、それぞれの供述はまちまちだった。

 侍を殺害した罪で捉えられた盗賊の多襄丸(三船敏郎)の供述によれば、多襄丸は山で見かけた侍の妻(京マチ子)を奪おうと、夫を騙して木にくくりつけ、夫の目の前で女を犯した。その後、女からどちらかの男に死んで欲しいと懇談されたため、多襄丸は夫の縄をほどき、決闘を繰り広げた末に、夫を殺害したが、そのときには女の姿はなかった。

 女の供述によれば、多襄丸に犯された後、夫が自分を見下したような目で見ることに耐えきれず、夫を刺し殺したという。

 夫の魂を呼びだした巫女の証言によれば、犯された女は、多襄丸に対して、夫を殺すように懇願した。多襄丸は夫に、女を生かすかどうかを決めるように問う。そして夫は自らの命を絶ったという。

 一部始終を見ていた木樵は、3人の証言いずれも事実と異なっているという。女を犯した多襄丸は、女に跪いて自分の妻になってほしいと懇願、夫もこんな女に対して命をかけたくはないと主張。女は2人の男を挑発して互いに決闘させる。多襄丸は夫を殺害、女はその場から逃げたのだった。

 場面は再び羅生門へ。そこに捨てられた赤子の泣き声が聞こえてくる。下人は赤子の着物をはぎ取る。木樵は赤子を引き取って連れて帰った。。。



 この作品は、黒澤監督とタッグを組んでいた脚本家の橋本忍氏が「藪の中」を基に脚本を書き、それを「雌雄」というタイトルで黒澤監督のもとに送ったものです。当時、芥川龍之介の作品はまだ映画化されていなかったため、何か映画にできるものはないかと橋本氏は芥川の小説を読みあさります。

 橋本氏はもともと伊丹万作監督のもとで脚本の指導を受けていましたが、伊丹監督の死後、知り合いを通じて黒澤監督に脚本が渡る機会に恵まれます。黒澤監督から呼ばれて家を訪ねた橋本氏は、黒澤監督から、ちょっと短いと指摘されます。これに対し橋本氏は「羅生門」を入れたらどうかと提案したところ、黒澤監督から「羅生門」を入れて脚本を書き直すように言われます。こうして「羅生門」の脚本ができあがります。

複眼の映像―私と黒澤明 (文春文庫)

複眼の映像―私と黒澤明 (文春文庫)

 この脚本は難解なため、助監督からはさっぱりわけが分からないと言われたようです。3人の助監督のうち1人は結局納得せずにやめてしまったとのことです。

 作品では、ボレロ風の音楽が効果的に用いられていることが分かります。これは黒澤監督のこだわりだったようで、早坂文雄に音楽を依頼します。当初はなかなかボレロがしっくりとこなかったものの、ある瞬間、突然、映像と音楽がぴったりと噛み合ったそうで、黒澤監督は、背筋に冷たいものが走るような感動を覚えたと証言しています。

蝦蟇の油―自伝のようなもの (岩波現代文庫―文芸)

蝦蟇の油―自伝のようなもの (岩波現代文庫―文芸)

 黒澤監督は次のように語っています。

「私は、人間の心の奇怪な屈折と複雑な陰影を描く、人間性の奥底を鋭いメスで切り開いてみせた、この芥川龍之介の小説の題名『藪の中』の景色を一つの象徴的な背景に見立て、その中でうごめく人間の奇妙な心の動きを、怪しく錯綜した光と影の映像で表現してみたかったのである。」

 黒澤映画の奥深さを改めて実感しました。