- 作者: マイケルルイス,Michael Lewis,東江一紀
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/03/08
- メディア: 文庫
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本書では、異端の株式アナリストのスティーヴ・アイズマン、アマチュア投資家のジェイミー・マイとチャーリー・レドリー、医師から投資家へと転身した義眼のマイケル・バーリーらの目線で描かれています。この3者に共通するのは、サブプライムローンの危うさにいち早く気がつき、それをショート(空売り)する立場で投資活動を展開したという点です。つまり、いつかサブプライムローンが暴落することを念頭に置いた投資ポジションを取ったということです。
アイズマンらは、サブプライムローンが詐欺そのものであることをいち早く見抜きます。
サブプライムローンの大半が変動金利で組まれていたものの、2年間の“釣り金利”付でした。最初の2年間は低めの固定金利が適用されるものの、2年経つと金利が一気に跳ね上がることになるので、債務不履行が多発することが想定されるわけです。そのことに気付いたのがバーリーでした。
バーリーたちは、サブプライムローンのリスクをヘッジするCDSを買いまくります。CDSは、サブプライムローンが返済されない場合に対する保険です。したがって、サブプライムローンが債務不履行にならなければ無価値である上に、毎年の保険料の支払いが生じるのに対し、万が一債務不履行となれば、多額の保険金が手に入る仕組みです。サブプライムローンが破綻することを確実視していたバーリーたちにとっては、火事が起こりつつある家に賭けられている火災保険を買うような感覚で、CDSを買い込んでいったわけです。
一方、サブプライムローン商品を大量につくり出し、保有していたのが、モルガン・スタンレーやメリルリンチなどの投資銀行です。彼らは貧困層に貸し出された住宅ローンを債券化した商品を作るのみならず、それらを更に切り刻んだCDO(Collateralized Debt Obligation)を作り出して売り出します。
このCDOに対し、格付け機関は優良な格付けを与えます。トリプルBの債券を寄せ集めて作り出されたにもかかわらず、それはトリプルAと格付けされたのです。
「でたらめもいいところだった。元の百基の塔は、同じ氾濫原に建っているのだから、ひとたび洪水が起これば、すべての塔の一階が等しく被害を受ける。ところが、格付けのたびごとにゴールドマン・サックスを始めとするウォール街の投資銀行からたっぷりと手数料を受け取る格付け機関は、なんと、新しい塔の八〇パーセントをトリプルAと認定したのだ。」
こうしたいい加減な格付けが横行した背景には、全ての住宅ローンの債務不履行がいっぺんに起こることはないという想定があったわけです。しかし、実際には、住宅価格が下落する局面においては、そういった事態が生じるわけです。それよりも重大な事実は、格付け機関が実態を十分に把握しないままに格付けをしていたという事実でしょう。本書では、格付け機関のスタッフが、ゴールドマン・サックスらの優秀なスタッフに言いくるめられて格付けを行っていた実態が浮き彫りにされています。本書では、この格付け機関の在り方の問題点が最も強調されています。
そして、さらには、サブプライムローンの商品を作り出している投資銀行の経営陣自身が、その本質を理解していないという事実に驚かされます。彼らは皆、不都合な真実から目をそらそうとしてきたのです。それなのに、サブプライムローンで大損させた張本人は皆、結果的に大金を手にしているわけです。
本書は、リーマン・ショックでショート・ポジションによって大金を手にした側の目線で書かれているのですが、唯一の救いは、彼らも大金を手にして空しさを感じている様子が描かれていることでしょう。ショート・ポジションを取っていた人たちも、サブプライムローンの破綻を予測して儲けたものの、これだけ世界の金融システムが崩壊してしまうことを望んでいたわけではありません。だから、結果的に充実感ばかりが残ったわけではありません。
こうして見てみると、金融の在り方はどうあるべきか改めて考えさせられます。そして、今の金融業界がリーマン・ショックの反省をどこまで踏まえているのか、と心配にならざるを得ません。
当時の当事者たちの感覚が手に取るように伝わってくる本で、久々に引き込まれたノンフィクションでした。