映画、書評、ジャズなど

ロバート・J・シラー「それでも金融はすばらしい」

それでも金融はすばらしい: 人類最強の発明で世界の難問を解く。

それでも金融はすばらしい: 人類最強の発明で世界の難問を解く。

 2013年のノーベル経済学賞受賞者による著書です。金融に関わる様々なセクターの果たすべき役割について論じながら、金融システムがますますイノベーションの発揮によって高度化していくことが重要であるとの主張を展開されています。

 以下の文章に本書の主張がコンパクトにまとめられています。

「金融は、欠点もあるし過剰もあるが、潜在的にはもっと良い、もっと繁栄した、もっと公平な社会を作る力になりうる。実際、金融は現代の繁栄した市場経済台頭において中心的な役割を果たしたー金融なしにこの繁栄は想像もできない。」
「将来に向けて適切に設計された金融は、ますます増加を続ける世界人口の福利と充足を促す最強の力になりうる−つまり良い社会の大目標を実現するのだ。」

 こうしたスタンスに立って、本書では、様々な主体ごとに、あるべき姿などについて論じていきます。

 例えば、最高経営責任者(CEO)については、取締役会とのなれ合いや動機付けの問題について指摘しています。投資マネージャーについてはきわめて重要な存在であることを指摘しています。

 投資マネージャー、銀行、投資銀行などなど、ともすると嫌われ者ですが、それぞれに重要な役割を果たしていると著者は主張します。

 住宅ローン業者の章の中で、著者は、住宅ローン証券化について、銀行の資本規制逃れがあった点を指摘しています。つまり、抵当を証券化することでリスク加重資本が低くなり、結果的により多くの融資が可能になるというものです。こうした欠陥があったにもかかわらず、著者は、住宅ローン融資の効用を指摘し、今後良い制度になっていくことに期待を示しています。

 トレーダーとマーケットメーカーの章では、市場を作り流動性を維持する重要性を述べつつ、マーケットメーカーの税制優遇を主張しています。

 また、政策立案者についての章では、政府はGDPなどの経済的成功の指標に基づく証券を発行すべきと述べているのは興味深い点です。つまり、国債という負債の形ではなくエクイティの形で政府がお金を集めるべきというわけです。

 本書は、金融市場の必要性を説き、より良い金融市場を追求していこうという主張で貫かれています。

 そして、随所に斬新な発想が盛り込まれているところが興味深いところです。格差連動税制もその一つです。

「格差連動税制の下では、政府は各税ブラケットに決まった所得税率は決めず、税引き前の格差の統計指標と税率とを結びつける方程式を事前に決めておく。所得格差が悪化すれば、税制は自動的に累進性を増す。これは格差問題に対する「金融的」な解決策だ。」

 知的刺激に満ちた本でした。