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エラリー・クイーン「Xの悲劇」

 

Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

 

 ミステリーの古典中の古典です。精緻な論理に裏打ちされた謎解きに、最後の方は時間を忘れてのめり込んでしまいました。

ロングストリートとドウィットは、共同で株式仲介業を営んでいたが、争いが絶えなかった。ロングストリートと女優の結婚記念パーティーの後、場所を移すために市電で移動中、ロングストリートは殺害される。ポケットからはニコチンが塗られた針が多数ささるコルク球が発見された。

捜査に当たるのは、地方検事のブルーノと警視のサムの2人。犯罪推理に定評のある俳優のドルリー・レーンのもとを訪れ、捜査への協力を依頼します。

そんな中、第二の殺人が。ロングストリート殺人があった市電に乗り合わせていたとする人物から手紙が届く。待ち合わせの場所に行くと、フェリー乗り場で殺人が起こる。被害者は殺人のあった市電の車掌チャールズ・ウッドだった。その場にはドウィットがいたことも判明。警察はロングストリート殺人の犯人がドウィットであることを確信し、ドウィットを裁判にかけるが、裁判で決定的な反証がなされ、結果は無罪となる。

無事解放されたドウィットを囲んでの祝賀会が開催されたが、その移動の際に、第三の殺人が起こる。場所は電車の中。ドウィットが胸を撃たれて死んでいるのが見つかった。その直前、ロングストリートに大損させられて恨んでいたコリンズがドウィットと話をしていたことから、犯人はコリンズかと思われた。しかし、レーンは、コリンズは犯人ではないという。

では誰が犯人なのか。ロングストリートとドウィットには、南米で探鉱に関わっていた時期があった。2人にもう一人クロケットを加えた3人は、ストープスという1人の青年に女性殺害の濡れ衣を着せ、しかも鉱脈の権利を奪ったのだった。その後ストープスは脱獄し、ニューヨークにやってきて、自分を陥れた3人への報復を行うため、車掌として働きながら、その機会を待っていたのだった。しかも、ストープスは、2人の車掌として勤務していた。第二の殺人の被害者はチャールズ・ウッドという車掌かと思われたが、実は、それは自分を陥れた第三の男クロケットだった。

レーンは、死んだはずのロングストリートに変装し、ストープスの前に現れ、その正体を暴いた。。。

 

すべてをお見通しのドルリー・レーンの知的な推理に脱帽です。刑事たちの推測の過ちをシェイクスピアの逸話などを引用しながらやんわりたしなめるドルリー・レーンの知的なユーモアが、本作品の大きな魅力となっています。

 

ロングストリートを殺したのはドウィットであることを疑わないブルーノとサムに対し、レーンは舞台芸術におけるキャスティングを引き合いに出しています。つまり、昨今の劇聖が人気俳優を中心に組み立てられる偏重をきたしていることを引き合いに、ロングストリート殺人事件の捜査において、ブルーノとサムがドウィットに合わせて犯罪を形作っているのだと諭します。

ブルーノとサムはそれでもドウィットが犯人であることを疑わず、ドルリーは、被告弁護士に対して決定的な反論を教え、結局ドウィットは無罪となるわけですが、何とも痛快な展開です。

 

この作品には、伏線がきちんと埋め込まれていることに感心させられます。ラストで、ドウィットのダイイング・メッセージの意味が解き明かされるわけですが、その前にドルリー・レーンは、かつての殺人事件を話題に出し、射殺された人物が瀕死の状態でテーブルの上の砂糖壺からグラニュー糖を一握り掴んだことで、犯人の手掛かりを残そうとしたエピソードを、ドウィットに話をしています。

 

さすが、ミステリーの古典の一つだけあって、読み応えのある作品でした。