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「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」★★★★☆

 

マイライフ・アズ・ア・ドッグ [DVD]

マイライフ・アズ・ア・ドッグ [DVD]

 

 スウェーデンを舞台にした1985年の作品です。イングマル少年の好演が光っています。

イングマルは母親に迷惑ばかりかける少年であったが、そんな中、母親は体調を崩してしまう。父親は遠くで働いているため、イングマルは母親の兄である叔父のもとに夏の間預けられることに。

思春期に差し掛かった多感な年ごろのイングマルは、田舎の村で様々な経験をする。一人の大人の女性に恋心を抱き、彼女がデッサンのヌードモデルになるところに立ち会うことに。

そして、子供たちの中でもリーダー的存在だったザガとの出会い。ザガは活発な子供で、サッカーやボクシングで主導権を握っていたが、実はボーイッシュな女の子だった。イングマルは、胸が膨らみ始めてきたことを真剣に悩むザガの相談に乗る。

イングマルはいったん母親のもとに帰るものの、母親の体調が再び悪化すると、また叔父のところに戻ってきた。やがて母親は亡くなり、愛犬も死んだことを知り、ショックを受ける。

しかし、村では日々様々な出来事が起こる。村中がラジオのボクシング中継にくぎ付けとなっているとき、イングマルはすっかり女性らしくなったザガと身を寄せ合いながら、安らかに眠っていた。。。

 

様々な不幸を経てきたイングマルが、ラストでザガと一緒に眠っているシーンは、とても心温まるシーンであり、観る者をホッとさせてくれます。

しかし、この作品は、単に思春期の少年の成長を描いた心温まる作品というだけにとどまらず、より奥深い要素が盛り込まれています。

 

作品中、イングマルは、自分の人生を、いつかは餓死することが分かっていながら宇宙船に乗せられて実験台とさせられたライカ犬と比較して、自分はそれよりは不幸ではないのだ、という趣旨の言葉を繰り返しています。母親や愛犬の死という不幸が重なる中にも、イングマルは自らの哲学を構築しています。

こうした、他人と比較して自分はまだましだという論理は、大人の建前論からすれば、もちろん極めて潔くない態度ということになるのでしょうが、子供の口からこの考え方が出てくると、誰しも心の奥底にこうした考え方が潜在的に横たわっていることを認めざるを得ず、何か心の傷を抉り出されたような気分になります。

 

それから、本作品には、<死>が同居していることによって、深みが出ているように思います。この点については、双葉十三郎氏が以下のように述べているのに全く同感です。

「牧歌的な優しさというだけでなく、生きとし生けるものの<死生観>がにじみ出ているところがすばらしい。」

 

優しい雰囲気の中にも、奥深さが醸し出されている、大変素晴らしい作品でした。