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筒井康隆「旅のラゴス」

 

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

 

 昭和61年に刊行された本です。新潮文庫の男性に売れた本の第2位という帯が付されていたので、ついつい手に取ってしまった小説ですが、筒井ワールドにはまってしまいました。

 

本書は、旅人ラゴスが北から南へ、そして再び北へ向かって旅を続けるストーリーです。ラゴスが旅する世界は、人々が奇妙な能力を備えている。その一つが「集団転移」。精神を集中させることで、集団でワープできてしまうのだ。ある牧畜民族の集団に加わったラゴスは、けものたちと同化する能力に劣っていたものの、集団転移の能力に長けていたため、敬意を表される。その民族にいた少女テーデは、その後、ラゴスの心に残り続ける。

それから、相手の心の中に浮かんだ顔を描いたり、まねたりできる才能を持つ絵描きとの出会い。殺されたときに、殺した人物の顔がダイイング・メッセージとなる。

そして、壁を素通りできる才能を持つ男。しかし、恋した女性の部屋に侵入する際、素通りの最中に固まってしまう。

ラゴスは、ときに奴隷となる。銀鉱で働かされるが、精錬の技術を買われて奴隷の身分から脱却する。

そして、かつて高度な文明を持った都市に佇む宇宙船の残骸にこもり、文献を読み漁る日々を送る。そして、なぜか人々から王様としてあがめられるようになり、2人のお妃を持ち、王国を築くことに。

その後、そこで蓄積した知識を胸に、再び北へ向かうことに。奴隷商人に捕らわれるが、うまく親戚の家にたどり着き、解放される。

久方ぶりに故郷へ戻ると、父親から歓迎される。人々もラゴスの知識に興味を持ち、学校で講義を行う。

しかし、ラゴスは、かつて出会ったテーデのことが忘れられず、夢の中でテーデがいる氷の国を目指して再び旅に出るのだった。。。

 

ある意味、支離滅裂なストーリー展開ではあるのですが、そこがまさに絶妙な筒井ワールドとなっています。基本的にSF小説なのですが、行く先々で何が待ち受けているかわからない波乱万丈な旅という意味では、『オデュッセイア』と共通する面もありますし、恋愛の要素も織り込まれたり、ユーモアたっぷりなキャラクター設定もあり、あっという間に読み通してしまう小説です。

筒井作品は初めて読みましたが、はまりそうです。