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サマセット・モーム「ジゴロとジゴレット」

 

ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

ジゴロとジゴレット: モーム傑作選 (新潮文庫)

 

 

モームの短編集です。さすがモームという作品ばかりで、訳も読みやすいです。

 

「アンティープの三人の太った女」は、別荘で一緒に暮らしながらダイエットに励む三人の中年女性の話。三人のうちの一人のいとこがそこにやって来て、ダイエットに励む三人を横目に美味な食事を取り始めたことで三人の間に亀裂が入るが、そのいとこが去っていくと、三人は大食いを始める。。。

 

「征服されざる者」は、ドイツ占領下のフランスで、ドイツ兵が農家の娘に無理やり乱暴し、子供を孕ませてしまう話。妊娠していることが分かったドイツ兵は、その娘のことを愛おしく思うようになる。娘の両親は次第にドイツ兵に好意を抱くようになるが、娘は頑なにドイツ兵を拒否する。やがて子供が生まれると、娘は直ちに川に沈めて殺めてしまう。。。

 

キジバトのような声」は、若手作家がプリマドンナのロマンスについての小説を書いた話。主人公はその作家に実際にプリマドンナを紹介するのだが、完成した作品についてそのプリマドンナは大いなる不満を表明する。

 

「マウントドラーゴ卿」は、異能の精神分析医のもとを爵位を持つ外務大臣のマウントドラーゴ卿が訪れる話。マウントドラーゴ卿は、育ちの悪いある議員から嘲笑される夢にうなされていた。マウントドラーゴ卿はかつてその議員を完膚なきまでにやっつけたことがあり、それが夢の原因とみた医師は、マウントドラーゴ卿に対し、その議員に謝ることを勧めたのだが、マウントドラーゴ卿はそれを拒否した。ある日医師が新聞を見ると、マウントドラーゴ卿が列車に轢かれた記事があった。そして、その議員も急死していたのだった。。。

 

「良心の問題」は、妻を殺害した罪で遠く離れた刑務所に収監された男の話。 男が殺人を犯した動機は後悔だった。男は親友を裏切ってある女性と結婚したが、いざ結婚してみると、女はつまらない女であることが分かった。男はこんな女のために親友を裏切ったことを後悔し、妻を殺害する。。。

 

サナトリウム」は、結核療養所での人間模様を描いた作品。十数年も滞在する男がブリッジで大勝利を遂げた瞬間に絶命したり、色男の少佐が純真な女性に惚れ、寿命が縮まる覚悟で結婚したり、健康な妻との関係が悪化した男が、少佐の結婚を見て、夫婦仲を取り戻したり。。。

 

「ジェイン」は、中年女性のジェインが27歳年下の若い男と結婚する話。ジェインの義姉は、その結婚は金目当てに違いないということで猛反対した。しかし、ジェインは結婚を機に話術を駆使して社交界に広い人脈を持つようになる。やがて、2人は別れることになるが、それはジェインが夫を振って、別の中年男性と結婚するためだった。ジェインは自分の話がウケる理由について、ほんとのことを言うからだ、と自己分析する。。。

 

「ジゴロとジゴレット」は、かつてジゴロだった男と、危険な飛び込みの芸を売りにする女の話。女の芸は好評だったが、あるとき女が、もう飛び込みをやりたくないと男に懇願する。妻を愛する男は、妻に同情する一方で、収入が途絶えることの不安に苛まれる。ようやく男は、妻がこれ以上危険な芸をやることをやめることを受け入れるが、その途端、妻はケロっとして微笑みながら、飛び込みに向かっていった。。。

 

最後の「ジゴロとジゴレット」は、結末がどうなるのかハラハラして読み進んでいきますが(妻が嫌々飛び込んで命を落としてしまうのではないか?)、あっけらかんとしたラストが衝撃的で清々しく、思わず唸らされてしまいます。

 

個人的に一番のお気に入りは「良心の問題」です。後悔が動機で殺人を犯したという設定が見事です。

 

いずれの短編もがっかりさせられることはなく、キラリと光るものばかりです。ストーリーも一辺倒ではなく、一捻りあって、ラストに思わず考えさせられるという展開が多く、読後に充実感を得られるものばかりです。

 

オススメの短編集です。