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映画、書評、ジャズなど

ポール・セロー「ワールズ・エンド(世界の果て)」

 

ワールズ・エンド(世界の果て) (村上春樹翻訳ライブラリー)

ワールズ・エンド(世界の果て) (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

 著者は、『鉄道大バザール』で一世を風靡した紀行エッセイで有名な方です。独特のシニカルな切り口で世界各国をぶった切るエッセイが特徴的ですが、そんな実体験も踏まえて書かれたであろうこの短編集も大変面白かったです。

 

タイトルにもなっている「ワールズ・エンド(世界の果て)」は、アメリカからロンドンの一角に移り住んだ一家の話。子供と凧揚げに行くが、子供の話から妻の不倫疑い、自分の留守中に、子供に監視させるが、何事もなかった。ほっとして子供のベッドに行くと、布団の中にはパン切りナイフが隠されていた。。。

 
「文壇遊泳術」は、作家を目指す主人公が、大物の作家たちを招いたパーティーを次々と開催し、人脈を広げていく話。
友達の輪というのは算術である。しかし多くの人はせっかちすぎるか利己的すぎるかで、必要な手順をうまく進めることができないのだ。
 
「サーカスと戦争」は、ロンドンからある一家にホームステイに来た少女の話。少女は家の主人のことが好きになれず、サーカスの誘いも、動物虐待だといって断ると、主人は少女に戦争の話を持ち出して、戦争よりはサーカスの虐待の方がましだと主張する。
 
コルシカ島の冒険」は、コルシカのバーで一目惚れした女とその日のうちに駆け落ちする話。男はアメリカ人の大学教授で、妻に逃げられたばかりで、女は亭主から逃れたいと思っていた。しかし、駆け落ちは思っていたほどにロマンチックな雰囲気にはならなかった。。。
 
「真っ白な嘘」は、アフリカで暮らす若者の話。その若者は、アフリカの女性と逢瀬を楽しんでいたが、あるとき白人の一家が近くに滞在に来ると、その娘に乗り換えようとする。しかし、彼はアイロンをかけていないワイシャツを着たために、ワイシャツにいた蛆が身体中の皮膚で繁殖してしまい、その娘との恋は叶わなかった。それは彼が嘘をついてきた報いだった。。。
 
 「便利屋」は、 著名な作家の書簡を編集しようと、ロンドンへ通う批評家の話。著名な詩人の知遇を得るが、その家に呼ばれて行くと、期限を損ねて追い返されてしまう。そこで、その詩人の家で便利屋として出入りしている男に、その詩人の原稿を持ち出してくるよう依頼する。便利屋は詩人の原稿をタイピングしたものを渡すが、そこには便利屋が書いた詩も挟み込まれていた。。。
 
「あるレディーの肖像」は、違法な資金をアメリカに持ち帰るためにパリに滞在する男の話。男は、資金を渡されるのを待つ間、秘書の女と仲良くなるが、その女性はレズビアンだった。数日後に資金を受け取ることができたが、男はパリにいることのウンザリし、後悔しており、早くパリを離れたいと願っているのだった。。。
 
「ボランティア講演者」は、アメリカの外交官が、知人の夫妻を訪ねてドイツに赴いた話。主人公は急遽知人から講演を依頼される。夫妻は幸せに暮らしているかのようだったが、夫人は、夫が出かけた後に、主人公のベッドの中に入り込んできて、夫に対する批判を展開するのだった。。。
 
「緑したたる島」は、女が妊娠してプエルトリコに駆け落ちした若いカップルの話。二人はじきに結婚も考えていたが、関係が長くは続かないことは分かっていた。男はやがてホテルのバイトを見つける。女は男に、生まれてくる赤ん坊を誰かに譲るかどうかについて決断を迫る。やがて男はホテルのバイトをやめることになるが、赤ん坊をどうするかについては決断できないままであり、途方にくれる。。。
 
 著者の本では、かつて『ゴースト・トレインは東の星へ』を読みましたが、そちらもとても面白かったです。
この本では、日本で村上春樹氏と一緒に秋葉原に行った話などが書かれていましたが、村上春樹氏は、この短編集の訳者ですので、そうしたご縁からの付き合いなのでしょうか。
 
 いずれの短編も面白かったのですが、中でも「真っ白な嘘」は印象的です。人の皮膚に蛆が繁殖することなんてあるんっかと思いましたが、訳者のあとがきによれば、実は著者自らの経験だったようです。
 
世界各国をアグレッシブに旅しているだけあって、豊富な小説の題材を集めているのでしょう。面白い作品でした。