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池井戸潤「果つる底なき」

果つる底なき (講談社文庫)

果つる底なき (講談社文庫)

 金融ものの小説はやはりこの方の作品は楽しめます。1998年刊行ですので少し古い小説ですが、現在でも十分リアリティを感じながら読み進めることができます。

 銀行の支店に勤務する伊木と坂本は同期で、坂本は伊木の後を受けて債権回収に当たっていた。ある日伊木が坂本に出くわしたが、その日、坂本は車の中で死んでいるのが見つかった。死因は蜂アレルギーによるショック死だった。何者かが坂本のアレルギーを知っていて殺害したと思われた。しかも、坂本が不正に送金した形跡が見つかった。

 伊木は坂本が不正を行ったとは考えられず、真相の究明に動く。坂本は伊木の後を受けて、東京シリコンという会社の債権回収に当たっていた。その会社は信越マテリアルを大口の取引先としていたが、信越マテリアルの経営が行き詰まり、倒産したのだった。

 伊木が調べてみると、信越マテリアルは融通手形、つまり売上げの実体の伴わない手形を振り出していたことが分かる。しかも、その手形の割引で得た資金は、信越マテリアルではなく、ある女性に送られていたことが判明する。その女性とは、かつての信越マテリアルの社長秘書だった仁科佐和子だった。

 信越マテリアルには、商社から出向していた山崎という男がいた。彼は信越マテリアルを買収しようとしていたが、うまくいかず、社長秘書の仁科に近づいた。そして、海外への投資のための裏金として融通手形を振り出させた上で、その資金をもって仁科に新たな会社を立ちあげさせていたのだ。そして、銀行の支店長代理の男にも貸しを作り、利用していたのだった。
 坂本はそうした真相に近づいていたため、山崎らの手によって殺された。。。


 こうしたストーリーの骨子に加え、入り組んだ恋愛関係がこの小説の魅力を高めています。この辺の組立の巧さは、さすがです。

 ミステリー作品にお金と恋愛が絡むと俄然面白くなりますが、この小説もその例に違わない面白さがありました。