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「アイズ・ワイド・シャット」★★★★☆

アイズ ワイド シャット [DVD]

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 スタンリー・キューブリック監督の遺作となった作品です。ニコール・キッドマンのセクシーな姿態がこれでもかとばかり登場する作品です。

 医師のビル(トム・クルーズ)は、妻のアリス(ニコール・キッドマン)との間に一人娘がいる。ある日、夫婦で友人のビクター(シドニー・ポラック)の主催するクリスマス・パーティーに出席する。アリスは中年のダンディな男からの誘いを楽しみ、ビルもモデルから誘惑され上機嫌となっていたが、急遽ビクターから寝室に呼ばれ、薬物で意識がもうろうとした娼婦マンディーの治療に当たった。
 2人は帰宅したが、アリスはヘロインでラリってしまい、自分がかつてホテルで海軍士官に惚れ込み、その士官のためなら家族も捨てられるくらいに入れ込んでしまっていると告白する。それを聞いたビルは、妻とその男の逢瀬を想像してしまい、強いトラウマを抱くようになる。

 ビルはビクターのパーティーで大学時代の旧友で今はジャズ・ピアニストをやっているニック・ナイチンゲールに再会する。その縁でニックが出演するライブに足を運んだところ、ニックから、思いがけない話を聞かされる。それは、ニックが謎の仮面舞踏会でピアノの演奏をしばしば頼まれているという話だった。そこでは夜な夜な密かに盛大な乱交が繰り広げられていたのだった。

 ビルは躊躇するニックからパスワードを聞きだし、仮装の衣装をレンタルして、その場所に向かう。門でパスワードを伝えて館の中に入ると、そこでは怪しげな儀式の後、参加者が次々と乱交に突入していた。

 ところが、ビルは預けたコートのポケットに入っていたレンタル衣装の領収書から身元が明かされてしまう。大勢の前に引きずりだされたビルは、仮面を取るように言われる。その後、服を脱ぐように言われたが、一人の女性がビルの身代わりになることを申し出たことで、ビルは難を逃れることができた。

 帰宅したビルはニックの滞在場所であるホテルを訪ねたが、ニックは既にホテルを離れていた。ホテルの従業員に聞くと、ニックは顔に青あざがあり、別の男に怯えながらホテルから連れ出されたとのことで、ビルはニックのことが心配となる。
 そして新聞に目を通すと、元ミスコンの女王が薬物摂取で死亡したとの記事が。病院を訪ねると、その死体はビクターの家で治療したマンディだった。昨晩の館でビルをかばったのもマンディだったのだ。

 ビルはビクターに呼び出される。そしてビクターはビルを何者かに尾行させていたことを告げ、昨晩の館の件の詮索を辞めるように諭される。ビクターは自分も昨晩の館にいたことを告白し、そこにいた人々がとても言えないほど危険な人物であることをビルに告げる。

 憔悴して家に帰ったニックは、ベッドに昨晩の館で使った仮面が置いてあるのを見つけて打ちのめされ、アリスにこれまでの一連の経緯を話すことを決意したのだった。

 娘のプレゼンとを買いに家族で出かけている最中、夫婦はこれからについて小声で話をしていた。アリスが、夫婦の絆を確かめるために今すぐしなければならないことは「ファック」だと囁いたところで、映画は終わります。


 差し迫る恐怖感、人々の潜在的な意識に基づく妄想の描写等々、いずれもキューブリック監督の真髄が現れている作品です。過激な性的描写がこれでもかというほど登場しますが、それらが作品の描写の中で決して無駄な感じがしません。人々の性的に歪んだ内面を観る人の心の奥底まで突きつけられるような感覚を与えるところは、さすがにキューブリック監督です。 ところで、キューブリック監督はジャズについても大きな関心を持っていたようです。この作品の中でもジャズピアニストのニック・ナイチンゲールが重要な位置を占めており、挿入歌として用いられているのはショスタコーヴィチのジャズ組曲です。 さらに以下のリンクを見ると、キューブリック監督はジャズをテーマにした作品の制作を希求していたようです。

http://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2013/03/stanley-kubricks-unmade-film-about-jazz-in-the-third-reich/274225/

 この記事を見ると、キューブリック監督は、Mike Zwerinというかつてマイルス・デイヴィスの初期のバンドに在籍していたこともあるトロンボーンプレイヤーであり、ジャズ評論家でもあった人物による“Swing Under The Nazis”という本を見て、第二次大戦下のヨーロッパにおけるジャズについて映画化を考えていたようです。

Swing Under the Nazis: Jazz as a Metaphor for Freedom

Swing Under the Nazis: Jazz as a Metaphor for Freedom

 キューブリック監督の目に止まったのは、Schulz-Koehnという人物の写真。キューブリック監督はこの人物についての作品を作りたいと思っていたようですが、それは叶わなかったとのことです。

 その写真というのがこれです。
http://papabecker.com/swingtimeforhitler.htm

 ドイツ空軍隊員が黒人やジプシー、ユダヤ人たちと一緒ににこやかに移っている写真は、ナチス支配下でのジャズの隆盛について様々な想像を与えてくれます。

 キューブリック監督のジャズ作品が日の目を見なかったことは、ジャズファンにとっては大変残念です。