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映画、書評、ジャズなど

モーム「雨・赤毛」

雨・赤毛 (新潮文庫―モーム短篇集)

雨・赤毛 (新潮文庫―モーム短篇集)

 サマセット・モームの3つの短篇が収められた新潮文庫です。特に「雨」は訳者の中野好夫氏が解説の中で

「おそらく世界短篇小説史上にも永久にのこる傑作であろう。」

と述べているほどの作品です。

 「雨」は、サモア諸島で原住民の布教を行っている宣教師デイヴィッドソンの話。デイヴィッドソン夫妻は船で任地に向かう途中、検疫のためにある島に滞在することになる。ある現地人の家の2階に泊まることになったが、そこでは船上で一緒だった医師マクフェイルの夫妻と、娼婦のミス・トムソンが一緒だった。

 ミス・トムソンは階下で男たちを招き入れ、音楽を大音量で鳴らすなどしたため、デイヴィッドソンはミス・トムソンに激しい敵意を抱き、彼女の行動を正そうとするが、改心しないミス・トムソンにしびれをきらしたデイヴィッドソンは、彼女を強制送還させるよう総督に手配させた。

 追い込まれたミス・トムソンはデイヴィッドソンの下を訪れ、悔い改めることを誓う。ミス・トムソンは奴隷のようにデイヴィッドソンにすがるようになり、デイヴィッドソンは夜を徹してミス・トムソンに付き合う。

 ある朝、マクフェイルは原住民に起こされ、外について来るように言われた。行ってみると、そこにはデイヴィッドソンの死体があった。剃刀で喉を斬って自殺したのだった。

 宿泊している家に戻ると、マクフェイルは驚くべき光景に遭遇する。ミス・トムソンが再び大音量で蓄音機を鳴らしていたのだった。マクフェイルを見るとミス・トムソンは大声で笑い、唾を吐いた。彼女は次のようにのたまったのだった。

「男、男がなんだ。豚だ!汚らわしい豚!みんな同じ穴の狢だよ、お前さんたちは、豚!豚!」

 物語は次のようなフレーズで終わります。

「マクフェイル博士は息を呑んだ。一切がはっきりしたのだ。」

 つまり、淫らなミス・トムソンを糾弾し教化を図っていたデイヴィッドソンが、彼女の誘惑に落ちてしまったというわけです。

 2本目の短篇は「赤毛」。ある船長が、島に住むニールソンという人物を訪ねる。ニールソンは25年間この島に暮らしている。ニールソンは、この島を舞台にしたある恋愛について語り出す。かつてレッドという米兵の美しい男が軍艦から脱走し、この島にやってきた。レッドは島の美しい女サリーと出会い、2人は恋に落ちて幸せな日々を過ごす。ある日、英国の捕鯨船が近くに来た。レッドはタバコをもらいに捕鯨船のところに行ったのだが、その船長が人手欲しさにレッドを酔わせて誘拐してしまった。サリーは悲しみに暮れた。サリーはレッドを待ち続けた。そんなサリーにニールソンは恋をし、一緒に住んでくれるように頼むがサリーはそれを断る。サリーが拒めば拒むほどニールソンの思いは募っていった。やがてサリーはニールソンの妻になった。しかし、心は依然としてレッドに向けられていることは明らかだった。

 ニールソンはこの船長に名前を聞いて驚く。その船長こそがレッドだったのだ。そこにサリーがちょうど入ってきた。サリーは年を取って醜悪になったレッドに気がつかなかった。レッドもサリーに対する思いはすっかり冷めてしまっていた。ニールソンは次のように心の中でつぶやく。

「彼女も年を老って、肥った土地の女になってしまっている。いったい俺は何故この女をあんなに夢中に恋したんだろう?」

 3本目の短篇は「ホノルル」。ホノルル旅行で出会ったバトラー船長の話です。主人公は友人に連れられてバトラー船長の船を訪ねると、バトラー船長は現地の女と仲睦まじく寄り添っていた。主人公はバトラー船長の船で壁にかかっている大きなふくべを見つける。そこからバトラー船長の話が始まる。

 かつて船の航海士がバトラー船長を連れて現地の家に連れて行ったが、そこで船長は一人の美しい女と出会う。父親と話をしてお金を払い、バトラー船長は娘をもらうことに成功する。しかし、航海士もその娘に恋をしていた。娘は航海士を解雇することをバトラー船長に訴えるが、バトラー船長はそのまま航海士を雇い続けた。あるときバトラー船長は原因不明の病に冒される。娘はそれは航海士による呪いが原因だと主張する。そして、娘はその航海士にふくべをのぞきこませて、その間に航海士を殺害する。

 その娘というのは、今バトラー船長が仲睦まじくしている娘とは別の娘であり、その娘は中国人コックと一緒に逃げてしまったのだとか。それが、バトラー船長が今醜いコックを雇っているわけだったのだ。。。


 3つの短篇のうち、「雨」と「赤毛」は抜群に面白いです。「雨」は人間の弱さをこれでもかとえぐり出していますし、「赤毛」は永遠の恋という幻想を鮮やかに粉砕しています。

 モームの作品はどれも分かりやすく人間の深層心理の部分、それも醜悪な部分を浮き彫りにさせるものであり、どれを読んでも大変面白い作品ばかりです。