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映画、書評、ジャズなど

「紙屋悦子の青春」★★★★☆

紙屋悦子の青春 [DVD]

紙屋悦子の青春 [DVD]

 黒木和雄監督の遺作となった2006年の作品です。
 ずっと見たいと思って録画をしたままになっていたのですが、ようやく鑑賞することができました。終戦前の鹿児島を舞台に、紙屋悦子と兄夫婦を巡る日常風景を描いた作品です。

 舞台は、病院の屋上で老夫婦が静かに佇む場面から始まる。

 紙屋悦子(原田知世)は兄の安忠(小林薫)とその妻のふさ(本上まなみ)と一緒に鹿児島で暮らしていた。悦子は独身だったが、ある日、安忠の後輩の明石少尉の親友の永与少尉と見合いをすることになった。悦子は明石少尉のことは知っており、内心明石少尉に思いを寄せていたが、明石は日本の戦況を打開するために特攻隊に志願することを決めており、自分の友人の永与少尉に悦子を託そうとしていたのだった。

 お見合いの日のタイミングで、安忠はちょうど熊本に徴用されることになり、妻のふさも一緒に熊本に行ってしまったために、お見合いは悦子と明石少尉と永与少尉の3人で行われることになった。悦子は永与少尉と結ばれることを即座に決めた。

 その後、明石少尉が特攻隊に出撃前に挨拶に来た。悦子はもう会えないことが分かっていたが、帰る明石少尉の後を追わず、家で泣き崩れた。

 明石少尉が亡くなったことを永与は悦子に告げる。永与も大村への転勤が決まったが、悦子は永与を待つことを決めた。。。

 場面が戦後の晩年の永与と悦子が病院の屋上で静かに言葉を交わすシーンと、終戦前の自宅での日常的な場面の大きく2つを行った来たりするだけです。しかし、終戦前のシーンでは、社会情勢は目まぐるしく変化し、緊迫感が増していることが伝わってきます。これだけ簡素なシーンであるにもかかわらず、見る者の想像力を膨らませているわけです。

 庭の桜と耳を澄ますと時折聞こえる波の音が効果的に使われており、この作品の基調を成しています。ちょうど桜が咲き始め、花びらが散り始める頃が作品の舞台となっているのですが、シンプルな場面情景の中で桜の美しさが巧く表現されています。

 そして、この作品でもっとも輝いているのは悦子を演じる原田知世でしょう。日本的な清楚は美を備えた原田知世が、この時期を生きる女性の制約された状況をうまく表現しています。与えられた社会情勢の中で気丈にかつ堅実に力強く生き、そこに幸せを見出そうとする日本女性の姿を悦子は素晴らしく体現していると言えるでしょう。

 戦争前後を表現した日本映画を見ていつも思うのは、力強い女性像こそがこの時代の特徴だということです。その力強さというのは表に出てくる力強さではなく、内に秘めた力強さです。そんな女性を演じるのに、原田知世は正にぴったりのキャスティングだったように思います。

 戦争という悲惨なテーマを取り扱っている映画でありますが、とても清々しい余韻を残してくれる作品でした。