現代思想を学ぶ上で避けて通れないほど偉大な思想を残したハンナ・アーレントを取り上げた作品ということで、見に行かないわけにはいきません。神保町の岩波ホールまで行って鑑賞してきました。
アーレントが残した数々の業績はあまりにも有名で、あえて触れるまでもないでしょう。私が最も手にした本は『人間の条件』ですが、
- 作者: ハンナアレント,Hannah Arendt,志水速雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1994/10
- メディア: 文庫
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- 作者: ハンナ・アーレント,大久保和郎
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1969/02/20
- メディア: 単行本
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『全体主義の起源』を著すなどして研究者として一目置かれていたアーレントは、かつてユダヤ強制収容所に収容されていた過去を持つが、アイヒマンがイスラエルで裁判にかけられることを知り、イスラエルでこの裁判を傍聴し、これをニューヨーカー誌に連載することになる。
裁判傍聴が終わり、アイヒマンには絞首刑が言い渡されたが、アーレントの原稿執筆がなかなか進まなかった。それは、あれだけ想像を絶する残虐行為を働いたアイヒマンが、実は怖いほどどこにでもいる人間だったからだ。
アーレントは悩み抜いた結果、アイヒマンは思考不能だったと結論づけた。そして、実はユダヤ人居住地には指導者がいて、彼らが何らかの形でナチに協力しており、それが残虐行為の拡大につながったのだと指摘する。
この結論に対しては、当然、大変な批判が沸き起こることになる。アーレントは決してナチを擁護しているわけではないと弁解するものの、多くのユダヤ人の友人を失う。他方、大学の講義でこうした見解を述べると、学生たちからは大きな喝采が寄せられた。。。
終わりの方の大学の講義の場面で、アーレントは簡潔に持論を展開しています。
「世界最大の悪は、平凡な人間が行う悪なのです。そんな人には動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない。人間であることを拒絶した者なのです。そしてこの現象を、私は『悪の凡庸さ』と名づけました。」
また、アーレントが夫のハインリヒに対して述べている言葉です。
「凡庸な悪は、根源的な悪とは違うの。あの悪は極端だけど、根源的ではない。深く、かつ根源的なのは善だけ。」
こうしたアーレントの主張の趣旨を聴けば、アーレントが決してナチを擁護するつもりなど毛頭なく、アーレントはただ単に、アイヒマンがどうしてこれほどの残虐行為を遂行するに及んだのかを突き止めようとしたことは一目瞭然です。しかしながら、当時はまだこうした冷静な分析が認められる情勢ではなかったのです。
この作品は、アーレントのアイヒマン分析を巡る当時の様子を分かりやすくまとめています。ただ、なぜユダヤ人であるアーレントがこうした主張を展開しなければならなかったのか、あまり知られていないような史実なども交えながらもう少し突っ込んで掘り下げることができたらもっと良かったように思います。