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映画、書評、ジャズなど

金沢ジャズストリート 2・3日目

 続いて金沢ジャズストリート2日目についての報告です。

 この日は残念ながら台風接近中のため、朝から小雨がぱらつくあいにくの天候。雨天モードに切り替えられ、屋外でのステージが中止となり、屋外に移されての開催になりました。

MASARA

 ホールでの最初のステージはMASARA。ジプシーバイオリンの太田恵資、フラメンコギターの高木潤一、そしてインドのタブラという打楽器の吉見征樹の3人によるグループです。いつもは各々で活動されている方々だそうで、3人集まって活動されることは稀だそうです。

 演奏された音楽ジャンルは幅広く、まずはジャンゴ・ラインハルトの♪Minor Swingから。その後、ロシアの歌である♪Dark Eyes(黒い瞳)、ジョビンの名曲♪Wave、そして♪カーニバルの朝が演奏されました。

 興味を惹かれたのはタブラという楽器です。2つの太鼓しかありませんが、これらをいろんな形で叩くことで、生まれてくる音はとても厚みがあり、重厚感たっぷりです。演奏者の吉見さんはインドで修行されたというだけあって、さすがのテクニックです。フラメンコギターも気持ちの良いリズムを正確に刻み続けておられました。バイオリンの演奏も大変レベルの高いものでした。

 3人ともとても演奏レベルが高く、3人のまとまりも大変素晴らしいグループですが、いかんせん知名度のせいか、空席が目立ったのが大変残念でした。今回のジャズストリートのステージの中でも間違いなくトップレベルの演奏の一つであったので、これから知名度が上がってこれば、もっと多くの人が聴いて楽しめる音楽ではないかと思います。

 そう言う意味で、大きな収穫となったライブでした。

Youn Sun Nah & Ulf Wakenius

 MASARAの後に登場したのは韓国の歌姫とスウェーデンのギターリストのデュオです。
 ユン・サン・ナはフランスで知名度があるヴォーカリストのようですが、登場して最初に不思議な楽器を手にして♪My Favourite Thingsをしんみりと歌い出した瞬間に会場全体を自分のペースで包み込んでしまう力には圧倒されました。とても声量があり綺麗で清涼感に溢れる歌声に酔いしれました。 ただ、大半の曲は、そうした清涼感とは無縁のスタイルで、奇声を発するような前衛的なものばかり。重苦しい雰囲気の中で絞り出すように唸る声を延々と出していて、正直聴いていて楽しい気分になるステージではありませんでした。こういうスタイルが好みの人たちにとってはうけるのでしょうが、正直、せっかくの綺麗な声を台なしにしてしまっているかのような印象も受けました。ジャンルを広げることもチャレンジングで大事だと思うものの、この声で美しいスタンダードの曲をしっとりと聴いてみたかったと思ってしまいました。

 最後のアンコール曲♪Avec Le Temnpsはとても素晴らしく、鳥肌が立ちました。彼女はこういう曲をしっとり歌うのが一番合っているように思いました。

DIANNE REEVES

http://kanazawa-jazzstreet.jp/special_concert.html
 この日の最後のステージは、アメリカを代表する歌手の一人ダイアン・リーヴスです。過去に4度のグラミー賞を受賞された正に歌手大物です。会場も超満員で埋まり、開演前から興奮状態です。この歌手が金沢に足を運ぶこと自体、金沢ジャズストリートがすっかり世界的にも浸透してきていることの証でしょう。

 ダイアンが登場してまずびっくりしたのは、その肥えた容姿。ヴォーカリストですから多少体がしっかりしていた方が声量にもつながるのでしょうが、正直この肥え方はびっくりしました。

 しかし、舞台構成はさすがです。アップテンポなナンバーからスローなナンバーまでを織り交ぜ、聴衆が楽しめるエンターテイメントを作り上げています。ダイアンが歌うだけで独特のジャズのリズムが内在されてしまうといった感じです。ジャズが体に染みついているというのは正にこういうことを言うのでしょう。バックを固める布陣もなかなかの腕前で、ピアノやギターどれも素晴らしい演奏ばかりでした。

 至福の夜というにふさわしい最高のステージでした。

街角ライブ

 この日はあいにくの天気だったため、屋外ステージが取りやめになり、屋内の会場になりました。屋外会場は目立たないところですので、通行人が足を止めて見るというわけにもいかず、どれくらい人が来ているのか気になりましたが、会場に行ってみると、多くの人たちが詰めかけて、どの会場も大盛り上がりでした。おそらく、ジャズストリートのためにわざわざ金沢市内に足を運んでいる人たちが多くおられるということなのだと思います。

 石川県教育会館3Fのホールは結構な客席がありますが、足を運んでみるとちょうど神戸から来られたという社会人ビッグバンドが演奏しており、客席は満席に埋まっていました。

 香林坊大和8Fの特設ステージでも椅子がすべて埋まるほどの活況。

 ラブロ片町の1F会場でも、多くの聴衆が声援を送っていました。

 ジャズストリートでは毎年コンペティションをやっていますが、その会場も超満員です。

 雨天で会場が急遽変更になったにもかかわらず、これだけの聴衆がそれぞれの会場に集まるというのは、金沢市民がいかに文化に造詣が深いかを表していると思います。

 そもそも、地方都市でこれだけ大々的な文化の催しをやろうそすれば、普通はまず市民の一部から反発が出て来ます。すぐに費用対効果という経済効果に換算され、その施策の是非が議論されてしまい、こうした催しは費用対効果が合わないということで途中で途切れてしまうわけです。あるいは市長が替わればこうした催しがとぎれてしまうことが普通の状況です。
 ところが、金沢市の場合、こうした大々的なジャズの催しが5年間も続いており、しかも毎年バージョンアップしているのです。これはある意味で奇跡的なことだと言っても良いかもしれません。それだけ金沢市民が文化政策の重要性を認識されているということでしょう。
 普通の地方都市では、街角ライブをやっても足を止める人は限られていますが、金沢市民は足を止めたり、あるいはわざわざ足を運んでプロ・アマを問わずその演奏に熱心に耳を傾け、温かい拍手を投げかけています。

 ジャズストリート自体は年に3日間だけのイベントではありますが、わずか3日間であっても、このイベントこそが金沢市の文化的土壌の深さを象徴しているように思います。

Vladimir Shafranov+鈴木勲+本田珠也

 3日目のライブはシャフラノフのホールライブからスタートです。
 ♪Autumn Leavesから始まり、♪My Foolish Heart, ♪Emilyと名曲の数々が続きますが、とにかく選曲が素晴らしい。自らの奏法に合った美しいスタンダードナンバーをセレクトしています。 ジャズミュージシャンの中にはライブの選曲をあまり重視していない方が結構見受けられますが、それは明らかに間違っていると思います。どの曲を選ぶかは正にミュージシャンのセンスそのものであり、ある意味、選曲の時点で勝負が半分くらいは決まっていると言っても過言ではないように思います。

 このステージはその後♪カーニバルの朝が演奏され、アンコールは昨日の尾山神社に続いて♪It's A Wonderful Worldで締められました。とても素晴らしいステージでしたが、ベーシストとの相性はもう少し考えた方が良かったかなと思いました。

 ライブの後にアルバム『Whisper Not』を購入しましたが、これまたとても素晴らしいアルバムでした。

ウィスパー・ノット

ウィスパー・ノット

Giovanni Mirabassi

 ミラバッシのステージは数年前に東京のブルーノートで鑑賞しましたが、とても繊細で美しい演奏をするピアニストという印象でした。今回も期待を裏切らない素敵なステージでした。その前のシャフラノフとはある意味対照的なステージで、叙情詩を聴いているような感覚になるステージです。クールに淡々と美しい旋律を紡ぎ続ける才能は正に天才的です。余計なトークもなく、ひたむきにピアノを奏で続け、幻想的なステージを作り上げています。演奏が終わった後、思わず大きくため息をついてしまいました。

 CDも購入して聴きましたが、ライブと同様、とても美しいアルバムでした。

Adelante

Adelante

総括

 今年は日本列島に台風が直撃したため、2日目、3日目の屋外ステージがすべて取りやめになり、屋内に移しての実施となりましたが、屋内の会場には大勢の聴衆が詰めかけ、金沢ジャズストリートの市民への定着が窺えました。これは5年間続けたことによるものです。
 今年はチック・コリアダイアン・リーヴスなど超大物を呼んだことで、ホールでのライブは大いに盛り上がったように思いますが、個々のライブの是非は置いておくとしても、これだけのビッグネームを呼ぶようなフェスティバルに成長してきたことは、素晴らしいことだと思います。

 他方で、地方のジャズフェスの良さもきちんと残していく必要があります。このイベントの特徴として、市長はパンフレットで次の3つのコンセプトを挙げておられます。

1.遊空間を楽しむ「まちなかでの開催」
2.学都・金沢に相応しい「学生の参加」
3.金沢ならではの「伝統的空間の活用」

 ジャズストリートはこの3つのコンセプトを実にうまく体現して実施されていると思いますが、年によってその比重も微妙に異なっていることも事実でしょう。今回はあえて言えば、2.の「学生の参加」がやや見えにくかったかなという気がします。

 例年、私の楽しみの一つに、尾山神社での国立音楽大学のニュー・タイド・ジャズ・オーケストラのライブがあったのですが、今回は尾山神社でのライブがプログラムになかったのは残念に思いました。おそらく私同様にニュー・タイド・ジャズ・オーケストラの尾山神社ライブを楽しみにしておられたかたも多かったのではないかと思います。

 会場についても、金沢の今や最大の観光名所である金沢21世紀美術館の敷地を活用するべきでしょう。街中から少し距離は離れますが、歩けない距離では全くありません。美術館に来館した客がそこでジャズを聴けたらとても素晴らしいシチュエーションだと思います。

 また、かつては夜についても、市内のライブハウスとの連携が図られていたように思うのですが、地域や街全体でこのフェスティバルを盛り上げていくためには、そうした取り組みにもう少し力を入れても良いのではないかと思います。それができるのも地方都市ならではです。

 さらにいえば、ジャズをテーマにしたシンポジウムを開催するとか、もう一歩踏み込んだ発信を行ってもよいかもしれません。

 いずれにしても、このフェスティバルが5回も続いてきたのは、金沢市民の文化活動に対する理解度の高さによるものだと思いますので、金沢市民の皆様に心から敬意を表したいと思います。他の地方都市のジャズフェスに比べて、金沢ジャズストリートのレベルの高さは群を抜いていると思います。

 どういうミュージシャンを呼ぶかはそのフェスティバルのセンスが問われます。大物を呼ぶのはある意味分かりやすいのですが、むしろ、シャフラノフやミラバッシのように、超ビッグネームではないもののキラリと光るミュージシャンをコンスタントに呼び続けることが、金沢のセンスとして確立していくのも一つの方向性かもしれません。

 これからも更に発展していくことを心からお祈りしたいと思いますし、来年のプログラムの内容も楽しみにしたいと思います。