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映画、書評、ジャズなど

金沢ジャズストリート2013 1日目

ジャズ 地域 文化

 今年も金沢ジャズストリートの季節がやって来ました。
http://kanazawa-jazzstreet.jp/
 初回ら毎回訪れ、今年で5回目になりますが、年々じわじわとバージョンアップしてきており、今年は巨匠チック・コリアダイアン・リーヴスを呼ぶまでに発展してきました。日本人ミュージシャンでは山下洋輔が出演する予定だったものの急遽出演できなくなったのが残念ではありますが、それにしてもすごい顔ぶれです。

Count Basie Orchestra

http://kanazawa-jazzstreet.jp/special_concert.html
 まず最初に鑑賞したのはカウント・ベイシー・オーケストラです。かつてカウント・ベイシーがリーダーを務めたあまりにも有名なビッグバンドです。17人のオーケストラですが、青色のワイシャツとネクタイでほぼ統一された光景は壮観です。
 最近のビッグバンドといえば高齢化してどちらかといえば覇気のない演奏をつい想像してしまっていたのですが、蓋を開けたらびっくりするくらいエネルギッシュな演奏を展開してくれました。
 最初からバンド全体の息がぴったり合っており、バラードとアップテンポの曲をうまく織り交ぜながら、最初から最後までゆるみのない素晴らしい構成のステージでした。
 初っぱなは♪All of meから入り、途中で女性ヴォーカリストケイコ・リーが合流して♪Night and day, ♪Someone to watch over me, ♪Love come back to meの3曲を披露。その後もベイシーゆかりの曲が続き、♪Cute, ♪Shiny stockings, ♪April in Paris, ♪I've grown accustomed to her faceなどが演奏され、アンコールはケイコ・リーが再び合流して♪Satin doll。
 やはりジーンときたのは♪April in Parisです。 ベイシーといえば、「ワンノートスタイル」と呼ばれる独特のピアノ奏法で有名ですが、このバンドでも、ピアノが出過ぎず、ひたすらシンプルに必要なところだけリズムを合わせる絶妙な絡み方だったのが印象的でした。

 とにかく、これまでに見たビッグバンドの中では最高の演奏であったことは疑いありません。これだけ個々人の実力と全体のまとまりを兼ね備えたビッグバンドは世界広しといえども他にはないように思います。

尾山神社境内特設ステージ

 金沢ジャズストリートの魅力は、豪華ミュージシャンに加えて、街のあちこちに散らばる屋外会場での演奏です。しかも、これらの会場で同時にライブが繰り広げられているのです。香林坊のエクセル東急の横の坂を下ったところにある広場では、ノルウェーからやって来た「Eple Trio」というトリオが演奏していました。

 演奏はいかにも北欧といった感じで、小刻みに幻想的なリズムを刻み、殺伐とした荒涼感を見事に表現した演奏でした。都市の喧噪の中で、この空間だけがこの瞬間、異国の地にワープしたように、会場に集まった大勢の聴衆はシーンとして演奏に聴き入っていました。こんなコントラストが、このジャズストリートの魅力の一つでしょう。

 さて、場所を移して、尾山神社に足を運びました。ここでは毎年、国立音楽大学のニュー・タイド・ジャズ・オーケストラが演奏して大勢の聴衆を熱狂させていましたが、今年はこのバンドが尾山神社で演奏しないのは少し残念でした。
 尾山神社に足を運ぶと、「4moments」というグループが演奏していました。

 ヴォーカル4人とピアノ、ベース、ドラムという構成で、ヴォーカルの4人は普段別々に活動しているものの、このジャズストリートのためにグループを結成したとのこと。初めての結成とは思えない息のあったステージでした。

 この次に尾山神社の舞台に登場したのがVladimir Shafranovウラジミール・シャフラノフ。レニングラード生まれでニューヨークで活躍したピアニストで、現在はフィンランドの孤島で音楽活動を続けているのだそうです。このステージでは日本人のベーシストとドラマーとのトリオで登場しましたが、その演奏が実に素晴らしかったです。軽快な♪Satin Dollから始まり、♪It don't mean a thingなどが演奏されましたが、スタンダード曲を独創的にセンス良く崩すスタイルがとても気持ち良かったのが印象的でした。ピアノの左端から右端までを滑るように運ばれる指の動きがとても速くてリズミカルです。ボサノヴァの名曲やシダー・ウォルトンに捧げる曲♪Holy Landを独創的アレンジで演奏した後、アンコールは♪It's a wonderful world。司会者が次のセッションに移そうとしているのにあえてアンコール曲を演奏してくれるところがとてもサービス精神旺盛です。

 日本の神社の境内でロシア出身のピアニストがアメリカの音楽であるジャズを演奏するという複雑なコントラストが何と素晴らしいことか!これこそ街中ジャズの最大の魅力だと思います。

Chick Corea & The Vigil

http://kanazawa-jazzstreet.jp/special_concert.html
 初日の最後のステージは、今回のジャズストリートの最大の目玉、チック・コリアの登場です。今の世界のジャズシーンの中で巨匠と呼ぶにふさわしい人物がいるとすれば、このチック・コリアをおいていないかもしれません。そんな巨匠が金沢でライブを開催するのですから、この機会を逃すわけはいきません。

 ただ、一言あえて申し上げておけば、私はチック・コリアのCDを数枚持っているものの、正直なところ、どのCDもあまり繰り返して聴くことはありません。確かにクリエイティブだと思いますし、斬新な音だと思うのですが、正統派のジャズを愛する自分としては、どうしてもなじめないのです。

 そういう中でチック・コリアのライブを始めて鑑賞したのですが、ある意味予想どおりのステージでした。チック・コリアの独創的な演奏が続きます。そして、今回一緒に連れてきたメンバーはチック・コリアからすればはるか年下の若手ばかりです。当然のことながら、チック・コリア中心のステージになるわけで、その光景はあたかも「チック・コリア学園」といった感じです。

 他のメンバーはみんな聴衆の方というよりはチック・コリアの方を見て演奏をしています。チック・コリアも聴衆の方というよりも、むしろメンバーの演奏がうまくいくかどうかに気が向いている様子で、結果的に、ステージ上でチック・コリアがその他メンバーに指導している光景を見せられているかのような錯覚に陥ってしまいました。

 途中の演奏も延々と若手メンバーの単独演奏が冗長的に続いたりして、正直、退屈してしまいました。

 ところが、カリスマの凄いところは、演奏終了後の聴衆の反応で分かります。ステージ自体の出来にかかわらず、聴衆は全員総立ちのスタンディング・オベイションです。そして再び登場したチック・コリアは、聴衆がもっとも待ち望んでいた♪Spainを演奏して、大盛況の中でステージは終了しました。

 個人的には物足りなさを感じたステージでしたが、聴衆は大盛り上がりというところは、さすが現代のジャズの巨匠です。♪Spainの演奏が聴けて本当に良かったです。