- 作者: 三宅秀道
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/10/12
- メディア: 単行本
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つまり、既にある問題の解決に向けて技術を磨くのではなく、新しい文化やしあわせを提案することでこれまで認識されてこなかったような課題を浮かび上がらせることが、売れる商品の開発につながるのだ、ということです。
著者はこうしたストーリーを様々な事例を引き合いに説明します。トイレのウォシュレット機能、飲み口を斜めにすることで首を曲げることができない人でも飲み干すことができるコップの開発、プール帽によって新しいプールライフを提案した企業の事例、私鉄経営を通じて都市の暮らし全部をデザインした小林一三の事例、高級な皮のストラップの開発、バイクの定義を見直してハーレーダビッドソンを日本で売れるようにバイクにした事例、障害者の椅子の研究を通じて椅子の背面にある「第三のカーブ」を発見することで健常者にも快適な椅子を開発した事例、地域の中のニーズから産まれた児童用防犯システムの開発事例等々。。。
著者の伝えたいストーリーは大変共感できますし、数多くの事例を引っ張ってきた労力にも敬意を表します。著者の言うように、人びとに新しい幸せを認識させて新しい市場を開発するという提案は、決して新しいものではありませんが、そこを改めて強調されたことは大変重要だと思います。
ただ、「技術開発」が必要ないというメッセージとも受け止められかねない面もあります。既存の問題の解決に向けて技術を磨いて勝負するというやり方が一概に否定されるべきではありません。そのどちらかによって勝負するかは企業によって異なりますし、できれば両方をうまく組み合わせることが、バランスの取れた企業の発展につながっていくのではないかと思うわけです。
さらにいえば、「余談の多い」というのが本書の売りのようですが、見方を変えれば記述がやや冗長かなという印象です。また、引用されている事例から引き出される説明についても、探せばもっと適切な事例は他にあったのではないかと思ったりもしました。
本書で取り上げられていた印象的な逸話を紹介しておきます。
「二人の靴のセールスマンがいた。セールスマンたちは同じある南の島に派遣された。二人がそれぞれ本社に連絡をした。
一人のセールスマンは連絡した。「この島の靴の市場は非常に有望だ。なぜなら住民は誰も靴をはいていない」
もう一人のセールスマンは連絡した。「この島の靴のマーケットは絶望的にありえない。なぜなら住民は誰も靴をはいていない」」
この逸話から得られる教訓こそが、本書の主旨を端的に表しています。