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六六「上海、かたつむりの家」

上海、かたつむりの家

上海、かたつむりの家

 久々に面白い本に出会いました。土地バブルの中で拝金主義と官僚汚職にまみれる上海を舞台に、時代に翻弄されながら生きる人びとの姿を滑稽に描いた作品です。今の中国社会の問題点もパッと理解できるし、エンターテイメントとしても非常に良くできています。

 地方出身の海萍(ハイピン)と蘇淳(スーチュン)の夫妻は、上海で仕事を得るが、家が狭すぎて息子を上海に呼び寄せることができないため、海萍は蘇淳に対し、お金をかき集めてマイホームを建てることを主張しているが、上海の地価の急激な高騰により、相当なお金が必要であった。海萍の妹の海藻もフィアンセの小貝と結婚間近であったが、姉の海萍のマイホームのための資金を得ようとするうちに、政府役人の宋思明(ソンスーミン)との不倫関係にのめり込んでいく。宋思明は権力を使って蓄財をしており、それを愛する海藻のために惜しみなく注ぎ込んでいた。
 ある日、海萍の夫の蘇淳は、産業スパイの疑いをかけられる。これを知った宋思明は強力なコネクションを使って蘇淳の罪を晴らしたばかりでなく、蘇淳をライバル会社との提携の功労者に仕立て上げてしまった。
 海藻と宋思明の不倫関係は互いのパートナーに知られるところとなり、海藻は小貝との関係がうまくいかなくなり、宋思明も妻から離婚を迫られる。
 やがて、海藻は宋思明の子供を妊娠する。周囲の反対を押し切って産もうとするが、これを知った宋思明の妻が海藻の下を訪れ、小競り合いの中で海藻は流産してしまう。他方、宋思明は政治闘争の中で重大な疑惑をかけられ、捜査が身辺に迫っていた。海藻の流産の一方を受けた宋思明は、海藻のもとに駆けつけようと車を走らせるが、その後をパトカーが追っていた。宋思明は交通事故に合い、命を落としてしまう。。。

 この小説の中には、現代中国沿岸部における社会の歪みが凝縮されています。バランスを欠いた物価・地価の高騰、人びとの度を超えた拝金主義、政府官僚の腐敗等々。本の帯に“「太事実了”(=あまりにリアルすぎる!)という文字が躍っていますが、あながちはずれていないような気がします。そんな社会の中で懸命に生きながらも、社会の歪みの中に落ち込んでいってしまう登場人物たちの姿はとても滑稽でありけなげでもあります。

 物語としても大変良くできており、ぐいぐいと引き込まれてしまう迫力があります。そして、最後の哀しい結末には思わず言葉を失ってしまいます。

 急速な発展を遂げる中国社会の矛盾を一目で理解しようと思えば、本書を読むに限ります。それほどリアル感溢れる物語となっています。