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「ファウスト」★★★☆

ファウスト [DVD]

ファウスト [DVD]

 ご存じゲーテファウストソクーロフ監督が新たな解釈で映画化したものです。ソクーロフ監督の作品ということで、おそらく難解な作品であることは想像できたのですが、案の定そして予想以上に難解な作品でした。

 あらゆる学問を修得したファウスト博士が、悪魔と呼ばれる高利貸しミュラーの下を訪れ、ミュラーに導かれるうちに、美少女マルガレーテと出会い、一目惚れをしてしまいます。ところが、ある酒場でファウストマルガレーテの兄を刺殺してしまいます。ファウストはマルガレーテをものにしたいという気持ちが抑えられず、ミュラーに魂を渡す契約にサインし、一晩だけマルガレーテを手に入れますが、その後、ミュラーと共に逃避行している最中にミュラーを殺してしまい、一人で荒涼とした大地に投げ出されてしまう。。。という内容です。

 ソクーロフ監督はこれまで、ヒトラー(『モレク神』)、レーニン(『牡牛座 レーニンの肖像』)、昭和天皇(『太陽』)を取り上げた作品をそれぞれ撮ってきていますが、今回の作品はそれらに続く権力者を扱った第4作目の作品として位置付けられます。エルミタージュ美術館の中をノーカットで撮影した『エルミタージュ幻想』もそうですが、いずれも商業主義から一定の距離を置き、精神の内面をえぐるような奥深い作品です。
「エルミタージュ幻想」★★★★ - loisir-spaceの日記
「太陽」★★★★ - loisir-spaceの日記

 この作品に対しては、プーチンもロシア文化を売り出すために資金面で協力をしており、2011年のヴェネチア国際映画祭でグランプリを獲得した際には、プーチンが即座にお祝いの電話を寄越したとのこと。ソクーロフはそれまでプーチンのファンではなかったものの、この支援を受けてからプーチンに感謝しているようです。

(参照)
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/features/alexander-sokurov--the-russian-auteur-and-his-faustian-pact-with-putin-6267468.html

 ソクーロフは、文化は娯楽でなく、社会が発展するための基礎だ、という考え方を述べているようですが、今回の『ファウスト』の作風を見ても、ソクーロフの信念が非常に伝わってきます。

 正直、最後まで集中して見ることが難しい作品であることは認めざるを得ないのですが、その一方で、現代商業主義が蔓延する映画界の中で、こういう監督の存在は大変貴重です。