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映画、書評、ジャズなど

台湾訪問記

旅行記

 今回、初めて台湾を訪問する機会がありました。最近は台湾企業が日本の家電大手企業と提携したことから、台湾の高い技術力に改めて注目が集まりましたが、台湾企業は表には名前が出てこないものの、多くのIT機器を実質的に設計・製造している企業が数多く存在しています。また、今、日本企業の間では台湾ブームというべきほどに台湾に対する関心が高まっています。中国マーケットへの進出に向けて、台湾企業と連携するというパターンが功を奏しているケースが増えているからです。昔から親日的な地域でもあり、このタイミングでの訪問は時宜を得たものでした。

台南

 台南は台湾の南部に位置し、古くから発展してきた都市です。古い廟が点在する一方、郊外にはサイエンスパークが設置されており、日本企業を含む多くの先端企業が集まっています。近年、台湾高速鉄道台北から高雄まで開通したので、台北との距離はぐっと縮まっています。台湾高速鉄道の駅は市街地からだいぶ遠く離れています。
 ちなみに、台湾高速鉄道に乗っていると、日本の新幹線に乗っているかのような錯覚に陥ります。座席の配置、電光掲示板の表示、どれをとっても日本の新幹線車両そのものですが、それもそのはず、台湾高速鉄道の車両は日本企業によるものです。

 朝方、台南の市街地を散策してみました。気がつくのは、台湾の街が非常に歩きやすくできていることです。建物が道の上にせり出して建てられており、雨が降っていてもあまり濡れずに歩くことができるのです。

 この点は台北でも同様です。これが違法建築なのかどうかは定かではありませんが、結果的に見れば、街づくりとしては好ましいものとなっています。
 台湾府城隍廟、祀典武廟、大天后宮と廟をたて続けに訪れてみました。



 朝早かったせいか、それほど多くの人びとがいたわけではありませんが、地元の熱心な方々がお参りに訪れていました。
 その後訪れたのが赤カン楼です。かつて台湾を占領していたオランダによって建てられたものです。ちなみに、オランダを台湾から追い出したのは鄭成功ですが、鄭成功は日本の平戸で日本人を母親として生まれましたので、日本との縁が深い人物です。

 台南の中心部には三越デパートがあります。試しに店内をぐるっと回ってみましたが、日本の値段とさほど変わらないという印象を受けました。一般に台湾の物価が日本よりも安いことを踏まえれば、それだけ裕福な層が増えてきているということなのでしょう。

 台南駅のすぐそばにあるシャングリラ・ホテルも立派な建物で、ロビーも天井が高くて、とてもリラックスできるホテルとなっています。

 台南の食の名物といえば担仔麺(タンツィミェン)です。『度小月担仔麺』という台南でも比較的有名な店で味わってみました。思ったよりも小さな器で出され、汁が少ないラーメンといった感じです。食べてみると、ニンニクの風味がかなり前面に出ているなぁという印象です。決して嫌いな食べ物ではないのですが、台南の名物になるほどの料理かといわれれば、少し疑問を感じてしまう面もあります。正直、それほどの感動はありませんでした。

台北

 台北の空港は2つありますが、松山(ショウザン)空港の方は市街地からほんのすぐそばに立地している極めて交通の便が良い空港です。今回降り立ったのは松山空港の方でしたが、国際空港としては大変小さな空港です。街中まではタクシーで15分くらいで出ることができます。

 台北の街を走っていて思うのは、日本の都会の風景と似ているなぁということです。ビルの外観、高速道路のつくり等々、まるで東京の台東区辺りを走っているかのような錯覚に陥ることもあります。

 もう一つ、日本と似ているのは、女性の服装や化粧です。街を歩く台湾の若い女性を見ると、日本人の美的感覚にとてもマッチしているような気がします。もう少しストレートにいえば、日本人として見ても「かわいい!」と思えるような女性が多いのです。おそらく日本のファッション事情が大きく影響しているという面もあるのでしょう。正に「クール・ビューティー」を体現しているような感じです。

台北のタクシー

 台北のタクシーは極めて感じが良いという印象です。料金も極めて安いです。タイのバンコクのタクシーとは違って、法外な料金をふっかけられることはありません。こちらから何も言わなくても、ドライバーはメーターで対応してくれますので、余計な神経を使わなくて済みます。チップを要求されることもありませんでした。誤解を恐れずいえば、日本のタクシーよりも気持ちよく乗車できる印象です。もちろんアメリカのタクシーよりも素晴らしいことは言うまでもありません。
 考えてみれば、タクシーというのは都市にとって欠かせない重要なインフラです。それがきちんとしているということは、都市にとってもの凄いソフトパワーなのではないかと思います。地味な部分ではありますが、台北のタクシー・インフラは台北の魅力を大いに高めているのではないかと思います。

TAIPEI 101から見た風景

 アジアの他の都市と同様、台北には近代的な時間と前近代的な時間の2つの時間が流れているような気がします。前者の近代的な時間が流れる場所の代表がTAIPEI 101でしょう。

 孤独に天に向かってそびえ立つこの高層ビルは、今では台北のシンボルとなっています。展望台にのぼると、台北の街が一望できます。

 TAIPEI 101の展望台から市内を一望して感じるのは、古くからの住宅地に加え、高層マンションが中心部からすぐ近いところに数多く建っていることです。台北の地価は近年高騰しているようですから、こうしたマンションもかなりの高額な家賃であると推測されます。それだけ富裕層が増えてきているということなのでしょう。
 台湾は一見するとあまり貧富の差がないようにも見えるのですが、地元の方に聞くとやはり貧富の差が出て来ているとのことです。しかし、台湾では収入が少なくてもある程度の生活はできそうです。公共交通機関の値段も安いですし、食料品も安く手に入ります。地元の方に紹介してもらったラフな居酒屋風のお店でたらふく食べてそこそこビールを飲んでも、1人当たりの料金は日本円で千円にもいきませんでした(写真は18日が賞味期限という生ビールです)。

 安いタクシーが都市の重要なインフラであるのと同様、安い外食というのも都市の重要なインフラといえるでしょう。そういう意味では、日本でもこうした都市のインフラがもう少し充実してもよいのではないかという気がしました。

 ところで食といえば、鼎泰豊(ディンタイフォン)の小龍包を食べてきました。この店は日本でもチェーン展開されているなど大変有名な店ですので、本店には大勢の日本人観光客が押し寄せていました。
 確かに小龍包はおいしかったのですが、個人的には、デザートとして食べたタロ芋の小龍包が、ほどよい甘さで印象深かったです。この店を訪れたら是非食していただきたい一品です。

龍山寺の朝の風景

 台湾の近代的な時間の象徴がTAIPEI 101だとすれば、前近代的な時間の象徴は龍山寺かもしれません。

 朝の龍山寺に行ってみると、そこは大勢の参拝客で賑わっていました。大勢の参拝客が黒い衣装に身を包み、本堂を遠目に取り囲むようにして、本堂から聞こえる歌のようなお経を奏でています。厳粛な中にもどこか明るい雰囲気が漂っているのが印象的でした。

国立故宮博物院

 台北に来たら見逃せないスポットはやはり国立故宮博物院でしょう。市内からタクシーで行ってもそんなに値段はかかりません。中心部からややはずれた場所に巨大な建造物が佇んでいます。ここにかつて国民党政府が中国本土から持ち込んだ数多くの貴重な財宝が存在しているわけです。展示されているものだけでも相当な数にのぼりますが、展示が3ヶ月に1回入れ替えられ、全部見るのに8年かかるというのですから驚きです。

 この博物館の一番の象徴は『翠玉白菜』と題された翡翠の作品でしょう。
http://www.npm.gov.tw/ja/collection/selections_02.htm?docno=1244&catno=16&pageno=2
 ミュージアム・グッズもこの白菜をかたどったものが数多く売られています。実物を見てみると、思ったより小さな作品で、精巧にキリギリスなどが彫られています。
 その隣にあるのが『肉形石』です。これも翡翠の作品で、豚の角煮をかたどったような作品です。確かによくできているとは思いますが、正直、大騒ぎするほどのものかどうかについてはよく分かりませんでした。

 そのほか印象的だったのは、象牙の彫り物で、球の中に何重にも球が入った精巧な彫り物です。オリーブの種に極めて細かく彫られた『彫橄欖核舟』という作品もその職人技に圧倒されます。

 ただ、陶磁器などは、歴史的価値はあるのかもしれないものの、芸術性という意味では今ひとつピンとこないというのが正直な感想です。例えば、汝窯で焼かれた『青磁無紋水仙盆』という作品。
http://www.npm.gov.tw/ja/collection/selections_02.htm?docno=796&catno=18
 汝窯の作品が歴史的に重要であるのは分かるのですが、この作品のどこが素晴らしいかを論評するのはなかなか難しいです。

 中国の古代から清の時代に至るまで、幅広い時代の貴重な作品が展示されているというのは分かるのですが、この博物館をどう楽しむかは何回か見ないと分からないかもしれません。それにしても、これだけの歴史的価値の高い作品が収蔵されている博物館は大変魅力的であることには違いありません。台北を訪れるたびに足を運びたくなる博物館です。

 写真は故宮博物院のそばの士林の夜市です。原宿の竹下通りのようなイメージですが、正直、あまり買いたいと思うような代物はありません。一度行けばもういいという程度のマーケットです。

中正紀念堂

 蒋介石を称えたスポットです。蒋介石の死後に建造されたものですが、その巨大さには圧倒されます。館内には蒋介石にまつわる数々の写真や愛用品等々が展示されています。

 ところで、蒋介石の写った多くの写真には、一人の女性が写っています。それが宋美齢であることは言うまでもありません。宋姉妹については以前のブログでも取り上げました。
http://d.hatena.ne.jp/loisil-space/20091101/p2

「昔、中国に三人の姉妹がいた。ひとりは金を愛し、ひとりは権力を愛し、ひとりは中国を愛した・・・・」

というフレーズに象徴されていますが、金を愛したのが財閥の子息と結婚した長女の宋靄齢(あいれい)、権力を愛したのが蒋介石と結婚した宋美齢(びれい)、そして中国を愛したのが孫文の夫人である宋慶齢(けいれい)です。

 中正紀念堂における展示でも宋美齢の存在感が大きいことに気付かされます。宋美齢蒋介石に寄り添っている写真が数多く展示されています。宋美齢がカイロ会談でルーズベルトチャーチルと肩を並べて写っている写真も展示されていますが、蒋介石の通訳でありながら正確に通訳しているのか自分の言葉でしゃべっているのか分からなかったといいます。それだけ自らも政治に深く関与していたことを象徴しています。

 この中正紀念堂では有名な見所があります。それは衛兵の交代式です。蒋介石のでっかい銅像の前には、向かい合った二人の衛兵が微動だにせず警護しています。この2人の衛兵が交代する際に、大変規律正しい儀式が施されます。汗だくになりながらも精密時計のような正確さで衛兵らが粛々と交代する様子は確かに見ものです。台湾においてはいまだに軍事の重要性は高いわけですが、こうした軍隊的な儀式は台湾の置かれた国際的な立場を象徴しているといえるでしょう。

台湾総括

 台湾はその歴史的経緯もあって極めて親日的です。日本語をしゃべる方も数多くいます。地名も日本由来の地名が多く見られます。現在の総統府もかつて日本が建設したものです。

 台湾の方も日本とのつながりを喜んで話題にあげてくるのですが、正直、どう反応してよいのか戸惑ってしまうこともあります。日本が敗戦した後、台湾には本土から国民党政府軍が入ってきたわけですが、国民党政府軍の行動があまりにひどかったため、日本統治時代が良き時代として捉えられているという面もあるでしょう。もともと台湾に居住してきた本省人と新たに中国本土から移ってきた外省人との間に対立が起こり、1947年には2・28事件が勃発します。街の中心部には2・28事件にちなんだ公園も整備されています。

 こうした対立関係が却って日本に対する好意を生み出しているという側面もあると思われます。台湾社会内部には複雑な構図があり、普段は平穏そうに見えても、選挙になると国民党と民進党との間に激しい対立が浮き上がってくるのです。

 こうした台湾社会内部の構造を理解していれば、日本人にとって台湾ほど付き合いやすい外国はないでしょう。

 また訪れてみたいと思わせる魅力に尽きない場所でした。